武器を色々見てみる
武器を手に取ってみる。サシャが普段から振り回しているような大剣を手に取ってみようとすると、重すぎてやっぱり持てなかった。
「凄く、重い……」
こういうものを持つだけじゃなくて、振り回すことが出来るというのがサシャの凄いところだと思う。というか、普通の長剣も重たい。騎士の人たちが普通にいつも手にしているものがそれだけ重たいことに僕は改めて騎士たちも凄いのだなとそんな気持ちになる。
「嬢ちゃん……じゃなかった。坊主か。今まで武器を持った経験はあるか?」
「ないよ。僕は聖女だから、武器を持つ機会とかなかったから。でも僕、武器も使えるようになってみたいなぁ」
ワゼラギは僕の言葉に笑っている。
「そうか、なら、こういう武器なら扱いやすいだろう」
そういって見せてくれたのは、小さな短剣のコーナーである。手に持ってみたけれど、思ったよりも軽いものもあった。
「こういう武器は女子供でも扱いやすいものだ。護身のために持っておくのもいいだろう」
「なるほど。確かにこのサイズだと隠し持っておくことなども出来そうだもんね」
「そうだな。貴族令嬢とかもドレスの下に隠していたりもする」
「そうなんだ」
「……まぁ、自害用で持っている場合もあるが」
僕はワゼラギの言葉に驚いてしまう。自分で命を絶つために武器を持つこともあるのだと聞いて驚いてしまう。
死ぬということはそこで終わるということ。
僕はやりたいことが沢山あるから、自分から死を選ぶなんて絶対にしたくないと思う。
でもそういう自害する人たちと言うのは、そうせざるを得ない状況にあるってことかな。
「王族や貴族は時と場合によって、自分の命よりも貴族としての誇りや尊厳を優先することもある。例えば自分の持つ情報が相手に渡ると大変なことにあると想定できる場合、自分が生きていることで敵が有利に動いてしまうことが想定できる場合など、時々話に聞くな」
「うわぁ、王族や貴族も大変だ……」
サシャの言葉に何とも言えない気持ちになってしまう僕である。
「ウルリカも聖女という立場だから、そう状況に陥る可能性はあるが――、我はウルリカにはそういう選択はしてほしくない。我が助け出すからな」
「ありがとう、サシャ。僕は頼まれたってそういう選択はしないと思う。サシャが助けてくれるなら安心だけど、何かあった時に自分でどうにか出来るようにしておきたいなって思う。だから、サシャ、僕、武器持ってていい? 城の中で帯剣しているのは問題かな?」
折角武器屋に来て、良い武器を見させてもらっているのだ。自分用に何か買っておきたいなと思った。
でも僕は帝国のお城に住んでいるので、常に武器を持っているのは問題かなと問いかける。
「問題ない。我が許可する」
「ならよかった。ねぇ、サシャは僕にどんな武器がいいと思う? 僕は武器について詳しくないから、サシャが選んでくれると嬉しいな」
僕の言葉を聞いて、サシャは笑顔で頷いてくれた。
そういえば聖女になる前、僕が孤児院でこの暮らしから抜け出したいなんてそんなことばかり考えていた頃――騎士という職業に少し憧れていた。孤児院の年上のお姉さんが小さな子供たちに聞かせてくれた物語。その中で騎士はかっこいいヒーローなことが多かった。
自分が聖女になるなんて欠片も考えていなかった頃、外の世界に憧れていた。食事に困ることなく、のんびり過ごせる日々。それが与えられていたから僕はルズノビア王国で聖女として過ごすことに不満はなかった。
でもなんていうか、こうしてこの帝国でルズノビア王国で過ごしていた以上の自由を手にすると僕は王国には戻れないんだろうなって思った。
王国では聖女は何処までも特別で、民の理想的な存在であらなければならなかった。孤児院の劣悪な環境から抜け出して衣食住に恵まれた暮らし。それ以上に何かを求めるべきではないとそんな気持ちになっていた。
――でもサシャは僕がやりたいと言ったことをおそらくなんでもやらせてくれると思う。
聖女らしいとか、らしくないとか、多分そういうのをサシャは全く気にしない。僕が理想の聖女らしく振る舞わなくても、それはそれだと思っているのだと思う。
僕はそういうサシャがやっぱり大好きだ。そういうサシャが僕のために武器を選んでくれると思うと、それだけで嬉しい。
「ウル坊、なんだか嬉しそうだな?」
「うん。サシャに武器を選んでもらえるの嬉しいなと思って!」
「ウル坊はサシャ嬢に好意的なんだな」
「うん。僕、サシャのこと、大好きだよ」
ワゼラギの言葉に僕がそう言って笑えば、彼は面白そうに笑っていた。
「ウル坊は面白いな。見た目はか弱そうなのにサシャ嬢のことを怯えの一つもしないとは」
「しないよ。だってサシャは可愛くて、綺麗で、かっこいい女の子だもん」
僕がそう言ったら今度は驚いた顔をされる。
「はははっ、サシャ嬢を可愛いと言ってのけるか」
「うん。サシャは凄く可愛い女の子だと思うよ? でも本人に言っても認めてくれないんだよね。どうしたらサシャは自分が可愛いって認めるかな?」
「ぶはっ、本人に言っているのか。ウル坊は肝が据わっているな」
ワゼラギは僕の言葉に心の底から楽しそうに笑っていた。でも肝が据わっていると言われても、思ったことを口にしているだけなんだけどなぁ。
「ウルリカ、この短剣はどうだ? ……あとワゼラギは何を笑っておる?」
ワゼラギと話している間にサシャが僕のために短剣を選んでくれた。それを持ってやってきたサシャは笑っているワゼラギを不思議そうに見ている。
「なに、ウル坊が面白くてな。可愛いサシャ嬢が選んできたものを見せてもらおうか」
「……ウルリカ、ワゼラギに何を吹き込んだのだ?」
「吹き込んだって、僕はサシャが可愛くて、綺麗で、かっこいい素敵な女の子だってワゼラギに語っただけだよ?」
僕の言葉を聞いて、サシャは「……そうか」とだけ言ってワゼラギを睨み、僕に一つの短剣を差し出した。
それは驚くほどに軽かった。
キラキラした石がいくつかついているものだ。
「サシャ嬢、わざわざ魔法剣を選ぶとは過保護だな」
「魔法剣?」
ワゼラギの言葉に僕が不思議に思って口にすれば説明をしてくれる。
この普通の短剣に見えるものは、いくつかの魔法が組み込まれている特別なものらしい。こういう武器にそういう魔法を組み込むのはとても難しいことらしいのだけど、ワゼラギは出来るらしい。凄いね。
「それぞれの魔石に魔力を込めると効果が発揮する」
「んー。それって聖女の力でも発揮する? 僕、結界張ったり、傷を癒したりは出来るけれど魔力と別なのかなって」
僕が問いかけると、聖女が今までこういう武器を使った例を知らないから分からないと言われた。一回試しに聖女の力を込めてみると見事に発動しなかった。
「……発動しない」
僕は落ち込んでしまう。
そうしていると、「ウル坊でも使えるように調整する。終わったら連絡する」とゼラギに言われた。
「うむ。頼む。料金は我が支払おう」
「え、サシャ、自分で買うよ?」
「こういう魔法剣はウルリカがもらった報酬だけでは買えぬ。気にするな。我もウルリカにプレゼントをあげたいのだ」
自分で買おうと思っていたのだけど、サシャにそう言われたので僕は有難く買ってもらうことにした。
僕でも使えるように調整するのは時間がかかるらしいので、そのまま僕とサシャはその武器屋を後にするのであった。
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