第27話『金色の祝福』
カノアはゲブラーに誘われるままに背後を着いて歩く。
大聖堂を出て大広間へと出ると、その足は城の外へと出ることは無く、玉座のあった大きな広間へと向けられた。
ゲブラーが大扉を開いて中に入ると、カノアもそれに続くように足を踏み入れた。
「ルビー!」
部屋に入るや否や、カノアは玉座に座らされているルビーの姿を視界に捕らえて声を上げた。
「安心してください。今はただ、眠っているだけです。先ほども言った通り、あの娘は私にとっても大切な存在。無下に扱うようなことはしません」
カノアはゲブラーの言葉をまともに聞こうともせず、急いでルビーの元へと駆け寄る。
「ルビー! しっかりしろ!」
カノアは何度か呼び掛けるが、ルビーは眠らされているようで反応が無い。
「直接言葉を交わすことは出来ずとも、最期にその娘の顔を見ることが出来て安心したでしょう」
そう言ってゲブラーは何もない空間に魔法陣を生成したかと思うと、その中から豪奢な杖を取り出した。
「さぁ、別れの挨拶も済ませたところで、貴方の命を頂戴しましょうか」
そしてその杖の先をカノアに向けると、呪文を唱える。
「
「くっ!?」
ゲブラーの声に反応するように、杖の先から光で出来た縄状の何かが伸びてカノアにまとわりつく。
そしてゲブラーはそのまま杖を振るうと、拘束されていたカノアをルビーから引き離すように投げ捨てた。
「ぐあっ!」
カノアはそのまま床に投げ捨てられ、衝突した痛みで声を上げた。
「さぁ、一度は我々に脅威を見せた貴方の実力を見せてください!」
ゲブラーは嘲笑いながら、カノアが立ち上がるのを待っている。
「……くそっ!」
痛みに耐えながらもカノアは立ち上がる。
だが、本当に痛いのは体ではなく心の方だ。
ルビーやリアナが敵の計画とやらのために利用され、今も目の前で眠らされている。
もしこの場で助けることが出来なければ、更に酷い結果が待っていることは火を見るよりも明らかだ。
「うあああ!!」
カノアは痛みに耐えながらも、懸命に地面を蹴ってゲブラーとの距離を詰める。
そして勢いそのままに殴ろうとするが、ゲブラーは軽々とそれを避けてカノアを光の縄で投げ飛ばす。
「ぐあっ!!」
今度は壁に打ち付けられ、カノアは全身を強打して呻き声をあげる。
「どうしました、ランダムウォーカー。カリオスを倒したという、その実力を見せてくださいよ!」
ゲブラーは声を昂らせながら、光の縄を鞭のようにしならせてカノアを何度も叩く。
(くっ! どうすれば……!!)
カノアは身を丸めながら、ただ痛みに耐え続ける。
「さぁ! さぁ!! どうしました! 何故魔法を使わないのですか!!」
(一か八かだ!)
カノアはゲブラーの攻撃を躱し、サッと右手を伸ばしてゲブラーに向ける。
「【ミク・アネモス】!」
だがカノアの手からは何も出ない。それはこの町に来てから何度も試した結果と何も変わらない状態だ。
「くっ……」
「どうしました? 手加減は不要ですよ?」
ゲブラーは不吉な笑みを浮かべながら、カノアに問い掛ける。
「それとも、もう戦う気力すら残っていないと言うのであれば、さっさと引導を渡して差し上げましょうか」
そう言ってゲブラーは、杖を立てるようにして床を強く叩く。
「
ゲブラーの声に合わせて、叩かれた床から先のとがった太い木の枝のようなものが生えてくる。
そしてその枝はカノアを貫こうと、物凄い速さで一直線に伸びる。
(くっ、もうダメか……!)
先ほど壁に打ち付けられた痛みが全身に残っており、カノアは瞬間的な反応が出来ない。
枝はカノアの体を確実に貫こうと軌道を変えることなく真っ直ぐ向かってきている。
カノアは最早打つ術が無いと諦めかけた。だが——。
「カノアあああ!!」
自身の名前を叫ぶ少女の声が、玉座の間に反響する。
そして痛みで身動きの取れなかったカノアの体は、走って来た少女に抱きかかえられて枝の軌道から無理矢理外された。
間一髪のところで枝の急襲を避けたが、カノアたちはそのままの勢いで床に体を打ち付けながら転がる。
「……アイラ!? どうしてここに!?」
体の何か所も摩擦で焼けた様に熱くなったが、体を貫かれるよりはマシだろう。
カノアは痛みを覚えつつも、自身を助けた少女の名を呼んだ。
「いってて……。どうしてってルビーが誰にも言わず居なくなったんだ! しかも部屋に行ったら窓も割れてるし、それにカノアまで見当たらないし……」
アイラはそう言いつつ、腕や足の痛むところを撫でながら立ち上がった。
(そうか……。前回もアイラは、ルビーが居なくなったこのタイミングで、俺をここに呼びに来ていたな)
カノアは前回の記憶と照らし合わせて、命拾いしたこの巡り合わせに胸を撫で下ろした。
「すまない。命拾いした」
カノアはゆっくりと立ち上がりながら、スラム街で共に戦ったあの日のことを思い出す。
きっとアイラとならこの状況も乗り越えることが出来る。
カノアはそんな根拠のない自信に、失われていた気力が湧き上がってくるような気がした。
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