帝国についたらサシャが怒られてます。

「サシャ様!! 他国から聖女を連れて帰るなど何を考えていらっしゃるのですか! 国交の問題になりますよ? 分かっていますか?」

「ウルリカは不当に冤罪をかけられていたんだ。要らないというのならばもらってもいいだろう? それに本人も良いと言っているんだぞ?」

「こんな小さな少女があなたに来いと言われたら頷くしかないでしょう! どれだけ自分が威圧的なのか分かっていないのですか? あなたが言えばどれだけ恐ろしくても頷いてしまうものなのですよ」

「ウルリカは少女ではなく、少年だな。それにウルリカは恐怖して頷いたわけではないと思うぞ」

「はぁ? 少年??」





 目の前でサシャが怒られている。



 今、僕はサシャに連れられてヴァリマリラ帝国へとやってきたわけなのだが、女帝であるサシャ相手にこれだけ意見を言える相手がいるのだなと驚いてしまった。

 よっぽど目の前の文官のお兄さんとサシャは仲良しなのだろう。




 それにしても僕よりもずっと背が高くて羨ましい。僕は十六歳なのだけど、男にしては背が低いのだ。というか同年代の女性よりも低いことが多い。だから文官のお兄さんにも僕のことを小さな少女などと表現しているのだ。





「初めまして。聖女様、私はこのヴァリマリラ帝国に仕えているユエバード。よろしくお願いします。ところで本当に男なのですか?」

「僕、男ですよ? 正しく言えば聖人ですね。あとサシャに誘われて、僕が自分の意思で帝国に来ると決めたのでサシャのことを怒らないであげてください」

「私に対しても砕けた口調で構わない。聖女……いや、聖人は特別な存在だからな」

「分かった。あと聖女呼びの方がやりやすいならそのままでもいいよ。サシャは僕が可愛いから聖女のままの呼び方でいいんじゃないかって言ってたし」




 僕がにっこりと笑ってそういえば、ユエバードは一瞬ぽかんとした表情を浮かべて、その後呆れたようにこちらを見ている。





「なるほど、聖女様はそういう方なのですね。お名前でお呼びしても?」

「もちろん、大丈夫」

「それで、冤罪をかけられたというのは? あの国の王はそこまで愚かではないと思いますが」

「陛下じゃなくて、王太子だよ。僕、国と神殿の意向で男だけど聖女を名乗ってたんだけど、王太子は僕が可愛いから好きだったみたいなんだ。それでなんか恋心を弄んだ罪は重いって言われたんだ。あと、僕が男なのに聖女を騙っていたからなんていってたけど、陛下が言ってないのが悪いのにね」




 僕がそう言ったら、ユエバードは納得したような表情をする。






「確かにウルリカ様は愛らしい顔立ちをしてますからね。惚れてしまう男性は多いでしょう」

「うむ。ウルリカはとても愛いからのぉ。しかし、男だろうと国にとって特別な聖女であることは変わりないというのに愚かにも断罪されていたのだ」

「国が認めている聖女に対して、そのような暴挙を? あの国も長くないかもしれないですね」

「うむ。聖女の性別ぐらい国の上層部は把握していて当然なのだ。それが女性としてウルリカが広められているというのならば国の決定だというのは当然だ。それも分からずに、意味の分からない断罪劇をするなどアホでしかない」





 それにしてもユエバードは僕を可愛いとは思っているけれど、僕に惚れたとかそういうものではなさそうでほっとする。

 世の中には僕の可愛さにやられて邪な目を向けてくる人ってそれなりにいるし。

 純粋な好意なら全然いいけれど、そういう目はちょっと身の危険を感じるからね。





「ユエバードは僕が男でも気にしてないみたいだけど、あの国では僕が男だって広まるとややこしいんだよ。聖女信仰が広まりすぎているから、男の僕が聖女だと暴動とか起きそうなんだよね」

「なるほど……。しかし本物の聖女が国を離れるというのは問題があるのでは?」

「そうだね。守護精霊であるブリギッドは、聖女や聖人と共にある存在だから……、こっちにそのうち来るよ」




 僕がそう言ったら、ユエバードは「守護精霊が来る? となるとおもてなしをしなければ」と慌ただしく喋り出した。

 サシャも僕を連れ帰れば守護精霊までこっちに来るとは思っていなかったみたいで、驚いた顔をしている。





「守護精霊とは国を守っているものだと思っていたが、どちらかというと聖女や聖人に付属しているものなのか?」

「付属というか、ブリギッドはそもそも聖女や聖人といったお気に入りがいるからあの国にいるだけだよ。お気に入りと仲良く過ごすのにあの国が都合が良かったって言ってたし。あとは今までの聖女や聖人は結構愛国心強かったからっていうのもあるのかも。僕は衣食住がちゃんとしていたことは感謝しているし、聖女としての暮らしは満足していたけれど国より自分の方が大事だしなぁ」





 国のために命を賭けるなんて話はたまに歴史書で読んだことあるけれど、僕はそれより自分の方が大事なのだ。

 貴族などの出だったら、国に対する愛国心も強かったかもしれない。でも僕は孤児だったし、ややこしい事態になるところにずっと残りたいとは思わない。







 それに帝国ではおやつを食べてもいいって言われたし、おでかけもしていいって言われたもん。そっちの方がずっと僕は嬉しい。

 おやつのことを考えたら、ぐぅっとお腹がなった。






 それを聞いてサシャとユエバードが笑う。

 ちょっと恥ずかしい気持ちになった。






「ご飯にするか」



 サシャのその言葉に僕は頷くのであった。


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