第4話『異世界は踊る、されど進まず #2』
頬を風がなぞった気がした。
まどろむような意識の中、カノアはゆっくりと上体を起こした。
背中や腰に痛みを覚えつつ辺りを見回す。
「ここは……」
暗闇に広がる木々を見渡し、自身の置かれている状況を把握しようとする。
着ている服は学校指定の長袖の白シャツに黒のズボン。一体なぜこのような格好でこのような所に居るのか。
「確か俺は……。そうだ、さっきの子は!?」
頭の中に名前も知らない少女の顔が浮かぶ。周囲を見渡すが誰もいないことを把握し、自分が一人であることを理解した。
夢でも見ていたのだろうか。だが、名前も知らないその少女の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
カノアは痛む腰をさすりながら立ち上がり、ゆっくりと歩きだした。
「女の子としゃべっていて、確か魔法がどうとか。そうだ、暗闇から何か飛んできてそれが……」
恐る恐る自分の頭を触る。前、横、後ろと少しずつ場所を変えて触るが、怪我はしていないようだ。
「やはり夢か? ……少しリアル過ぎた気もするが」
暗闇にも多少慣れて夜目が利くようになってきた頃、開けている道が見えた。
「どこか出られるところまで続いていれば良いが」
その時、何か不穏な空気が漂っている気配がして周囲を見渡すが静けさばかり。だが、確実に何かが迫っている気がする。それが気のせいではないことが、近づいてくる草木をかき分ける音で確実なものとなっていく。
「まさか例の魔物ってやつか? 冗談じゃない。俺は風のように飛んだり走ったりできないぞ」
段々と音は大きくなり、それが音の発生源と自身の距離が縮まっていることを実感させる。
目を凝らして音が近づいてくる方をじっと見据える。木々の間から飛び出してくるのは鬼か蛇か。
「せめて見たことのある生き物で頼むぞ……」
意を決して身構えるも、余裕の無さは手に握られた多量の汗が物語っている。そして木々の間を掻い潜るように勢いよく飛び出してきた何かがぶつかってきた。
「きゃっ!?」
「うわっ!」
「いったぁ……。もう、何なの」
ぶつかった衝撃で後方へと飛ばされたカノアは地面へ倒れる。だが身の危険を感じる脅威が形となって現れた今、おちおち倒れてもいられない。すぐさま起き上がりぶつかってきた何かを確認する。
「魔物か!?」
「失礼ね! 私のどこが魔物よ!」
目を凝らし声の主を確認する。夜目が利かなかったらきっと分からなかったであろう。そこには同じくらいの年頃の少女が尻もちをついていた。
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