お披露目パーティー ④

「ウルリカ様、とてもお似合いですわ!」

「本当にまるで天使様か何かのようですわ」





 僕はオペラ隊に混ざるために着替えを済ませ、髪も先ほどとは違う感じに整えてもらった。それを見たオペラ隊の人たちは嬉しそうに笑って似合っていると笑ってくれる。

 真っ白なオペラ隊の服。それには金色の刺繍が入っていて、とても神秘的な雰囲気の衣装。確かに純白な衣装だから、天使を連想させるのも分かるかもしれない。

 特に僕はとても可愛いから、こういう服を着ると天使を思わせるのも納得だよね。

 僕をうんと可愛くしてもらって、なんというか、凄く周りから目を引く形になっていると思う。








「皆も凄く似合っているよ。こういう服を着て歌えるのっていいよね」








 オペラ隊にいるのは女性だけではなくて、男性も当然いる。男性陣もちょっと女性的な人が多いというか、線が細い人が多い。全員歌に対して情熱を持っていて、僕はそういう熱い気持ちを持っている人はいいなぁと思う。全員、僕では追いつけないぐらい歌が上手い。それだけ長い間、歌うという活動に時間をかけていたんだなというのがよく分かる。





「皆はこういう公の場で歌うことには慣れているの?」

「私は二回目です! だから緊張してますが、ウルリカ様と一緒に歌えるかと思うと楽しみな気持ちの方が強いです」








 僕より少しだけ年下の女の子は、そう言ってにこにこと笑っている。

 僕と一緒に歌うから、緊張よりも楽しみの方が強いって可愛いね。なんだか妹が居たらこういう感じなのかなと思う。






「そうなんだね。僕も初めてのことで少し緊張しているんだ」

「聖女であるウルリカ様でも緊張するんですか?」

「うん。僕でも緊張するよ。僕にとっても人前で歌うことは初めてのことだからね。だから僕は柄にもなく緊張しているよ」






 聖女として初めて人前に立った時も僕は緊張していた。だってその時の僕はただの孤児からいきなり聖女になった存在だったから。でも周りにとっての理想の聖女としての枠組みを周りが固めてくれていた。




 僕はその通りに振る舞えばよかったから、楽と言えば楽だった。いつの間にか聖女として生きていくことが僕にとっては当たり前になって、途中から緊張なんてしなくなっていたけれど。

 帝国にきて自分の意思でやりたいことを決めて、歌うのだ。だから、余計にちょっとドキドキしている。






「そうなんですね。ウルリカ様は練習でもずっと頑張ってましたから! そんなウルリカ様なら本番だって問題ないです」

「そうですよ。ウルリカ様の歌はとても素敵です。エブルーラ先生だって認めている歌声ですから」






 そんな風に僕に向かって周りは言ってくれて、嬉しくなった。




「うん。皆も凄く素敵だよ。皆の歌は凄いんだからね」






 今回は聖女である僕のお披露目パーティーだ。その場で僕がオペラ隊に参加するから僕の方に注目は集まるかもしれない。僕のことをほめたたえる人も多いのかもしれない。でもそれはあくまで僕が聖女だからというだけであって、僕よりも周りのオペラ隊の子たちの方が凄い歌を歌うからね。




 僕の言葉に皆が笑ってくれる。

 そうやって話しながら、最後の準備を進めていく。

 お披露目前の調整は大事だからね。こうやって準備を進めるのも楽しいよね。






 ――そうして、僕らが歌をお披露目する場がやってくる。




 僕は披露する曲数は皆よりは少ない。流石に全てを歌うのは今の僕では難しい。だから出来そうなところだけ交ざらせてもらうことになっているのだ。






 最初は帝国で最も有名な聖歌を歌うんだよ。

 オペラ隊と同じ服装で僕が姿を現すと、「可愛い」という声が沢山聞こえてくる。

 僕はそんな風に言われるのが嬉しくてにこりと笑った。それから指定の場所に並んで歌を歌う。






 緊張してか、歌い始めは少し失敗した。でも気を取り直して励んだ。一生懸命歌っていると、あっという間に時間が過ぎる。






 一曲目が驚くほどにすぐに終わって、僕はびっくりした。

 二曲目も続けて歌う。それは明るい曲調の晴れを祝う歌。雨が降り続けた後に、快晴になったことをそれだけ喜ばしく感じたから産まれた歌なのだろう。

 その後は一旦僕は休憩に入る。






 流石にずっと歌い続けるのは、僕にとってはまだまだ難しかった。

 何曲分かは、少し休憩。

 その間、オペラ隊の子たちはずっと歌っていて、凄いと思った。






 時折かわるがわるにちょっとした休憩はしているっぽいけれど、基本的に休みなく動いている。そういうの凄いよね。

 皆、やる気に満ち溢れていてキラキラしている。






 色んな歌を、表現しているのだ。同じ人でこれだけ歌い訳出来るんだなとびっくりする。僕も同じように色んな表現が出来るように出来たらきっと楽しいだろう。そういう風になりたいなと僕は思う。




「よし、頑張ろう」






 少しだけ休憩して最後の方で僕はまたオペラ隊に混ざる。不自然にならないように交ざるとまた会場内が沸いた。






 僕が現れるとそれだけ喜んでくれるのは嬉しいことだ。

 次の曲は僕がお気に入りでもあるサシャを崇める歌。皇族たちへの敬愛を込めたその歌はサシャに凄くぴったりだから。

 僕はこの歌は他の曲よりもずっと練習していたから、気合を入れて歌う。

 サシャの方をちらりと見たら、サシャが笑っていた。

 それが終わった後に最後の歌を歌う。これはね、僕に関する歌。というか、この帝国にかろうじて伝わっている聖女に関する歌っぽい。大分昔に作られたのだろうなというのが分かる。

 歌を歌うことは楽しくて、僕は歌い終わった後に達成感に満ちていた。










「ウルリカ様、とても素敵でした!」

「皆、ウルリカ様に夢中になったはずです」

「ウルリカ様、お疲れ様でした」








 周りを囲うオペラ隊の子たちが笑ってくれる。




「皆も凄かったよ。僕だとこんなにたくさんの歌をずっと歌うの難しいなと思うもん。何曲も歌い続けるのは疲れることだと思うけれど、それをやりきれるの本当に凄いと思うんだ」








 本当に凄い。

 これだけ長い間歌い続けて、それでいて素敵な歌を届けている。

 王族貴族たちの前で歌を歌うのもきっと度胸がいることで、それを成功させているというだけでも本当に素晴らしいことだもん。

 僕が褒めると嬉しそうに笑っている皆を見て、僕も嬉しくなった。








 僕らがそうやって会話を交わしていると、オペラ隊の控室の中へとサシャが入ってくる。






「ウルリカ、お疲れ様」

「サシャ! パーティー中なのに来てくれたんだ」






 サシャが現れると、皆が跪く。僕が駆けよればサシャは笑っている。

 今はパーティー中なのだけど、サシャは僕に会いにきてくれたみたい。








「ああ。問題がない。それにしてもウルリカ、とても良きものだったぞ」

「ありがとう! 僕、凄く頑張ったんだ。僕ね、もっと歌を上手く歌えるようになりたいな」








 もっと歌が上手くなりたいな。上手に歌えるようになって、サシャに向ける歌を作りたい。後はブリギッドに向けた歌も作れるようになりたいかも。そうやって先のことを考えるとワクワクしている。






「うむ。我はウルリカの歌が上達するのを楽しみにしておる」

「今はね、僕はまだ沢山歌い続けることは出来ないけれど、練習したらもっと歌えるようになると思うから。そうなったらこういう場じゃなくてもいいけれど、サシャにだけ向けて歌い続けるとかも楽しいかも!」

「それも良いのぉ」

「ね! そういうのもきっと楽しそうだよね」








 僕が先の話をすれば、サシャは楽し気に笑っている。




 それから少し喋って、僕らはパーティー会場に戻ることになった。……のだけど、戻った時に会場内がどこか騒がしかった。


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