第20話


 私はそれどころじゃなかった。


 急いでトイレの中に駆け込んだ。


 絶対間違いだと思った。


 だから鏡の前に立ったんだ。


 「私」が誰かを確かめたくて。


 自分の「姿」を、——見つめたくて。




 「…嘘だ」




 それ以外に言葉は出てこなかった。


 身動きも取れなかった。


 さっきよりも鮮明に見える。


 さっきよりもずっと、ハッキリしてる。


 確かなことは1つだった。


 そこには、自分じゃない誰かが映ってるってこと。


 見たこともないヤンキーがいること。


 そして、何より…




 「男ぉ!!?」




 舐め回すように顔を眺めた後、叫んだ。


 勢いのあまり洗面台が揺れた。


 そうするよりなかったからだ。


 「まさか」とは思った。



 …まさか、自分が「知らない男」になってるなんて…



 混乱したまま、トイレを後にした。


 電話はひっきりなしに鳴いていた。


 登録した覚えのない、連絡先から。





 

 

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バッテリー 平木明日香 @4963251

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