その頃の王国②
「どうしてだ。ウルリカ!」
俺はぐしゃりと手紙を握りつぶしてしまう。
……俺、ザガラの元へと届いた手紙。それはウルリカからの拒絶の手紙だったのだ。
俺が真摯に謝って、ウルリカに戻ってきて欲しいと望んだ。ウルリカのことを俺がどれだけ愛しているかについても手紙にしたためた。今まで恥ずかしくて、ウルリカに対する愛情を素直に口にすることは出来なかった。
素直になれず、ウルリカを大切にしている気持ちを伝えることも出来ずに――俺はウルリカが男だと知ったショックであんなことを起こしてしまった。
本当に後悔している。
俺がそんなことなどせずに、ちゃんとウルリカに話を聞いていれば……! とそんなことばかりを考えてしまう。
それにしてもどうしてウルリカは戻ってきてくれないのだろうか。帝国などという野蛮な国で暮らすことを選ぶなんて。我が王国の方が、聖女であるウルリカには生きやすい場所のはずなのに!
確かにウルリカが聖女という立場でありながら男であったことは様々な影響を及ぼしている。聖女というのは清き乙女であると信じ切っている団体はあれが聖女なんて……と暴動のようなものを起こしている。守護精霊であるブリギッド様はウルリカのことを聖女だと定めているというのに。
ウルリカのことを守護精霊を騙した悪質な存在だとそんな風に言っている者もいるのだ。もしかしたらウルリカはこの国で生きにくいからこそ帰ってこないのだろうか? そういう暴走している者たちをどうにかしてほしいというそういうことなのか?
それはありえそうだ。
だってそういう理由がなければウルリカが帰ってこないなどありえないのだ。
父上にはウルリカを正妃にすることに関しては許可をもらっている。男であろうとも聖女という立場は重要なものなのだから。
それでいて国や父上としてみても聖女であるウルリカが他国に行ってしまったことは大きな損害だと考えているのだ。
「王太子殿下、ウルリカ様を迎えるための部屋を整え終えました」
「王太子殿下、ウルリカ様が正妃になるのはとても素晴らしいことですね」
周りは基本的にウルリカを正妃にすることに皆、賛同している。というよりこの国に仕える者たちはウルリカがこの国に留まってくれることを望んでいる。
だからこそ、ウルリカが正妃という素晴らしい地位でこの国に君臨することを喜んでいる。皆、協力的なものが多く、俺は嬉しい限りである。
とはいえ、ウルリカとのことを反対する愚か者もいる。ウルリカがそんなことを望んでないのではないかという一味である。元々ウルリカに仕えていた者たちがそんな風に言うことが俺にとっては不服だった。流石に解雇はしないが、俺とウルリカのことを祝福してくれないなど困ったものだ。
ウルリカを連れ戻した後に、ウルリカを正妃に向かえるための準備を着々と進めている。しかしウルリカは俺を試しているのか、この王国がウルリカにとって暮らしやすい場所を作らなければ帰ってきてくれないのだろう。ウルリカのためにも俺はどうにかしてこの国をどうにかしなければ! と気合を入れて行動をすることにした。
ウルリカに対して悪い感情を抱いている者たちを、父上の許可を得て排除していく。それでいてウルリカの愛らしさと素晴らしさを広める活動を始める。
側室にすべき令嬢に関してもきちんと選別を続けている。ウルリカのことをいじめるような相手だと困るのだ。
ウルリカは聖女として生きてきたからこそ、政治的なことは詳しくないだろう。もしウルリカが望まないのならば正妃としてこなすべき公務に関しても他で補えるようにしていくべきだろう。
側室候補の者たちは、王になる子を産めればいいとそれだけを思っている者を探し出した。彼女たちはそういう地位があればいいのだ。それでいて俺がウルリカのことを思っていることを知ると、祝福をしてくれた。
ウルリカが男であろうとも聖女であるのならば問題がないというそういう思考のようだ。
そういうわけで俺は着実にウルリカを迎え入れるための準備を進めていた。
俺はウルリカと結婚をした後のことを想像する。正妃という立場になったウルリカに、俺はなんでもしてやりたいと思う。ウルリカが過ごしやすいように出来ればよいと思っている。それでいてウルリカが正妃になれば、今まで以上にウルリカのことを知ることが出来るのだ。
聖女としての責務に真面目に励んでいたウルリカとは、会えない日々も多かった。しかし夫婦になれれば夫婦の時間が出来るだろう。
しばらくウルリカに会えていないせいか、次にウルリカと再会出来れば――とその時のことばかりをずっと想像している。
ウルリカ、絶対に君を取り戻すから待っていてくれ!
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