混ざらずとも重なって

全編を通して色彩を散りばめ、主人公が受け入れていかなければならない新しい景色を浮かび上がらせていく手法が巧みです。

4色から2色が欠けて、やがて残った2色で日常を彩っていく。

常識的には一度混ぜた絵の具は分けられないものですが、絵の具がなくなってしまえば同じ色は生み出せないという発想に虚を突かれました。取り返しの付かない出来事によって同じ色が二度と生み出せなくなってしまったけれど、残った色がそれぞれ寄り添って新しい色に変わっていく、未来への展望を感じます。

点描という美術の手法に着目したのは、人は絵の具とは違ってそもそも完全には混ざり得ない個である、という主張の含みでしょうか。