第7話修羅か羅刹の住まう場所
「大丈夫か、カワセミ」
「シュラクがかばってくれたから」
落下の際に頭から落ちれば、高低に限らず命に関わる。
そうでなくてもダンジョンで足をひねってしまうだけで戦闘の一切ができない。
咄嗟にカワセミを抱えて足から着地できたので互いに怪我はない。
落ちた先は広い通路になっており、何かの罠が発動する様子はない。
落ちてきた穴は上に小さく見える。
そんなところから落ちても無事な程度に冒険者というのは頑丈な証拠か、それとも生まれ落ちた特典か。
そんなことは今はどうでもよく、ここからどう生きるかだ。
「おぉ〜い、無事かぁー!」
俺の背後の通りの向こうからバタバタとトレイスたちの声がする。
しばらく見ていると慌てて走ってきたという様子のトレイスたち3人。
「ごめんなさい、カワセミさん!
荷物が当たってまさか落ちちゃうなんて!
あっ、そうだ、これ飲んでください!
特製の回復ポーション。
少しの怪我や痛みは無くしてくれます!」
焦るふうにバドは荷物から青色のポーションを取り出す。
このポーションというのはそれなりに優れもので多少の怪我や痛みを取り除いてくれる。
凄いものになると死にかけの人すら回復させるという。
もちろんゴブリン程度の稼ぎは1発で吹き飛ぶ価格がするので、新人には手が届かないし、そうそう遠慮なく使えるものではない。
様々な薬品を作ることができる錬金術師が仲間にいるとこれほど頼りになるものはない。
「ほら、シュラクも念の為、飲んでおけ。
どうやらここは11階層のようだ。
すぐに階段があったからな。
ここで少し探索していこう」
バドはカワセミに、トレイスも俺にポーションを差し出してくる。
「ああ、ありがとう。
カワセミももらっておけ。
ここから修羅と羅刹の世界だからな」
俺はカワセミと4人だけにわかる符丁。
『こいつは敵である』
目を合わし互いに頷き合う。
それから笑顔のトレイスたちが差し出すポーションに手を伸ばす。
その動作のまま俺たちは鞘から剣を引き抜き、きらめかせる。
トレイスとバドの首は笑顔のまま、宙を舞った。
「ななな……!?」
生き残ったモレトを睨みつける。
「こうやってサレバたちも罠に嵌めたんだな」
落ちて割れたビンからは痺れ薬特有の臭い。
おそらく飲まなくても触れるだけである程度の痺れは起こすのだろう。
「なななん……!?」
「なんでってか?
穴の先がどうなっているか知らないはずなのに、すぐに走ってやってくるとかバカにしているのか?
しかもダンジョンで大声をあげたら魔物が寄ってくるはずなのに。
この場所を知ってたんだろ?」
おそらく同じような手でサレバたちも嵌めたのだろう。
その装備は拾った者勝ち。
それなりの金になったはずだ。
トレイスたちがこういう真似をしたという話は今まで聞いたことがなかった。
バレないようにしていたのではなく、魔が差したのだろう。
「サレバの奴らが自慢するから!
女を見せつけてどうだ、と。
だからモレトたちを始末して女2人を奪おうとしたんだ。
だけど、魔物が襲って来て……。
ああ、そうだシュラク。
ナターシャと言ったか、おまえに助けを求めていたぜ!
ダンジョンの奥底に助けなんて来るはずもないのになぁ、ぎゃっ!?」
「黙れ」
俺がモレトの右腕を切り飛ばすと蒼白になって、来た道を走って逃げて行く。
その先で。
「ぎゃぁぁあああああああああああああ!」
モレトは断末魔の叫びをあげた。
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