第6話冒険者の深い穴

 ベテランと呼ばれるパーティへの参加も増えてきた。

 現在、10階層を挑戦中のトレイスのパーティもそれだ。


 剣士のトレイス、狩人のモレト、そして珍しい錬金術師のバド。

全員が男だ。

 彼らもまた4年目になるベテランで、この街から出ることなく今日に至っている。


 ナターシャを含むサハドのパーティの行方不明を報告したのも彼らだ。


 10階層に入る手前の階段はホールとなっており、比較的魔物が寄らず他の場所よりも安全で冒険者はそこで携行食で食事を済ませる。


 そこは先人の冒険者たちに手によって、松明が用意され、そこに火をつければそこそこに明るい。


 それに理由は不明だがこのダンジョンはほのかに明るい。

 薄暗いと表現するべきかもしれないが明かりがなくとも活動可能だ。


「11階層を覗くと言ってたよ」


 塩っ辛いだけの干し肉をバギッと千切り、嫌そうな顔でバドはそれを繰り返し噛んで無理やり飲み込みながらそう言った。


 それをトレイスとモレトが同じような顔で頷いて同意する。


 携行食はただひたすらに塩辛くゴムのような味がするのだ。

 食わねば死ぬし、それでも食いたいものでもない。


 俺たちは出先の村から調達したドライフルーツを口に含み、小ぶりの石……のようなパンを水でふやかしながら口に入れて頷く。


 季節や収穫によるが、フルーツなど新鮮な物は街より農村部の方が溢れている。

 華やかな王都などになると条件は変わるが、地方の中心都市ではそんなものだ。


 携行食一つとっても、独自ルートがあるかどうかで物事は変わる。


 そうは言っても俺たちもたまたま買い付けた残りがあっただけで、携行食の独自ルートは持っていない。


 そういうルートがあれば、すでに田舎の冒険者など引退あがりだろう。


 ナターシャたちとここ10階層で出会って、いくつか会話をして11階層を覗いてくると言って先に進んだ以来、見ていないそうだ。


 11階層からは魔物の強さは跳ね上がる。

 ベテランでも油断はできないし、全滅も十分にある得る話ではあった。


 臨時の弓使いを連れてまで新しい狩場を開拓するかは疑問ではあったが。

 特にサレバにとっては冒険の後のお楽しみの方が大切であっただろうに。


 簡易な食事を終え、10階層を軽く見て回る。

 5人で危なげなくウサギの魔物を狩り、鋭い爪と肉を採取する。


「お〜い、こっち来てくれ!」

 採取が済んだ俺たちをモレナが呼ぶ。


 行くとそこには底の深そうな穴がぽっかりと空いていた。

 そうは言っても薄暗いダンジョンの中だけに見えないだけで浅い可能性もある。


「11階層に繋がっているのかな?」

「……かもしれない。

 何かで照らせないかなぁ」

 そう言ってバドは錬金術師らしく荷物が詰まったリュックをゴソゴソとやる。


 そこで同じように穴を覗いていたカワセミの背に荷物ごとドンっと当たる。


「あっ」


 カワセミは声も出せずに目を見開いて穴にゆっくりと落ちていく。

 そう見えるだけで、それは一瞬の出来事だろう。


 俺は咄嗟にカワセミの手を掴み抱き寄せるが、そのまま共に底の見えない奈落へ落ちて行った。


 それはまるで冒険者の未来のように。

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