お披露目パーティーの話を聞く
僕は歌を歌いながら、今、ちょっと走っている。
これは僕の体力が皆無だから。もっと体力をつけるために、走らせてもらっているのだ。
もちろん、一人ではない。ウィメリーとトウリウスは護衛として傍にいるよ。ちなみに少し鼻歌を口ずさみながら歌っているのは、その方が楽しいと思っているから。
でも僕の体力がなさすぎて、休憩もよくはさんでいる。
でもなんだか最初よりも体力ついてきた感じがして嬉しい。思いっきり走るというのも聖女らしくないって言われていたからね。孤児院に居た頃は、走り回るだけで怒られるような環境だったから、目立たないようにしていたし。
思いっきり汗をかくのも気持ちが良い。
「ウルリカ様、あまりペースをあげすぎませんように」
「うん!」
最初、走り始めた頃、僕はペース配分など全くしておらず、翌日足が痛くて仕方がなかった。今まで使ってなかった筋肉を一気に使ってしまったからだってそんな風に言われた。
確かに僕は全然走り回るなんてことはしていなかったけれど、だからといってちょっと走り回っただけで翌日使い物にならなくなるなんてとちょっとショックだった。
でもサシャに走り込みを続ければそういうこともなくなるって言われたから走っているんだ。こう考えると騎士の人たちって訓練の中で体力をつけるために走り回っていたりして凄いよね。
こういうことを毎日のようにやっているってことだもんね。
サシャも僕と一緒に走っていることがよくあるけれど、サシャってば僕が疲れていても余裕そうな顔している。本当に余裕なんだろうなって思うけれど、それで僕も体力つけようと思った。
今度デートに行くときに、おんぶされずに済むようにしておいた方がいいと思うしね。
ワゼラギが調整してくれた魔法剣ももう引き取ってあるんだ。それの使い方もサシャが教えてくれていて、そういうのもなんだか楽しい。
自分だけの武器を持つとなんでこんなに妙にわくわくしちゃうんだろうね。
僕でも持ち運びが出来るような小さめの魔法剣だから、常に持っているんだ。こういうのは有事の時に持っておこうとするのでは間に合わなかったりするからね。最初はずっと持ち運んでいるの慣れなかったけれど、今は自分の体の一部ってぐらい馴染んでいたりする。
「ウルリカ様、こちらを」
「ありがとう。トウリウス」
僕が水分を欲したころにさっと飲み物を用意してくれるトウリウスじゃとても有能だと思う。というか、ウィメリーもトウリウスも周りのことをよく見ているというか、本当に凄いと思う。
ごくりっと飲み物を飲むと、幸せな気持ちになる。
なんというか疲れているからこそ、体にしみわたっていくというかより一層美味しく感じるんだよね。
飲み物を飲んで少し休憩した後、僕はまた走り出す。
城の敷地内を元気よく走り回る僕は、その最中に色んな人に会う。皆、僕に会えると嬉しいのかにこにこしている。
よく差し入れのお菓子とかもくれたりするんだ。僕は聖女だから毒とかそういうものは効かない。でも僕が酔っぱらっていたことからも分かるようにああいうものは効いてしまうので、ちゃんと周りが調べてからそれらのお菓子は僕がようやく食べられる。
あれだね、即死するほどの毒とかはおそらく効かないのだけど、簡単なものなら多分効いちゃう感じかな。僕自身もそこまで詳しく自分のこと把握出来ているわけではないけれどね。
基本的に障壁を張れば誰かが僕に手を出すことなんて出来ないと思うけれど、それでももし酔っぱらっている時などに手を出されたら大変だもんね。
城に仕える侍女たちの中にもお酒で失敗した人っているんだって。僕にね、「そういうことが起こると大変なことになりますから」って実体験を交えて教えてくれたんだ。
なんていうかお酒の過ちで特に好意も抱いていない相手と一夜を共にすることになり、その後、付きまとわれて大変だったって言っていた。
体の関係を持つなんてことになるとそういうことが起こりうるそうなのだ。なんだろう、そうすると自分の物みたいに勘違いしてしまうってことなのかな……。僕が恋人とか居たことないって言ったから、皆心配してそういう悪い人に騙されないように色々教えてくれたのだ。
王国に居た頃も僕に一方的に好意を抱く人は居たけれど、全員上手く交わしていた。帝国ではそういう面倒な感じの思いは向けられてはいないけれど、そういう人からそういう気持ちを向けられて面倒なことにならないようにはしないとね。なるべく自分で解決するつもりだけど、無理ならサシャの力も借りないと。
そんなことを考えながら、気持ちよく走っていると、
「ウルリカ、少しいいか?」
サシャがいつの間にか近くに来ており、僕に向かってそう問いかける。
僕はサシャを見つけると、すぐに走るのをやめる。サシャが居たのは僕の進行方向と逆の方だったから、サシャの方を向いてそちらに駆けだす。
「サシャ!」
サシャがやってきたことが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
サシャは忙しいはずなのに、僕やブリギッドの傍によくいてくれる。何か用事があった時に使いをよこすだけでも問題がないはずなのに、サシャは自分の足で僕に話しかけに来るのだ。
うん、それも嬉しいことだよね。
「今度、ウルリカのお披露目パーティーをしようと思うのだが、どうだ?」
「お披露目パーティー?」
「ああ。ウルリカは我が国に聖女としてとどまるだろう。それならばお披露目をして牽制しておいた方がいいと思っておるのだ。それに我もウルリカとパーティーに参加したい」
僕のお披露目パーティーをしたいらしい。でも確かに僕は帝国にやってきたわけだけど、まだそういうパーティーなどに参加していなかった。
この帝国で聖女として生きていくのならば、パーティーに参加していた方がいいとは僕もおもう。周りとの交流を深めた方がこれからのためにもなるだろう。
「僕もサシャと一緒に参加したい!」
それになにより、サシャが僕とパーティーに参加したいと言ってくれたことが嬉しかった。
だから僕は二つ返事でそう口にした。
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