第6話


 「もし、雨が降らなかったら、そう思ってませんか?」


 「…」


 「しかし、過ぎたものは変えられません。電車も同じです。発車時刻に乗り遅れれば、もうその電車に乗ることはできません」


 「どういう意味ですか?」


 「彼はもう戻ってこない。それは知っているでしょう?」



 駅員さんが言う「彼」が、誰か。


 わからないわけじゃなかった。


 大輝しかいないと思った。


 それ以外に思い当たる人がいなかったからだ。


 でも、なんで彼のことを…?



 「知ってるんですか?」


 「ええ、なんでも。しかし昨日は、災難でしたね」


 「土砂崩れもそこらじゅうで起きてるって、聞きました」


 「そうでしょうね。家も何軒か流されてましたから」



 昨日の雨は、全国でもニュースになっていた。


 西日本を中心に北海道や中部地方を含む全国的に広い範囲で発生した、台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨。


 昨日の17時10分に長崎・福岡・佐賀の3県に大雨特別警報が発表され、続いて19時40分に広島・岡山・鳥取、22時50分に京都・兵庫と、1日で8府県に大雨特別警報が発表された。


 隣町は、その雨の影響で今も救助活動が続いている。


 川の水位が上昇し、堤防が決壊したためだ。


 住宅や病院、飲食店などが建ち並ぶ町の中心部が、広範囲にわたって浸水している状況だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る