お出かけのはじまり
「サシャ、見て、僕、かっこいい?」
僕は男らしい恰好をして、サシャの前へと姿を現す。
自慢するように見せびらかせば、サシャは笑ってくれた。でも「うむ。……愛いな」と言っていたので、僕はかっこいいよりやっぱり可愛く見えちゃうのかな。
サシャはおでかけの際にやっぱり可愛い恰好はしてくれてない。まぁ、どういう恰好をしていてもサシャは僕にとっては可愛く見えるけれど。
「サシャは姿を隠して行ったりはしない感じ? サシャみたいな偉い人だと出かけるときお忍びなのかなと思うのだけど」
「我は顔が知られているからな。昔から我は王都にはよく顔をだしておるし、別にお忍びで行く必要はあるまい」
「まぁ、それもそうだね! それにサシャも僕も自分の身は自分で守れるもんね」
「ああ。護衛はつくがな」
サシャがお忍びではなくお出かけに行くのは、サシャがそれだけ強い力を持っているからかなと思う。守られるだけの存在ではなくて、自分で自身を守れるタイプ。
「女帝であるサシャと僕がお出かけをするのって噂になったりするかな? 僕はサシャと噂になるのは嬉しいけれど」
「我が聖女であるウルリカを連れまわしていたと噂にはなるのではないか?」
「そうじゃなくてこれってデートでしょう? そういう意味で噂になるかなぁって」
「……デート?」
「そうだよ。男女でお出かけするのはデートでしょ? 僕はサシャとデート出来るんだなって楽しみで仕方がなかったんだ! サシャは僕とのデート嫌?」
「嫌ではないが、デートと言う認識はなかったのだ。……そうか、デートか」
サシャは僕の言葉を聞いて、不思議そうな顔のまま呟く。
「……我も男とデートをするのは初めてである」
「わぁ、それは嬉しいな。お互い初めてのデートだね? 僕ね、帝都を歩くのは初めてだけど、サシャを楽しませたいなと色々情報集めたんだよ。だから皆がおすすめだっていう場所、一緒に行こうよ」
僕がにっこりと笑ってそう言ったら、サシャは頷いてくれた。
僕は色んなお勧めの場所を侍女たちから教えてもらったのだ。帝都は沢山人がいるから、危険な路地裏とかもたまにあったりするらしい。そういう危険な場所も教えてもらった。
帝都の騎士たちが見回りをしているから比較的治安は良いらしいけれど、それでも事件が皆無というわけではないのだ。
サシャは僕に守られる必要はないかもしれないけれど、僕がサシャを守れたらな。
「ああ。我もおすすめの場所にウルリカを連れて行こう。ウルリカは街で遊んだこともないのだろう? 沢山楽しい場所に連れて行かせてやる」
「ありがとう! じゃあ、行こう」
僕はサシャへと手をさし伸ばす。
その差し伸べられた手をサシャは不思議そうに見る。
「デートなんだから僕がエスコートする形かなぁって。だって男の人って、女の子に手を差し伸べてエスコートするでしょ? 僕は聖女として、女の子側だったから今までエスコートされる側だったけれど、折角のデートだからエスコートしたいなぁって。サシャは僕と手をつなぐの嫌?」
これは僕の我儘だ。サシャのことを男としてエスコートしてみたいなってそう思っているだけなのだ。
今まで僕はエスコートされる側でしかなかったから、サシャをエスコート出来たらきっと楽しいだろうなってそんなことばかり考えている。
「うむ、よかろう。……しかし、我と手を繋いで出かけるとなるとより一層噂にはなりそうだが」
「さっきも言った通り、僕はサシャとならばどんな噂になっても構わないもん。僕とサシャが仲良しだって噂になるってことでしょ? それってとても素敵なことだよ」
「我も構わぬ。周りが騒がしくなることよりも、ウルリカが楽しむことが一番だからな」
そう言いながらサシャは僕の手に、自分の手を重ねてくれる。
サシャの手は剣を持つ人の手だ。これはサシャの努力の証なんだろうなってそう思った。
「僕、お勧めの美味しいお店とか侍女たちから聞いたけれど、サシャは僕を連れて行きたいお店とかあるの?」
「酒場に連れて行くかと思っていたが」
「酒場? サシャは酒場とかよく行くの? 興味はあるけれど、折角の初デートだから酒場よりもおしゃれなお店がいいなって思うからご飯は僕が連れて行ってもいい? 酒場は今度連れてってほしいな」
サシャと一緒ならばどこだって楽しいと思うけれど、折角の初デートなんだよね。
僕とサシャにとって初めて異性と出かけるデート。それなら、酒場よりもおしゃれなお店の方がデートっぽい気がするもん。
「うむ、ならそうしよう」
「あとねー。可愛い小物のお店とか、色々聞いたんだよ!! だからそういう所にも連れて行くね?」
なんだかサシャって可愛い物が好きな割には自分が身に付ける可愛い物とか持ってないイメージ。僕は今回のデートでサシャに似合う可愛い物とかプレゼントしたいなぁ。
ユエバードからもらった報酬でどれだけの物が買えるかな?
高価すぎるものは手を出せないけれど、サシャが喜ぶものを渡せたら嬉しいな。
今から出かけるデートが楽しみで、僕はサシャと手をつなぎながらにこにこしてしまう。
「ウルリカ、凄く楽しそうだな」
「うん! だってサシャとのデートだもん!」
僕とサシャはそんな会話を交わしながら、帝都へと向かうのだった。
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