第9話終わった夢の後に
ダンジョン入り口の警備兵に事の
いくつかの調書を取らされたが、それだけだ。
ふと空を見上げると、鳥が遠くに飛び去っていた。
まるで冒険者のように。
冒険者が夢を願い、散っていくのはありふれている。
奇跡のような才能はどこであっても与えられる者にしか与えられない。
それでも人は生きて行く。
この修羅と苦界のような世界で。
生と死の間際で。
4人で暮らした家に2人で帰って来た。
その間、お互いに何も言わなかった。
4人の夢が終わったのだ。
俺たちに仇討ちのつもりも、弔いのつもりもなかった。
ただ身体も心も行き場を無くしていた、それだけ。
「ねえ、シュラク。
一緒に死んで?」
それは冒険者に1番あるまじき言葉。
冒険者はその生を諦めた瞬間に死ぬ。
そういう世界だ。
俺は黙って涙の後の乾かぬ最後の幼馴染を見つめた。
彼女も俺を見た。
「……恋人同士ではなく、冒険者として世界を巡って、いつか野垂れ死ぬか、誰かに殺されるか、その瞬間まで一緒にいて死んで?
最後の最後まで、
足掻いて足掻いて足掻いて。
『ああ、この世界も悪くなかったな』と最期に一緒に笑って死んで」
俺はそっとカワセミを抱きしめる。
カワセミも俺を抱きしめる。
俺たちは恋人にはならない。
それでも魂は繋がる。
「ああ」
そして俺は同意する。
この生を生まれた意味も繰り返された理由も目的もないこの生を。
最後まで足掻くために。
「毎日抱いて?
生きていることをお互いに確かめ合うために」
「……ああ。
とりあえず今から飽きるまで抱いていいか?
冒険があるから日に1回で我慢してたが、1度カワセミを思う存分抱いてみたかったんだ」
真っ赤な顔でガバッと顔をあげ、俺を見てカワセミは言い放つ。
「ばっかじゃないの!?」
俺は珍しいその可愛らしい顔を見て涙と込み上げる笑いを抑えられなかった。
「初めて抱いた日に相性が良いと思ったのは、おまえだけじゃないぞ?
俺もおまえに溺れたんだ。
それにこの家を解約したら、なかなか声を気にせずできないからな」
「……ばっかじゃないの」
そう言いながらも、耳まで赤くしたカワセミは再度俺にしがみ付く。
「……私、ちょっと嫉妬深いから他の女は許さないから」
「実は俺もだ」
「気が合うね?」
「身体もな?」
「……ばか」
そう言いながら俺たちは深く口を重ねる。
そうして深く深く身体を混ぜ合う。
明日からも生きるために。
いつか深い海で眠るその日まで、生の修羅苦と死の海との間で渚のように生きながら。
夢を抱えて。
冒険者とは、そういうものだ。
完
【全9話の短編】修羅苦(シュラク)の渚(ナギサ) パタパタ @patapatasan
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