マッチ売りのおじさん

タカハシU太

マッチ売りのおじさん

 寒空の下、商店街の路上に立って、俺は両手にマッチ箱を掲げていた。

「マッチ、マッチ、マッチはいかがですか! 1個たったの20円! 光熱費が高騰するこのご時世、昭和レトロのマッチで温まりませんか!」

 おじさんが怪しい何かを売っていると思われたのか、そもそもおじさん自体が怪しいと思われたのか、通行人たちは無視して通りすぎていった。

「ええい! 半額! 半額の10円でどうですか!」

 それでも相手にされない。

 このご時世……今どき、マッチなんて。

 足もとの大きなダンボール箱には、まだたっぷり入っている。ゴミに出すにもお金がかかるのだ。こうなったら……。

「昭和のレトロなマッチ、タダで差し上げます! ご自由にお持ち帰りください!」

 誰も興味を示さない……と思いきや、一人の若い女性、アイドルっぽい可愛らしい子だけが声をかけてきた。

「全部ください!」

 ダンボール箱を示した。ゴミを持っていってくれるのならありがたい。

「どうもありがとうございます!」


 帰ろうと駅前にやってくると、先ほどの女の子が立っていた。マッチ箱をかかげて。

「マッチはいかがですか! 1個1000円! 私の愛のこもったマッチはいかがですか!」

 男たちが群がって買い求めていた。


                 (了)

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