酔っぱらい聖女♂~女帝side~

「えへへ、おいしー」





 目の前で薄水色の髪の少女と見間違うほど愛らしい少年――聖女♂であるウルリカはだらしなく表情を緩めている。

 先ほどまでウルリカは「美味しい美味しい」と口にして、目を輝かせて食事を摂っていた。





 その姿はとても愛いもので、我は見ているだけで幸せな気持ちになったものである。






 それにしても、ルズノビア王国は聖女に対して様々な枷というか、決まりを作りすぎである。聖女とは特別な存在であり、その意思が尊重されるべき自由なものだと我は思っていた。

 というより、そうであるべきなのだ。それを色んな理由をつけて決まりを作るのはどうかと思った。

 そもそも育ち盛りの少年に少女のふりをさせて、食事も制限しているというのがなんだか気に食わない。






「酔っぱらっているな。愛い」

「酔っぱらってますね。ウルリカ様はお酒に弱いようです」

「公のパーティーではお酒を飲ませない方がよかろう」

「そうですね。こんな風にふにゃふにゃしていれば変質者に襲われそうです。格好の餌食です」

「そうよのぉ。これだけ愛いから、男であろうとも狼が放っておかぬだろう」

「男性だけではなく、女性も放っておかないでしょう。愛らしい少年を手籠めにしたいと考えているような夫人もいますからね」





 ユエバードの言葉に我は頷く。




 素面の状態のウルリカはきちんと周りをガードしている。とっつきやすそうに見えて、自分を守る術を心得ている。しかし今のウルリカは隙だらけである。






 我よりも三つ年下の少年が親の庇護下から離れて一人で一生懸命生きてきたのだと思うと、その様も愛らしいものだと思う。

 孤児院育ちで、味方がいない状況で聖女として立派に責務をこなしていたのは大変なことだと簡単に想像が出来る。ウルリカがこの国で穏やかに、心を休めて暮らせればいいと出会ったばかりでもそんな風に思える。それだけ我はウルリカを気に入っておるのだ。




 ユエバードと話をしていると、いつの間にかふにゃふにゃしていたウルリカが我のことをじーっと見ていた。






「どうした?」

「サシャの瞳って、空の色みたい。凄いキラキラしてて、綺麗」





 急にまっすぐな目で褒められて少しむず痒い気持ちになった。我は皇族であるから、褒められることはよくある。ただそれは心からの言葉というよりも、打算や思惑のある言葉であることが多い。

 だけどウルリカはおそらくそうではなく、本心から口にしているというのが分かる。





「ウルリカの目の方が綺麗だと我は思うが」

「僕のもサシャのも綺麗! 一緒だね」




 顔を赤らめたままそう言ったウルリカに、我は思わず口元を緩めてしまう。





「ユエバード、我はウルリカを寝室に連れて行く」

「はい。それがよろしいかと。……襲うことはしないようにしてくださいね。幾ら可愛くてもそのような真似をしたら駄目ですからね」

「ユエバード、我を何だと思っておるのだ。そのようなことはせぬ」







 酔っぱらってふわふわしているウルリカを他のものに任せるのも危険である。それは我とユエバードの共通の認識であった。

 きちんと護衛を固めておかねば、よからぬことを企む者がウルリカを攫ったりする恐れがある。その辺はきちんとしておかねば。




 我はそんなことを考えながら、その身体を抱え、所謂お姫様抱っこをする。






 軽い。

 細くて、驚くほどに軽くて、心配になる。

 ウルリカは体形が崩れることを心配している様子だったけれど、ウルリカはもっと太って良い。










「ウルリカ、ちゃんと捕まれ」

「サシャの顔、本当綺麗だよねぇ。僕、綺麗なもの、大好き」






 至近距離で微笑まれると、ドキリとしてしまった。ウルリカの顔は本当に人形か何かのように整っていて、愛らしいものだ。

 部屋へと連れて行き、ベッドへと寝かせる。

 そのまま我はその部屋を後にしようとしたのだが、腕を引かれる。







「サシャ、どこいくのー?」

「我は部屋に戻る」

「えー?」





 不満そうな顔をしたウルリカは、我の頬に手を伸ばす。






「サシャ、かわいーね」





 満面の笑みでそんなことを言われて、至近距離で微笑まれて……我は柄にもなく顔を赤くしてしまった。




「……我は可愛くはなかろう」

「ううん。かわいー女の子だよ」

「……からかうのはやめい」






 我はそれだけいって、不満そうなウルリカを置いて部屋を出るのだった。






「お帰りなさい。サシャ様。……なぜそんなに顔が赤いのですか?」




 執務室へと戻ると、ユエバードにそんなことを言われる。






「うるさい。なんでもない」




 そう言った我のことをユエバードは不思議な顔で見ているのだった。









 ……あんなにまっすぐな目で、可愛いなんて言われると落ち着かないものである。


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