第11話 おまけ モクレール侯爵家の人々の末路
(俯瞰視点)
魔法格闘祭で魔王が王族を滅ぼす様子を、平民をはじめ主だった貴族たちは皆目撃していた。妖精の言葉は不思議なことにその場にいた全ての人々の耳にも届き、民たちは王族がなにをしてきたかを理解した。それからというもの、雨の日ばかりが何日も続き大洪水が起きたり、大地が大きく揺らぎ建物が崩壊し津波が起きたりと、大きな天災に見舞われるようになった。そのため、人々は魔王様や妖精王様がお怒りになっていると考えた。王族が滅んだにも拘わらず、なぜまだ怒りがつづいているのかを彼らは真剣に考えたのだ。
「きっと、モクレール侯爵家の人たちのせいよ。あたいはモクレール侯爵家のメイドだけど、カトリーヌ様は10歳で引き取られてから15歳の魔法鑑定の日まで、あたいたちと一緒に働かされていたんだから!」
「間違いありません。カトリーヌ様は日も当たらないメイド部屋に押し込められて、ハーマン様に性的嫌がらせをされたり、ニコル様に意地悪されていたのを実際この目で見ました」
モクレール侯爵家の使用人たちが続々と証言をしていった。
そうしたなかで、民衆はひとつの答えを導き出した。モクレール侯爵家の人々に報いをうけさせなければ、きっとこの天災は永遠に続くと。かくして、モクレール侯爵家の人々は捕らえられ、新たに建設する防波堤の人柱にされることが決定したのだった。
「ちょっと、なんでこんな野蛮なことをするのよ? 私たちをこんなところに生き埋めにしようとするなんて! 祟ってやるわ。絶対に、お前らを許さないんだから」
「人柱なんて無意味だぞ。これは普通の天災だ。十年前だって似たようなことがあっただろう? 定期的に起こる避けがたい自然の災いで、魔王や妖精王の仕業ではない!」
モクレール侯爵夫妻は自分達を人柱にしようとする民衆を説得しようと試みた。
「あぁ、皆そんなことは頭ではわかっているんだよ。でも、十五年前を思い出せ。モクレール侯爵領で甚大な被害を被る災害が起きたとき、お前たちは誰を人柱にした? 平民の娘を三名、くじ引きで選んだよな? その娘たちの親が今回すすんで工事現場で働きたいと申し出ている。もちろん、工事現場監督になった俺もそのひとりだよ」
モクレール侯爵夫妻は忘れていた。十五年前の今日、モクレール侯爵領で人柱を埋めて工事をさせたことを。現場監督官は嬉々として、モクレール侯爵夫妻に土砂を少しづつかけていった。
「待って! 娘の私には関係ないわよね? だってその人柱の件はお父様がお決めになったことだわ」
「そうだぞ。俺たちには関係ない。人柱反対!」
ニコルとハーマンは、なんとか自分たちだけでも助かろうと必死だった。
「お前たちも魔王妃様に失礼なことをしたから許しておけない。それに、これは必要な儀式なんだ。我々は抱えきれない不満や悲しみを、全てお前たちのせいにして楽になりたいんだよ」
「そんなむちゃくちゃな。おかしいわよ。お願い、死にたくない!」
☆彡 ★彡
モクレール侯爵家の人々が生きたまま土砂に埋もれていく様子を、魔王は庭園の水鏡から眺めていた。妖精王も一緒に魔王が焼いたパンケーキをつまみながら、つまらなそうに水鏡を見つめる。
「やれやれ、人間ってのは考えることが残酷だな。俺たちは全く今回の災害には関わっていないのになぁ」
「本当だよね。今の私は人間どころではないのに。なにしろ、妃が今にも・・・・・・」
オギャーー! オギャーー!!
「魔王様! 生まれたよ。元気な女の子だよ。双子だったから、もうひとりは男の子!」
「やった!! こんな嬉しいことはない。一気にふたりの子供に恵まれるなんて、幸せすぎて涙がでてくるよ!」
カトリーヌが魔王妃になって二年の歳月が経っていた。魔界も妖精界も幸せに包まれ、お祝いムードに華やいだ。
一方で、モクレール侯爵家の人々は最後の瞬間を迎えていた。土砂は彼らの身体を全て覆い尽くし・・・・・・
「妖精王よ。モクレール侯爵家の人々の末路はカトリーヌにはナイショにしてくれよ。カトリーヌには汚い人間界の人柱の話なんて聞かせたくない」
「わかっているさ。さぁ、赤ちゃんの顔を見に行こう。カトリーヌ似なのかな? お前に似ているのかな?」
「それはもちろん、ふたりともカトリーヌに似て欲しいよ。私はカトリーヌが大好きだからね」
「お前の娘が俺を好きになる未来があったら、お前は俺の義父になるのかな?」
「あ、妖精王様。それは素敵! カトリーヌの娘が妖精王様のお嫁さん。素敵、素敵」
「ふふっ。いいね。きっと、カトリーヌに似て優しくて美人になるね。賛成、賛成」
妖精たちがキャッキャッとはしゃぎ、魔族たちもニコニコとその様子を見ていた。いずれ、妖精と魔族も同族として一緒に住める愛に満ちあふれた世界が誕生するかもしれない。
「まだ、誰にもやらん! 娘は生まれたてなんだぞ」
はやくも娘大好き父親モードになった魔王なのだった。
おしまい
王太子に捨てられた美ぼうの侯爵令嬢は心優しい魔王様に溺愛されました 青空一夏 @sachimaru
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