お披露目パーティー ②
「あれが聖女様……」
「本当に男だと思えないぐらいに愛らしい」
「陛下とお揃いだわ」
静まり返った場に一斉に声が戻る。
サシャよりも僕のことを話している人が多いのは、僕が帝国でパーティーに参加するのが初めてだからかな。
他国の要人たちは僕の顔を知っている人は少なからずいる。王国でも聖女として必要なパーティーには参加していたからね。とはいえ、僕が直接会ったことのない人の方が圧倒的に多いけれど。
あの国では何処までも聖女という存在が特別だったから、僕が表舞台に立つことって必要な場でだけだった。パーティーでの参加の意思も僕に決定権があるわけではなく、あくまで上が決めた通りの日程を過ごしていた。
あとは食べるものとかに関しても細かく取り決められていたし。
僕を初めて見る人も多いからか、余計に騒がしいのかも。
「この者が我が国の聖女となったウルリカである」
サシャからそうやって紹介されたので、僕はにっこりと笑って自己紹介をする。
「はじめまして。僕はウルリカ。これからこの帝国で過ごしていくつもりだから、よろしくね」
にっこりと笑って、まずは好感度を稼いで置く。
むすっとしているよりこうやって笑っている方が第一印象は良いはずだからね。
とはいえ、僕という存在自体を気に食わないなんていう人には通じないけれど。
最初が肝心だよねってことで、そのまま僕は障壁を使ったパフォーマンスに映る。
障壁というのは所謂見えない壁だ。まずは、障壁の鉄壁ぶりを分かってもらおうと、ナイフ投げのようなコーナーを作った。的になるものは僕が障壁で囲ってしまっているので、まず破られることはない。
「この的となっているりんごの周りには僕が障壁を張っているんだよ。だから、誰も的にナイフを当てることなんて出来ないよ」
僕がそう口にすると、急に顔つきが変わった人が何名も居た。
そういう人たちは腕自慢の人たちなのだと思う。帝国はサシャが強くて、戦える人だからなのか、そもそもそういう性格の人が多いのか、武道を嗜んでいたり、実際に戦争で表に立って戦う人というのはそれなりに多いようだ。
そういう自分の強さに自信を持っている人たちからしてみれば、僕が聖女であり、障壁を張っていたとしても自分ならば的にナイフを当てることが出来ると考えているのかも。
あとはそうだね、僕のことを本当に聖女なのかと思っている人たちもいるかも。帝国には聖女はいなかった。それでいて王国のように聖女信仰が盛んなわけでもない。
だから聖女という特別な存在を話では知っていても、実際はどうなのか知らない人はそれなりにいるのかもしれない。帝国の平民たちはサシャの決定だし、聖女という存在が国に居た方がいいとそのまま喜んでいる。
でも貴族たちは他にも気にするべきことがあるから、色々考えているのかなと思う。
サシャの決定をそのままなんでも受け入れるような人たちもいれば、サシャのことを慕っているからこそ心配している人たちもいるようだ。あとは数少ないけれどサシャのことを面白く思ってない人とかも。
僕はナイフ投げに参加しようとしている人たちを見ながら、時折周りを観察する。
サシャは割と突拍子もないことを行うタイプの女帝だから、こういう風に突発的にナイフ投げとか初めても皆、受け入れている。文句を言っている人もいるけれど、あの人はどういう立場の人かな?
僕はそんなことを考える。
そうしていると、目の前でナイフ投げが始まる。
それに並んでいる人たちは自分ならば聖女を名乗る僕の障壁だろうとも壊せるのではと思っている。僕が聖女であることを疑っているからというよりも、僕が聖女であろうともそんな障壁は壊せるはずだと思っているのかも。
凄く自分の力に自信満々な人たちみたい。
サシャでも壊せないような障壁を自分ならば壊せると思っているなんてすごいよね。
それにしても周りに飛び火しないようにしているとはいえ、普通に投げたのでは上手くいかないからって魔力を込めたものを投げつけていたりと面白いなぁ。
それだけ僕の障壁が壊せなくて、悔しい気持ちでいっぱいなのかもしれない。
「皆、悔しそうだね」
「幾ら聖女の作った障壁とはいえ、自分ならば壊せるとそう思って居るのであろう。ウルリカのように愛らしい顔立ちをしている者が作ったものを壊せぬのが悔しいのであろうな」
「サシャも僕の障壁、壊せるようになりたいって言ってたもんね」
「うむ。我もいつかウルリカの障壁を打ち破れるぐらいにはなりたい」
「僕は逆にサシャに打ち破られないように訓練するね。ちょっとした勝負だよね」
周りに沢山人が居る中で、サシャと二人で楽しく会話を交わす。
僕の障壁をサシャも壊せないことは今、ナイフ投げに挑戦している人たちにはまだ秘密である。なのでちょっとこそこそと会話をしている。
パーティーに参加しているサシャは、化粧も施している。益々綺麗で、そんなサシャのことを間近で見れる僕は幸せ者だなと思う。
そんなことを考えながらナイフ投げを見ていたのだけど、最初から想像していた通り誰も僕の障壁を打ち破ることなど出来なかった。中のりんごは無傷で、そこに刃が届いた人は一人も居ない。
「この障壁はサシャも打ち破ることも出来ない、鉄壁のものなんだ。だから皆がどうにか出来ないのも当然だよ。これは僕の聖女としての力の一端なんだ」
僕がサシャにだって打ち破れないというのを口にすると、周りはざわめいていて僕を見る目がまた変わる。
僕が見た目が可愛いだけではなくて、そういう力を持ち合わせているというのを実感したからなんだろうな。
こういう障壁の一つでこうなのだから、他にも癒しの力だったり、ブリギッドに関することだったりを色々合わせるともっと見る目が変わりそうだなとそう思う。
それから僕は参加者たちに囲まれ、挨拶をされる。隣にサシャがいるからそこまで大変なことにはなっていないけれど、これだけ多くの人が僕に挨拶をようとしているんだなと思うと楽しい気持ちになった。
僕が王国で女性として過ごしていたことに対して、何か言ってくる人もいたけれどサシャが睨みつけるとすぐに去っていた。うーん、サシャが隣にいる状況でそういうことを言おうとする段階で中々頭の足りない人だよね。
貴族令嬢の子は、「どうやったらそんなに肌がきれいになれるんですか?」などと聞かれたけれど、僕は特にこれといって特別なことはしていない。聖女として過ごしていたから手入れはちゃんとしてもらっているとは思うけれど……。
そんな風に言ったら凄く羨ましがられた。
僕にばかり聞くけれど、サシャも肌とか凄く綺麗なんだけどなぁ。やっぱりサシャに話しかけるのは恐れ多い感じなのかな? 僕の方が話しかけやすい雰囲気があるのかもしれない。
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