サシャの歌を聞いて楽しくなった
「ウルリカよ、歌の授業はどうだ?」
「とても楽しいよ! 僕、元々歌うことは好きだなって思っていたけれど、こうして色々習ってみると益々楽しくなったの!」
僕は今、ブリギッドと一緒にサシャの執務室に居る。
今日はちょっとした僕たちの出来るお手伝いをしているんだ。こうやってお手伝いを進めるとそれに見合った報酬をもらえる。
ブリギッドは「人のお金なんてもらっても使わないかも」と言っていたけれど、僕が一緒にお出かけをしようって言ったら喜んで受け取るようになった。
ブリギッドは自分で買い物をするというのを精霊だからこそしたことはないそうだ。というか、ブリギッドはどちらかというと周りから貢がれる側で、そういうものはただで手に入るものだったから。
とはいえ、僕と一緒に買い物に行くのは楽しそうと思ったらしい。
書類に目を通しているサシャと僕は話している。
「それは良かったのぉ。エブルーラもウルリカのことを褒めておった。教え甲斐のある生徒だとのぉ」
サシャからそんな風に言われて、嬉しい。
そういえばサシャに捧げる歌に関しては、まだまだ手を付けられていない。だって僕はまだ基礎が出来ていないからね。もっと基礎を学んで、歌の作り方みたいなのを学んでからじゃないと取り掛かれないんだよね。
ちなみに僕がサシャに対して歌を捧げたいって言っているのは一部には知られているけれどそれ以外には秘密にちゃんと出来ている。サシャにもまだバレてないみたいでほっとする。
「僕の知らない歌も沢山教えてもらえてね、凄く楽しい。帝国って色んな歌があるよね」
「元々この国は、いくつかの集団の集合体だからな。それに新たな領地も組み込むことも多い」
ヴァリマリラ帝国は他の国と比べると少しだけ歴史が浅い。ただこの。周辺の土地には元々沢山の人たちが住んでいた。それぞれ異なる文化があり、時には戦をしていたらしい。
そのいくつもの集団がまとまって出来たのがこの帝国で、それぞれに伝えられていた文化が今の時代にも残っているのだ。
こういう歴史に関しては帝国に来てからユエバードに教えてもらった。
この帝国の皇族――要するにサシャの家系は、そのバラバラだった者たちをまとめ上げた一族なんだとか。初代はとてつもなく強くて、その武力をもってして全てを屈服させたという逸話があるらしい。
なんていうかサシャの祖先らしいよね? サシャもとても強くて、何かあれば力をもってして色んなことを治めそうだし。
そういうわけで歌も色々なものが伝わっていて、その中には独特なものもあるんだ。
不思議な音が連なる、幻想的な音楽。そういうものを聞けるだけで楽しい。とはいえ、そういう歌は発音がそもそも難しくて歌うことが困難なのだけど。
エブちゃん先生はね、そういう難しい歌に関してもきっちり歌えていた。お手本として見せてもらえるエブちゃん先生の紡ぐ歌は素敵なんだよ。
「そういえばサシャって歌ったりするの?」
僕はサシャの歌も聞いてみたいななどと思って問いかける。
「皇族としての教育で習ってはおる」
「そうなんだぁ。サシャの歌、聞いてみたいなぁ」
「少し歌ってやろう」
サシャは僕の言葉にそういうと、一つの歌を口ずさむ。それは僕も習った春の訪れを告げる爽快な歌だ。
少しだけしか口ずさんでくれなかったけれど、でもそれでもサシャの歌って綺麗だなって僕は興奮した。
「サシャ、凄く素敵! サシャの歌って僕、ずっと聞いていたいかも」
「……たまになら歌ってやらないこともないが、流石にずっとは歌わぬぞ」
「本当? やった! なんかサシャの歌を聞いたら楽しくなっちゃって色々とやる気出そう」
僕がそう言って笑ったら、サシャは呆れたように笑った。
僕がサシャの歌でこれだけ元気をもらえるのは、僕がサシャに対して好感を抱いているからかなと思う。どれだけ素敵な歌でも歌っている相手が好ましくない相手だったらちょっと複雑な気持ちにはなるかもしれないもん。
「僕もお返しに歌うね?」
僕もそう言って歌い返す。
僕が歌い始めたらブリギッドも一緒に歌いたくなったのか歌ってくれた。うん、楽しい。
こうやってサシャの歌を聞いて、僕たちが歌って。
そういう楽しい時間だったから、手の進みも凄く速くなった。頼まれていたお手伝いはあっという間に終わったんだ。
「サシャ、歌の力って凄いね。こんなにあっという間に終わっちゃうなんて」
「楽しむのは良いが、ミスには気をつけるのだぞ」
「うん!」
歌うのに夢中でミスをしてしまったら結局二度手間になって大変なことになるのは分かっているので、僕はサシャの言葉にそう言って頷くのであった。
それにしても歌いながら何かをやるのっていいかもしれないね。
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