なんか手紙が届いた

「ふんふんふ~ん」




 サシャとのデートを終えた数日後。




 僕は鼻歌を歌いながら、侍女たちと一緒に城内を歩いている。





 今歌っているのは、侍女から教えてもらったものなのだけど帝国に伝わっている皇族を崇める歌なんだって。要するに特別な式典などがあった時にサシャを崇めるために歌われているものなんだ。

 なんていうか、壮大なメロディがお気に入り。それにサシャを崇める歌ってだけでも凄くいいなぁって思うもん。






 オペラ隊がいると聞いているので、僕もちょっと混ぜてもらおうかなと思ったりする。

 僕はそういう歌を職業にはしていないけれど、歌うことは嫌いじゃない。音楽は好きだと思っているし、サシャを崇める歌を歌えたらきっと楽しいだろうなとそう思っている。

 オペラを歌う人たちと同じ格好で歌うのもいいなぁ。






「その歌をウルリカ様は気に入ってますね」



 ウィメリーにそんな風に言われる。








「うん、僕、凄くこの歌好きだよ。サシャにぴったりだもん。なんていうか凄くかっこいいし。僕はサシャの家族には会ったことないけれど、皆かっこよさそうだよね」

「陛下の家族はそうですね。皆さん、陛下に似てます」

「ふぅん。そっかぁ」





 女帝であるサシャ以外はこの帝都にはいないらしい。

 サシャの家族がどういう人たちなのか気になるなぁ。サシャ同様にその歌がぴったりな人だと思うと楽しみかも。








「サシャにぴったりの歌って、結構沢山作られるもの? サシャが女帝として有能であればあるほど、皆、そういう特別な歌を作りそうだよね」

「そうですね。陛下はあれだけ素晴らしい方ですから、そのような歌を作る方はそれなりにいますね。陛下は自分の歌を歌われることをそこまで好んでいませんが」

「そっかぁ。僕もサシャに向けた歌でも作ってみようかな?」

「それはとても素敵なことだと思います」

「ただ僕、歌は好きだけど自分で歌を作ったことなんてないんだよね。やってみても上手く作れないとかあるかな……」





 サシャに向けた歌、僕も作れたら楽しそうだななどと思った。でも僕は歌を作ったことなど当然ないので、上手く作れないのではないかなどとそんな風に考えてしまった。

 女帝であるサシャはそれだけ歌を作るプロたちから歌を捧げられているわけで、産まれも高貴だからこそ一流のものにもそれはもう慣れているだろう。

 僕も聖女として相応しくありべきって教育の中で良い物には触れてきたとは思うけれどサシャほどではない。というか、皇族産まれで、女帝として君臨しているサシャ以上に一流のものに触れてきた人っていないんじゃないかなと思う。

 そういうサシャに僕の作った拙いものを捧げるのって、どうなんだろう? って思った。







「ウルリカ様、何事も最初はだれでも上手くいかないものです。重要なのはウルリカ様がやりたいかというそれだけなのですよ。ウルリカ様が歌を作ってみたいというのならば陛下も私たちも全力でサポートしますわ。それに陛下はウルリカ様のことを本当に気に入っていらっしゃいますから、どんなものでも捧げられたら喜ぶと思われます」

「そうかなぁ? そうだと嬉しいなぁ」





 サシャが嫌がることはしたくないなぁとかそんなことばかり僕は考えてしまっている。僕はサシャのことを嫌われたら悲しいなぁと思うぐらいには気に入っていて、だからこそこういう風に少し心配してしまうのだと思う。






「歌を作りたいのならば、早速先生でも呼びますか? 陛下に言えばすぐに手配してくださると思います」

「うん。呼びたいな。でもサシャに向けての歌を作ることは秘密で進めたいかも。秘密で作ってプレゼントをしたらサシャは喜んでくれるかな?」

「そうですね。それならそうしましょう。陛下にはウルリカ様が歌を習いたい旨のみをお伝えし、ユエバード様たちには歌作りのことまで話して協力してもらいましょう」






 ウィメリーは僕の言葉ににっこりと笑ってそう言った。




 僕がやりたいと口にしたことを皆、否定しない。それどころか僕がそれを成功出来るように応援してくれる。うん、なんかそうやって応援してもらえるとサシャへの歌、頑張って作ろうってそう思えた。






 そのまま僕の提案は受け入れられて、早急に歌の先生が選別されることになったようだ。なんていうか聖女である僕の先生になる人はちゃんと選ばなければならないらしい。僕の先生になりたいって人は沢山いるんだって。







 この前のサシャとのデートも大変噂になっていて、僕がサシャと仲良しだって広まっている。それでいて僕の可愛さも帝都民たちの知るところになっており、僕のファンだっていう人たちも出てきているそうだ。

 あとは僕を守らなければみたいに庇護欲にかられている人たちとか。僕は自分で障壁を張れるし、ブリギッドも傍にいるからそういう危険な目にはまず合わないと思う。そもそも女帝であるサシャが僕のことを守ろうと動いているので、僕に何かしようとしている人たちは僕の元まで届かないだろうしね。

 ただ僕のことをそれだけ好きだって思ってくれる人が多いのは嬉しいことだけど。

 まぁ、そんな風に僕は守られて生きているので、僕の元へ届く手紙とか、僕が会える人とかは限られている。








 そのあたりはサシャやユエバードたちがちゃんと選んで、許可された人たちたちが来るようになっているようである。






 そういうわけで、僕は僕宛ての手紙は帝国についてから全然見てない。






 ……のだけど、歌の先生はどういう人になるかなと楽しみにしていたある日、サシャから「この手紙、読むか?」と言われた。






「これは?」

「ルズノビア王国の王太子がよこしてきた戯言の手紙である。ウルリカに目を通す必要はないのではないかと思ったのだが……、念のため届いたことは伝えておこうと思っての」




 それは僕を断罪したルズノビア王国の王太子、ザガラからの手紙らしかった。

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