呼び方の話 完
「開斗、ごめんなさいできてえらいぞ~。え、待って。俺と華のせいなの?」
「あ!もしかして、咲也が僕達を名前で呼ぶのも、僕達が名前で呼び合ってるから?」
「うん、そう。つか、気づくの遅くね?俺もう10歳だよ?…開斗、おいで」
咲也に呼ばれて、開斗は隣に座る伊吹を乗り越えて咲也の膝に乗った。開斗咲也に頭をぽんぽんと叩かれて、可愛らしい笑顔を浮かべる。ご満悦だ。
咲也に指摘されて裕司はぐっと言葉に詰まった。年よりも大人びた咲也に名前で呼ばれることになんとも思っていなかったが、さて伊吹も小学生だという年齢になって気づいた。親を呼び捨てにする子供とはいかがなものか。外ではうまくやっているという咲也は本当に外ではきちんと使い分けているのだろう。
しかし伊吹にそれができるだろうか。
ただでさえ気性が荒く不遜な態度の伊吹が親を呼び捨てにしていては、学校で教師から目をつけられないだろうか。そして舌足らずに下の名前で呼びつけてくる開斗はとても可愛らしいのだが、伊吹に引き続き、これでいいのか?と裕司の中で疑問符が浮かんでしまった。
『伊吹は使い分けられなさそうだから』なんて言った日には、伊吹が爆発することが目に見えている。見えている地雷を踏み抜くことはしたくない。ここは長男である咲也に納得して改善してもらいたかったのだが、ねじ伏せられてしまった。親である自分達のせいだと。裕司は黙ったまま何も言えなくなってしまった。
華はパンと両手を叩いた。名案が浮かんだようだ。
「そっかぁ。じゃあ、僕達が『お父さん』とか『パパ』って呼び合ったら、慣れる?どうかな、パパ」
華は首を傾げて裕司に問う。
裕司は虚を突かれた。幾つになっても愛らしい夫に、心臓をぶち抜かれてしまった。
「は、へぁっ!?パパ!?華から!?ちょ、もっかい欲しいな、それ」
「裕司パパ~」
「はーいっ!なにこれ、嬉しい!すごく嬉しい!華お父~さん♡」
「わっ、お父さんて!照れるなぁ///は~い、なんですか?裕司パパ~♡」
「照れてんの、めっっっちゃ良っ!可愛いよぉお父さぁん♡もう一回!!!」
「なにはしゃいでんだよ」
「おかわりしてんじゃねぇよ。なんなんだよ、これ」
「はなとゆじ、いちゃいちゃ」
きゃあきゃあ騒ぐ両親に子供達は冷めた目を向けた。気にせず華と裕司はキャッキャウフフと盛り上がっている。
「よし。これからお父さんとパパって呼び合おう!お前達もこれに倣うように!ね、おと~さん♡」
「そうだね、パ~パ♡」
華と裕司はお互いをパパ、お父さんと呼び合う。いちゃいちゃと楽しそうな二人は冷めている子供達に気づいていない。当初の目的を忘れて楽しそうな両親に子供達は顔を合わせる。
「呼び方、変えられそうか?」
「え?…いや…あのノリに、乗んの?なんで咲也はそんな冷静なの?心死んでんの?」
「さくにーに、しんでるの?」
「死んでねぇわ。生きてるわ。乗るんだよ。あれが俺達の両親なんだよ。もう10年見てんだわ。慣れろ、お前らも」
「しんどい、しんどい。何見させられてんだよ、おれたち…」
「はなと、ゆじ。かえない、おれ」
死んだ魚の目で両親を見ていた咲也と頭を抱えていた伊吹は開斗を見た。開斗は凛々しい顔で両親を見つめている。咲也と伊吹は顔を見合わせた。
「…そうか。変えなくていいか。当初の目的忘れてそうだし」
「な。なんでお父さんとパパなのか、明日には忘れてるよな、あの二人」
「はなとゆじは、はなと、ゆじ!」
「「華と裕司は、華と裕司」!」
開斗は力強く宣言し、兄2人は末の弟に賛同した。どうせこう盛り上がっているのも今だけである。このノリに付き合わされるのはきつい。そんな時、決断が早く我が道を行く末の弟は頼りになる。あと、開斗が華、裕司と呼び続ければ裕司は簡単に折れるだろう。開斗に裕司と呼ばれて可愛い可愛いとデレついているのできっと大丈夫だ。
華と裕司はパパお父さんと呼び合ってまだいちゃいちゃしている。子供達は両親を、仲がよろしくてなによりだと温い目で見つめていた。
END
森の中の華 (オメガバースBL、α✕Ω) 【完結】 Oj @OjOjOj123
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