第33話『絶望の果てに』
アノスが物凄い剣技と共に魔獣をせん滅させていく。
「凄い……。これが
ルイーザの背後で誰かがそう呟いた。
住人だけではなく多くの騎士も居る中で、誰も寄せ付けない程のアノスの戦いはまさに圧巻だった。
だがゲブラーもどんどん魔獣を召喚し、戦況は拮抗していた。
「ちっ、キリがねぇ」
アノスは魔獣を倒しながら何とかゲブラーに接近を試みる。だが、魔獣が肉壁となってなかなか近付けないで居た。
ルイーザは剣を引き抜くと、先陣を切って肉壁となっていた魔獣たちに突っ込んでいく。
「アノス殿! この場は我々にお任せを!!」
それに続くようにハグネイア騎士団の面々も突撃を開始し、魔獣たちの足止めを行う。その姿を見てアノスは思わず安堵の声を漏らした。
「ルイーザ……。いつの間にか大きくなりやがって!」
アノスはルイーザたちにこの場を任せると、魔獣たちの間をすり抜けるように加速していく。
「任せたぞ!!」
アノスが魔獣の間を縫うようにしてゲブラーに接近していく。
ゲブラーもそれに気が付くと、魔獣の召喚を止めてアノスに対して直接魔法で迎撃を開始した。
「貴方の弟子もなかなかやるではありませんか!」
「当然だ!」
魔獣と相対する最中、ルイーザはアノスの雄姿を目に焼き付ける。
剣技を魔法で防ぎつつ反撃を行うゲブラー。
だが、閃光とも呼べる速さで相対するアノス。
二人は互いに一歩も譲らない。
「貴方を倒すにはもっと強い魔法が必要なようです! だが、せっかく揃った魂を巻き込んでしまっては本末転倒!! 場所を移させてもらいますよ!!」
「望むところだ! 魔獣ごとお前をぶっ飛ばすのは訳ねぇが、こっちもあいつらを巻き込むわけにはいかねぇ!!」
激化していく二人は少しずつ場所を移し、更に大技を放てる場所へと移動して行った。
「アノス様。どうかご武運を——」
ルイーザは小さな声でそう呟くと眼前の魔獣を見据える。
静かな殺気を纏ったルイーザに反応するように、魔獣が勢いよく襲い掛かった。
「うおおお!!」
「グギャアアア——!!?」
魔獣の攻撃をルイーザが華麗に受け流す。そして、バランスを崩したところをシンシアとシルヴィアが急所を確実に捉えていく。
アノスたちが居なくなった荒野で、ルイーザたちは見事な連携で魔獣たちを抑え込んでいた。
だが——。
「はぁ、はぁ! ……やはり、おかしい」
ルイーザが思わず言葉を零した。
シンシアたちがルイーザの元へ歩み寄ると、互いに背中を合わせて隙を無くして会話を始める。
「……魔法。使えませんね」
「結界、っスかね?」
戦いの中で、ルイーザたちも魔法が使えないことを悟り始める。
「……ああ、そのようだ。だがそんなことは何の理由にもならない! 我々は、我々の責務を果たすのみ!!」
ルイーザは剣を強く握ると、再び先陣を切って他の魔獣へと攻撃を開始した。
◆◇◆◇◆◇◆
ルイーザの先制攻撃。それに続くようにシンシアとシルヴィアが左右に分かれ、魔獣の隙を突いて確実に一体ずつ仕留めていく。
その連携は一朝一夕で為せるものではない。見事な剣技と華麗なコンビネーションに、アイラは思わず感嘆の声を漏らした。
「すげぇ……。魔法を使わずに魔獣たちを圧倒してる……」
アイラは自身が見ているだけしか出来ない事に悔しさが込み上げてくる。
「ぅう……。カノア……」
ずっと何の反応も示さないカノアに、ルビーが顔を押し当てて泣いている。
「魔法さえ使えれば、あたしだって……」
アイラはその姿に己の無力さを感じ、思わず拳に力を込めて自身の脚を叩いた。
「魔法が使えないってどういうこと?」
アイラの様子を伺うようにティアが声を掛けた。
「ティア……。さっきの奴が言ってたんだけど、この辺りは魔封じの結界が張られてるらしいんだ。そのせいであたしもカノアも魔法が使えなくて、さっきの奴に……」
アイラの言葉に何か納得が言ったと、ティアも同意する。
「そっか……。だから私もドロシーさんのところで、あれを上手く扱えなかったんだ……」
ティアとアイラは無意識の内にカノアへと視線を落とした。
だがカノアがそれに気が付くことは無く、ただルビーが泣いている痛々しい姿だけが人々の心を締め付けていた。
そんな最中、町の誰かが声を上げた。
「魔獣がこっちに来るぞ!!」
「何だと!?」
アイラが顔を上げて周囲を見渡すと、魔獣の一匹がハグネイア騎士団の間をすり抜けてこちらに突進して来ているのが見えた。
町の住人たちは武具こそ持って来ては居たが、ルイーザたちのような戦闘が行える技術は持ち合わせていない。
残るは魔法の使えないティアとルビー。
最早、選択肢は残されていなかった。
「ぐっ……。あたしが……、あたしがぁっ!!」
アイラは脚に力を込めて立ち上がるとロングブーツに触れた。
だが、上手くその力を引き出すことが出来ない。
「——頼む! 動いてくれよ!! あたしがやらなきゃダメなんだ!!」
アイラの強い願いに応えるようにロングブーツが淡い光を放つ。だが、玉座の間で魔獣と戦っていた時と比べてその光は弱々しい。
「少しで良いんだ! あたしに、皆を守る力を貸してくれよ!!」
アイラは、よろけるように地面を蹴って魔獣に向かって走り出す。
「アイラ!!」
ティアが制止するも、それを振り切って魔獣へと突っ込んでいく。
「うあああ!!!」
「グガアアア!!!」
上手く力の入らない足で跳躍すると、勢いのままに魔獣へ飛び掛かる。
だが、魔獣はそれをいとも簡単に弾き飛ばした。
「うあっ!?」
二、三回は地面をバウンドした。
致命傷こそ避けたものの、強く弾かれたアイラは体を強打して動けなくなる。
「……畜生……。また、あたしは守れねぇのかよ……」
呻くように声を出しながら、アイラの目から涙が溢れ出す。
動かない体で視線だけを魔獣に向けると、魔獣は自身の目的がアイラではないことを告げるように、その狂気に満ちた目をルビーに向けた。
「ウガアアア!!!」
咆哮と共に再び魔獣は突進を始めた。目的であるルビーに向かって真っすぐに。
「やめてくれ……」
アイラが力を振り絞ろうと手を伸ばすが、その手が届くことは無い。
自身から遠ざかっていく魔獣の背中だけが目に映る。
涙で視界がぼやけ絶望に包まれていくと、ルビーを守るように覆い被さるティアの姿が、滲む世界で見た最後の光景だった。
「——グギャアアア!!!」
遅れるように聞こえて来たそれは、咆哮とは違った。
明らかに苦痛を伴う轟音。まさに断末魔と呼べるような響きが荒野に広がる。
「……何……が……?」
アイラは強く目を瞑り、再び開ける。
滲んでいた世界は、流れ落ちた涙と共に無くなった。
ハッキリとした視界。広がる光景。視線の先で魔獣が蒸発するように消滅していく。
「カノア!!」
向けた視線の先から、ルビーの喜びに満ちた声が聞こえて来た。
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