道中で女帝様とゆっくり話しています。
「聖女よ、乗り心地はどうだ?」
「いいですね。地竜の竜車に乗るの初めてですけど、思ったより揺れないですね。あとはこの馬車がいいんですかね」
今、僕は女帝様と一緒に地竜が引く竜車に乗っている。馬車よりもスピードが速いものなのだけど、思ったより揺れない。
僕は馬車にも乗り慣れていないけれど、竜車ってこういう感じなんだなぁとなっている。
それにしても女帝様は有言実行というか、行動が素早い。もう国境を超えそうなほど移動しているというのだから、本当にびっくりだよね。
あと女帝様と一緒の竜車に乗っているわけだけど、長時間気を張っていても疲れるし僕はすっかり寛いでいる。
「それならよかった。ところで聖女はそんなに愛いのに男だというのは本当か?」
「そうですよ。僕はとっても可愛いですけれど、性別は男です」
「ふははっ、自分でいうのか、良い性格をしておる」
「だって僕が可愛い見た目をしているのは真実ですから。分かっていること敢えてはぐらかす必要ないと思ってますから」
僕が可愛いことは事実である。
薄水色の髪はさらさらで、侍女たちにも羨ましいって言われていた。僕の金色に輝く瞳は、まんまるとして大きくて、まるで宝石みたいなんだって。
聖女になる前も僕が可愛いからって、変質者が寄ってきたりしていた。僕がにっこりと笑いかければ周りは結構言うことを聞いてくれる。
というか、僕は元々孤児で後ろ盾などもない状況だった。
歴代の聖女と呼ばれる存在は王族や貴族の出もそれなりにいたらしい。そういう聖女に関しては家が後ろ盾であり、生活もしやすかっただろう。
僕には庇護してくれる親などもいないし、聖女になりたいと思っていた貴族のお嬢様には睨まれるし、最初の頃はそれはもう居心地が悪かった。自分の居場所を作るために味方を作って行って、心穏やかに過ごせるようになっていたのだ。
「いいのぉ。良い性格で我は好きぞ。ところでなぜ、女性のふりをしていたんだ?」
「陛下や大神官様にいわれたからですね。僕が見つかった時に、聖女様が見つかったって広めたらしいのだけど、僕は男でした。僕、可愛いから男だって知って呆然としてました。ルズノビア王国で男の聖人が生まれることって少なかったみたいなんです。ずっとあの国では聖女ばかりで、だから皆女の子だって思ってたみたいです。僕みたいな聖人も随分昔にはいたみたいなのですが、あの国では聖女信仰が盛んで僕が男であることってややこしいことになりそうだって言われました。僕が可愛いから聖女として生きていくのも問題ないのではとなって、聖女になりました」
聖女も聖人も、言ってしまえば同じものである。
守護精霊が認めた唯一の存在。ルズノビア王国の要ともいえる聖なる者。
僕は聖女になってからこの国の歴史の勉強も始めた。それで知ったのだけど、この国は聖人というのはあまりいなかった。聖女ばかりである。聖なる乙女がこの国を導いていく――と皆、信じている。
孤児として生きていた僕自身も聖女と呼ばれる存在は知っていても男の聖職者については知らなかった。普通の民もそうなのだ。
守護精霊に認められている聖なる者とは、聖女のこと。
そういう認識を持つ者が多すぎた。男性の聖人に対する信仰はなく、聖女に対する信仰のみを持つ過激な集団などもいたりする。多分、あの人たちは僕が男だと知って発狂しているかもしれない。
僕が女帝様の誘いに乗ったのも、そういう集団がややこしいからというのもある。
だってあの王太子が僕が男だって大々的に広めてしまったんだもん。
「ふぅむ。なるほど。守護精霊に認められているというのならば性別はどちらでも関係がないと思うが」
「僕もそう思いますが、政治的には色々あるらしいです。女帝様の国では僕が男でも問題ないですか?」
「あるわけない。そもそも我が気に入って連れ帰っておるのだから、文句を言う者などおらぬ。それより名前呼びで構わんぞ。それに砕けた口調の方が我は嬉しい」
「いいんですか?」
「我が許可しておるのだ。問題ない。そもそも聖女とは特別な存在だからのぉ」
「ええっと、じゃあサシャ」
僕が呼び捨てにすると、女帝様――サシャは嬉しそうに笑った。
僕より背が高くて、どちらかというとかっこいい雰囲気を纏っているサシャだけどその様子が可愛いなと思った。
「僕が聖女じゃないって分かったのにいつまで聖女って呼ぶの? 僕はウルリカって名前がなるから、呼び捨てでいいよ」
「ウルリカは男でも可愛かろう。だから聖女呼びで構わぬ。それにこれだけ愛らしいのだからの。聖女が男というのも面白いものであるし」
「なるほど。なら、聖女でもいいや」
僕がそう言ったら、サシャも笑った。
サシャは面白いことが好きみたいだ。あともしかしたら可愛いものが好きなのかもしれない。そう思って僕はサシャに声をかける。
「ねぇ、サシャって可愛いもの好きなの?」
「……似合わぬかもしれぬが好きぞ」
「いいと思うよ。じゃあ僕のことも好きなんだね」
「うむ。愛いからのぉ」
笑顔のまま頷くサシャからは好意しかうかがえないので、僕はこれからの帝国での生活は楽しくなりそうだと笑みを浮かべるのだった。
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