距離

@rikuto_628

第1話

12月3日。人気も車も少ない道をあてもなく車で進んでいた。

外はもう暗く、星と月の明かりが一層際立つ。

そんな夜に僕と彼女の二人は無言のまま限られた時間を消費していった。

互いに何を話すべきか慎重に言葉を選んでいたのだと思う。

言葉にならない感情が心臓から頭へ昇るも、その感情を脳は処理できない。結局、湧いてはでる感情を言葉にできぬまま、車のスピーカーから聞こえる意味ありげな音楽と窓の外に映る景色、時間が少しスローで流れていた。

そしてふとした時に彼女が話し始めた。その時の言葉は少し震えていた。

「やっぱり決めきれなくて....」

と言うと、

「早く答えを出してそれを伝えようと思ったけど難しくて。そうしていたら2週間くらいたって、それで誘ってくれたから今こうしているけど。」

そう申し訳なさそうに続けた。

2週間程前、僕は彼女に「好き」と言った。その時の彼女はとてもお驚いた表情をしていて、本当に困っていたんだと思う。そして今も突然の告白にどうすればよいのか決めきれないでいるみたいだ。

僕としては、同じ気持ちじゃないならそうはっきりと言ってくれたほうが楽なのだが、”同じ気持ちじゃない”という訳ではなさそうだ。確かな根拠はないが漠然とそう思う。

彼女は今、自分が置かれている状況でこの件について決めることは、僕にとっても彼女自身にとってもよくないと思っているらしい。


彼女は職場の人間関係で悩んでいて、さらにそれが深刻なものだと教えてくれた。それで自分自身の気持ちの浮き沈みが激しく安定しないらしい。確かにそんな状況で「好き」なんて言われても「いまはそれどころじゃない」となるなと思った。


全てはタイミングなんだと思った。もし、彼女のメンタルが良い状態だったのなら、同じ気持ちだと言ってくれたのだろうか。少しの希望と諦めを含んだ意味のない考えが頭を駆けた。


「今日誘ったのは別に答えが欲しかった訳じゃなくて、たまたま1日空いていて、会いたかったし、だから誘ったんだよね。」

少し強がるように僕は彼女に言った。

そして僕はこう続けた。

「答え出すのに急がなくてもいいよ。全然急かしているわけじゃないから。それと僕はずっとこの関係でもいいとも思ってる。僕が思っていた答えじゃなくても、気まずくならないから。でもそうなったとして、しばらくは好きでいさせてほしいな。それでもいいなら、これからもたまに会ってご飯に行ったり、コーヒー飲みに行ったりできたら嬉しい。」

また強がった。なぜか振られる前提で話を進めた自分の情けなさで自分を嫌いになる。辛くて苦しくて困っているのは彼女のはずなのに。


そして彼女は「うん。」と頷いた。その時、彼女の瞳から小さな涙がこぼれたのを横目でみた。潤んだ瞳が月の明かりを反射させ、切なく美しく輝いていた。

隣にこんなに近くにいるのに、心の距離はなんて遠いのだろうと思った。


その後は他愛もない会話を続けて日付が変わる手前に「またね。」と言って別れた。

僕はそれからまた、しばらくあてもなく車を走らせ続けた。

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