第8話夢の終わりに

「シュラク」

「……わかってる」


 俺とカワセミは互いに背を向け剣を構える。


 今更、どうもなりはしない。

 真実はずっと暗い闇の中で光が差すことは2度とない。


「祈り……安らぎを、プレア」

 剣に祈りの聖言を灯す。


 カワセミも同様に祈りの言葉を剣に灯す。

 魔物の中でも幽体にはこれを使わないと倒すことができない。


「来たよ!」

 両方の通りの先から1体の幽体と4体の死した人の魔物。

 最初に突進をして来たのは、サレバだった魔物。


 すれ違うように胴体を薙ぎ切る。

 カワセミも魔術を使われる前に魔導士だった人の魔物を斬る。


 大きく跳躍して飛び込んできた魔物を斬り、あっという間に『俺たち』だけになった。


「なあ、エウリエク」

「ねえ、ナターシャ」

 俺とカワセミは相対する2人に同時に呼びかける。


「本当にこれで良かったのか?」

「本当にこれで良かったの?」


 こんな終わり方で。

 こんな夢の終わりで。


 2つの魔物から問いに対する答えはない。

 同時に剣が閃めく。


 幽体は消失し、魔物は……静かに物言わぬムクロとなった。


「……ねえ、シュラク?

 あんたも私も幼馴染の親友に恋人の幼馴染を寝取られたね。

 それでこの2人は……こんな、ザマね……。

 ふふ……、ぐっ、ザマァってやつよ……。

 お決まりのザマァよ!

 ザマァないよ!!

 こんな終わり方でさあ!!」


 吐き出すように泣き出しながらカワセミは叫ぶ。


 俺たちは幼馴染で友人で恋人で仲間で……大切な家族だった。


 俺はそっとカワセミの髪をくしゃりと撫でる。


 それはこの世界では聞いたことのない定番。

 幼馴染を寝取られてザマァと笑う風習は、ここにはない。


 それはつまり……カワセミもまた、そういうことだった。


 こうして俺たちは4人の夢を失った。

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