美味しいご飯を食べたら、お酒も出てきた。
「わぁ」
僕は目の前に並べられた料理に思わず感嘆の声をあげる。
お肉から野菜の料理まで、様々なレパートリーの美味しそうなものが並んでいる。見るからに豪華な料理。
ルズノビア王国では食べることが許されなかったものが沢山並んでいるのだ。
「目を輝かせていて可愛いな、ウルリカ」
「だってこれだけ美味しそうな料理が並んでいるから! これ、僕、食べていいの?」
「もちろんだ。……もしかして、こういう料理も食べてこなかったのか?」
「聖女は慎ましく生きるべきって風潮の国でしたからね。食べるのも山菜料理とかばかりでした。なんていうか、聖女はお肉とか食べたら駄目みたいな感じだったので。なので、パーティーでも専用の食事を食べてたんだ」
そういうわけで僕はいつも皆がパクパク美味しそうに食事を摂っているのを横目に、専用のものを食べてたわけである。あの王国にとって聖女ってそれだけ特別な象徴で、聖女の言動一つ一つを周りが注意してみていて、だから僕も結構気を遣っていたのだ。
でもこの国だと聖女だから、こうあるべきみたいなのはなさそう。
「まだ育ちざかりだろう? それなのにそういう食事をさせられているとは……。帝国ではそういうのはないから、どんどん食べるといい。そもそも聖女であるウルリカの言動に文句を言う者など、我が全部どうにかするから好きにすればいいのだ」
「じゃあ、遠慮なく食べる」
僕はサシャの言葉に笑って、目の前にある料理に手をつける。
聖女になる前は孤児で、食事がままならないことも多かった。というか、あそこの孤児院の職員、結構横領してたし。今は改善して皆、食事が出来ているっぽいけど。
僕が環境が改善したらしい孤児院を見に行きたいって言っても許可されなかったから、一回も見に行けてないんだよなぁ。昔仲良くしていた子たちは元気なのだろうか?
まぁ、僕が男だけど聖女として生きていたわけだから、僕が男だと知る孤児院の子たちの元へ僕を行かせるわけにもいかなかったのかもしれないけれど。
それでまぁ、聖女になってからは聖女らしくあることを求められていたわけだ。だからこういう食事って初めてかもしれない。お腹いっぱい食べていいのかな? 聖女は体形も崩したら駄目って言われてたからなぁ。
いくつかの料理に手を付けた後、僕はサシャに問いかける。
「ねぇ、サシャ。僕、いっぱい食べて太ったらどうしよう? 太っても聖女として相応しくないとかならない?」
「なんで体形が関係あるんだ? ウルリカは逆に痩せすぎだろう。それにちょっと太っても愛いのは変わらん。太りすぎたら痩せればいいだけだろう」
「そっかぁ。じゃあ、僕がやせたくなったらサシャも付き合ってくれる? サシャと一緒なら痩せれそう」
「よかろう」
帝国の女帝と言う立場のサシャに向かって、こういう誘いを簡単にするのは駄目だったかなと誘った後に思った。でもサシャは気にした様子もなく笑って答えてくれたのでほっとした。
サシャも沢山食べている。
サシャはいつもこれだけいっぱい食べているのかな? それでも太ったりしていないのは身体を動かしているからとかなのかもしれない。
「口いっぱいに詰め込んでおり、可愛いのぉ」
サシャはにこにこしながら食事を摂っている僕のことをじっと見ている。隣に控えているユエバードも笑っていて、心地よい空間だなぁと思った。
飲み物も沢山の種類が用意してある。どれを飲んでも大丈夫なのかな?
「サシャのおすすめの飲み物ってどれなの?」
「酒だな」
「お酒かぁ。僕、お酒飲んだことないなぁ。聖女はそういうの飲むべきじゃないって」
「ルズノビア王国の聖女は制約が多すぎではないか? そういうのがなくても何も問題がないだろう? 折角だから、飲むが良い」
「はじめてのお酒だとあんまり度が強くないのがいい? 酔っぱらうと羽目を外す人も多いと聞くけれど」
僕はそういう酔っ払いはあんまり接したことない。昔いた孤児院にはそういう酔っぱらうと人を殴る人もいたけれど。本当にそういうのは駄目だよね。僕はなんとか「な、殴らないで」って泣きまねして事なきを得てたけれど、殴られちゃっている子いたからなぁ。
僕はお酒強いのか、弱いのか。そのあたりも分からないし。
「飲みやすいものから飲むといい。これとか、女子がよく飲むものだぞ」
「サシャ様、それは確かに女性が良く飲みますが少し度数が強いです」
「そうなのか?」
「サシャ様はお酒に強いので分からないかもしれないですが、初めてでこれは駄目です」
僕はサシャが進めてくれたものを飲んでみようと思ったのだけど、ユエバードの言葉を聞いて諦めた。
だって、いきなりそういうお酒を飲んだら大変だし。
「ユエバードはどれならおすすめ?」
「そうですね……」
そう言ってユエバードが教えてくれたのは、飲みやすくて、そこまでアルコールの含まれていないものである。果物酒みたい。
ジュースみたいな感じだと言われたからそれを飲んでくることにする。
まず匂いを嗅いでみる。甘い香りがする。
初めて飲むから、興味深そうにお酒を見てから飲んでみる。
ごくりっと呑み込む。
美味しい。
甘くて美味しくて、どんどん飲んでしまった。
「ウルリカ、いきなりそんな風に飲むのはやめた方がいいぞ」
サシャにそうやって言われたけれど、僕は「大丈夫」と答えてどんどん飲んでしまった。
――そうしているうちに、僕の頭は働かなくなってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます