夏の始まり

第12話



 ——蝉が、鳴いている。




 そうか。


 今はまだ夏なんだ。


 夏が始まったばかりなんだ。



 長い夢を見ている気がして、ふと、窓の外に目を移す。



 長閑な街の風景。


 川べりのそばの雑木林。



 電車に乗って、かれこれ何時間が過ぎただろう。


 誰も乗っていない3両編成の一番前に乗り、線路の続いていく景色を眺めていた。



 ガタンゴトン


 ガタンゴトン



 行き先も、線路がどこに続いているのかもわからなかった。


 シートの上に座って、ぶらぶらと揺れる吊り革の軋む音が、耳のそばを掠めていた。


 空はいつになく明るかった。


 雲ひとつない、真っ青な晴天。


 段々畑の周りに、鮮やかな色をつけたひまわりが咲いていた。


 畦道の上を走る蜻蛉の影が、ふと、ガードレールのそばを横切り。



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