塔の上からの景色はとても綺麗
「陛下、お疲れ様です」
「陛下、聖女様、どうぞ」
僕たちが塔の中へと足を踏み入れると、その場に常駐していた騎士たちにそんな風に声をかけられる。
僕がサシャにおんぶされているのを見て、目をぱちくりさせていたけれど彼らは何も突っ込みを入れなかった。
塔の中も階段が続いていて、サシャは僕をおんぶしたままそれを登る。僕は降りるっていったのだけど、階段の数が多いからとそのまま連れて行ってくれた。
上に登ってからようやくおろしてもらう。
おんぶしてもらっていた時は、普段よりも高い位置から周りを見れて不思議な気持ちになっていた。
「ここからは帝都全体が見やすいのだ」
「うん。凄くよく見えるね。僕らが歩いた道がこれだけ小さく見える」
僕たちが今日歩いた道、訪れたお店。それが小さく見える。これだけ高い所から見ると、まるでミニチュアか何かみたいだよね。お人形のハウスというか、そんな風な感じだよね。
僕はお人形遊びとかしたことはないけれど、お金持ちの子供だとそういう遊びをしたりするって聞いたことがある。実際の帝都を模した模型とか作っている人とかいるのかな?
そういうのがあったらきっと楽しそうだよね。
そう考えるとそういう玩具のお店に行ってみるのも楽しいかも!
僕は子供時代は孤児だったから、そういうお金のかかる遊びしたことないんだよなぁ。
「ねぇねぇ、サシャはお人形遊びとかしたことある?」
「急にどうしたのだ?」
「だってお金持ちの子供って、そういうのをするんでしょ? 僕、仲良くなった貴族令嬢にそういう話聞いたことあるもん。こうやって帝都の様子を見下ろしていると帝都の模型とかあったらそういう遊びがはかどりそうだなぁって」
「ウルリカよ、そういうのは細かいのは作られぬぞ。あまりにも細かく作りすぎると間諜などが付け入る隙になってしまうからのぉ」
「それもそうかぁ。確かに細かい地図とか、中身が分かるものがあるとそういう侵入者増えそうだもんね」
「国家機密としてそういう細かい図はあるが、まぁ、基本は周りに出回りはせん。そういうのが出回ればつけいられる隙になるからな。この場所も敵に取られたら大変なことになる」
僕は政治関係のことは詳しくない。聖女としてぬくぬくと守られて生きてきたので、危険な目に遭ったこともそこまであるわけではない。
だけど、確かにそういう細かい作りが分かるものがあったら侵入とかしやすいんだろうなとは思う。
どこかに侵略するとか、そういうのはない方がいいけれど少なからずそういうのはあるからなぁ。
「あのお城も攻められたことはあるの?」
「我の祖父の時代にはそういうこともあったらしい。その後、守りが強化された」
「そうなのか。そういうことがあると大変そうだよね」
僕はそう言いながら、城の方を見る。僕らが生活をしているその城は大きくて、沢山の人が務めている。
そこに誰かが侵入するなんて信じられないけれど、それが起こったら沢山の被害が出るんだろうなと想像出来る。
「その時は多くの被害が出た。今後はそういう風にならないように我はしていきたい」
「そうだね。誰かが死んだりしたら悲しいからね」
この場所は風が気持ちよくて、景色もとても綺麗で――僕は見ているだけで楽しい気持ちになる。
僕はこの帝都にやってきてそこまで時間が経っていないけれど、もうすっかりこの場所が大好きだなって思っている。
だからこの帝都が危険な状態に陥らないようにはしたいな。僕は聖女だからこそ、そういう誰かの危機は守れるはずだよ。
「ずっと見ていたい気分になるね」
「しばらく見ておくか?」
「うん。僕はまだまだ見ていたいけれど、大丈夫? サシャ、忙しくない?」
僕はもっとゆっくり此処で過ごしたいと思っていたけれど、サシャは女帝だからこそ忙しいはずだ。それなのにこんなにゆっくりしていて大丈夫だろうかと思ったのだ。
「問題ない。我は急ぎで片づけるものは終わらせておる。それに我が一日城を開けたぐらいで回らなくなることはない」
一番偉い人が居なくなると、そのまま回らなくなったりするのかなと思ったけれどそうではないらしい。そういうサシャに信頼されている関係っていいなぁ。僕ももっとサシャに信頼というか、そういう風に思われたいな。
「ならよかった。もうちょっとゆっくりしよう!」
「ああ」
僕の言葉にサシャは頷いてくれた。
僕たちはそれからしばらくその場所で景色を楽しんだ。夕暮れになってくるとまた違った光景に見えて、なんて綺麗なんだろうってそんな気持ちでいっぱいになる。
「サシャ、連れてきてくれてありがとう」
僕がそう言って笑えば、サシャも笑った。
そうして僕とサシャの初めてのデートは終わった。また一緒に出掛けてくれると言っていたけれど、今度は何処に行こうか?
また侍女たちに聞いてリサーチしておかないとな。
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