おしゃれなカフェに向かう

「じゃあサシャ、次は教えてもらったおしゃれなカフェに一緒に行こうね!!」




 武器屋を後にして、僕とサシャはまた手を繋ぐ。

 僕が手を伸ばせば、サシャが当たり前みたいに手を重ねてくれて僕はなんだかそれがとても嬉しかった。






「我はカフェにはあまり行かぬが、そんなに行きたいのか?」

「うん。凄く可愛い雰囲気なんだってー! あのね、デートにぴったりだって侍女たちに教えてもらったんだよ。サシャと折角だから行きたいなぁって。それに僕、飲食店って行ったことないんだよね」






 孤児院に居た頃は当然、お金もなかった。与えられた粗末な食事を口にしているだけだった。というか、あの当時は院長とかが横領などをしていたらしいので、僕たち子供の口に入る食事って本当にびっくりするようなものばかりだった。




 よく空腹に陥っていた。餓死した知り合いもいるから、僕は毎日三食食べられるのも良いことなぁって思って、聖女生活が始まって喜んでいた。薄汚い孤児が飲食店に入ることは嫌がられたし、そもそもお金なんてなかったし、だから聖女になる前の僕は外食なんてしたことない。




 それで聖女になってからは、僕が聖女だからご飯を食べに行くなんて気軽に出来なかった。僕が男であることを苦にも神殿も露見させたくなかっただろうし、当然なんだけれど。

 だからなんていうか、飲食店に食べに行くということも僕にとって特別な初めてのことなのだ。多分、普通の人からしてみれば何気ない日常の一部なのだと思うけれど、僕にとっては何もかも新鮮なことだ。






「貴族の中にも自分で買い物や食事に行くことをしたことがないものはそれなりにおるが、ウルリカなんというかそれ以上だな」

「そうかも。聖女ってだけで王国では凄く過保護だったからね。僕の行動一つ一つが国にとって重要だからって。サシャは僕がやりたいこと、沢山やらせてくれるから僕は嬉しいよ」

「ウルリカはそこまでやりたいことをまだ口にしてなかろう。まぁ、もっとなんでも言ってよい。危険なことは流石に止めるがの」

「うん。思いついたらどんどん言うね」






 そんな会話をしながら、サシャと歩く。

 遠巻きにこちらを皆、見ている。って、あれ? 一人近づいてきている? 僕は警戒して障壁を張る準備をする。





 だけどその近づいてきた人はどこからもなく現れた騎士に捕縛されていた。おお、護衛の騎士たちだ。どこに紛れていたんだろ? 僕は正直気づいていなかったので目をぱちくりさせてしまう。

 買い物した時もどこからとなく現れたけれど、隠密能力も凄いなぁ。








「ウルリカ、騎士たちどこいたの?」

「後ろからひっそりついてきておったぞ。一般人に扮した護衛もおる」

「へぇー。全然気づかなかった。サシャは全員分かるの?」

「もちろんだ」

「サシャもやっぱり凄いね。それにしても近づいてきた人はなんだろう?」

「我かウルリカ目当てだろう」

「サシャ目当てって、サシャに酷いことしようとしているってこと?」

「そうだな。我の統治を気に入らぬものもいるだろう。女で帝国を治めていると色々煩いやつらが出てくるものである」






 サシャは全く気にした様子がなくそう言った。




 なんというか、狙われているのもなれているのだとよく分かる。サシャは凄く目立つ人だから、サシャに対して色んな感情を抱く人がきっといるのだと思う。

 僕にとってサシャは凄く素敵な女の子だけど、人によって色んな感じ方があるからサシャを気に食わない人もいるのかもしれない。それにしても女帝と言う立場はそれだけ煩い人が多いのだろうか?








「サシャ、ちょっとしゃがんで」




 僕が突然言った言葉なのに、サシャはすぐに実行する。それはサシャが僕を信用してくれている証だなと思って嬉しい。

 僕はしゃがんだサシャの頭を撫でる。






「ウルリカ……なぜ、突然撫でる?」

「んー。サシャは頑張り屋さんだなって思って。女帝として沢山苦労してきたんだろうなって思うと頭撫でたいなって」






 僕よりもサシャの方が背がずっと高いから、届かなくてしゃがんでもらったんだ。

 それにしてもサシャの頭って撫で心地が良いというか、髪がさらさらでずっと触っていても飽きなさそう。って、ちょっと変態っぽいかな? 流石にずっと撫で続けるのもあれなので、名残惜しいけれど撫でた後に手を離す。






「頭を撫でられるのなど、子供の頃以来だ」

「嫌だった?」

「いや、悪くはない」

「じゃあ、僕撫でたい時、撫でていい?」

「良いが、絵面的に逆ではないか? ウルリカの方が撫でられる側の印象がある」

「僕の頭撫でたいなら撫でていいよ?」







 サシャの言葉にもしかしたら僕の頭をサシャは撫でたいのかなとそう思い申し出る。

 そうしたら頷かれたので、大人しく頭を差し出す。サシャの大きな手が僕の頭を撫でている。おお、サシャに頭を撫でられるの、僕好きかも!

 なんだか安心する感じがする。








「ウルリカはやっぱり愛いな」

「サシャも可愛いよ」








 可愛いと言ってもらえたので、僕もそう返して置く。と、そんな会話を往来でしていたら急にキャーッと声が聞こえた。

 何かあったのかとそっちを見れば、何故か僕とサシャを見て騒いでいる集団がいる。なんか興奮している? なんで?







「あの人たちどうしたんだろう?」

「分からぬ。しかし害はなさそうだから放置しておこう」

「そっか。なら、いいか」








 急に騒ぎ出したのでよく分からないけれど、サシャが言うには害はなさそうらしい。サシャがそういうなら多分放っておいても問題がないだろう。なので放っておくことにする。




 それからカフェに向かってまた歩き出す。




 その最中に大きめの広場を通った。その広場には沢山の人が集まっていたのだけど、普段より人が多いってサシャが言っていた。

 それは僕らが帝都に繰り出していることを皆知って、出てきたらしい。






「我が一人で来る時よりも人が多い。ウルリカの姿を皆みたいのであろう」

「皆、僕に会いたくてきてくれたんだね」







 それにしても僕に会いたくてきてくれたという彼らは、僕らの邪魔をしないようにか声をかけては来ない。流石サシャが治める場所だよね。

 僕らから話しかけられたら答えてくれる感じかな?

 そんなことを考えながら広場を横切る。その広場には沢山人がいるけれど、大抵が僕らの方に視線を向けていていつも通りではなさそうだった。普段の広場はどういう感じなんだろうね。







 広場を突っ切って、しばらくしたら目的のカフェが近づいてくる。






「サシャ、もう少ししたら目的のカフェだよ」








 小物を色々買ったお店に向かう時は道に迷ったけれど、今回は迷わずに行けそうで僕は嬉しくなる。

 やっぱりこうして案内をちゃんと出来た方がエスコート出来ている感じがするよね。




 そして僕らは少し歩いて目的のカフェへとたどり着くのであった。

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