向日葵
小説狸
私と捨て犬「ソラ」
彼の横顔は未だに覚えている。
凛々しい横顔、凹凸があって、ただかっこいいと思った。
学習塾で一緒のクラスだった彼。
彼はいつも友達と話していた。
そんな彼に私は話しかけれる訳なかった。
同じ学校じゃないから、関係も無くて。
ただ、好きだった。
私はいつも環境を恨んでいた。
塾でしか会えなかった彼と近くに居たかった。
そんな鈍臭い言葉がこんなにも思い浮かぶのはなぜなのだろう。
一緒に色んな話をしたかった。
そう思っていた。
ただ、彼の事が頭に張り付いていた。
一年前。
彼は交通事故で亡くなった。
彼は家の理由で静岡に行き、静岡の親の実家で暮らしていたらしく。
この時は夏だった為、
家族の頼みでコンビニにアイスを買いに自転車で行ったらしいのだ。
この選択が間違っていたらしい。
彼は昼ながらも飲酒運転をする中年男性に轢かれかけた少女を庇って亡くなったらしいのだ。
自転車を放り捨てた跡があったらしく、運動音痴ながらも全力で助けたらしい。
私はこの話を彼の母親から聞いた。
関係のない私に、何故か話してくれた彼の母。
彼はこの人の遺伝が強いのだろうと思った。
凛々しさが溢れ出すのは。
丁度お墓のある所が同じだった。
ある意味運が良いのだろう。
これを知った日は家に帰りずっと泣いていた。
ベッドにうつ伏せになって、枕に向けて叫んだ。
苦しかった。
ずっと塾に来なかった理由を知った驚きと彼がもう存在しない現実に私は人生を左右された様だった。
「悲しみに堕ちてはならないと知っている。」
中学校の先生が入学してすぐに言った。
「自分を責めてもいいです。
でも、存在を否定しては成りません。
自分を責めても反省な意が有れば何でもいいのです。
だけど、存在自体を否定すると、貴方達に関わった人にまで影響を与えてしまいます。」
これを聞いた時、私の心には深い傷の様に印象が焼き付いた。
これを思い出した私は何か、楽しさを失ったような人になってしまった。
そして、私は彼の事を調べ始めた。
人柄。
性格。
そして、人間関係。
探偵のようにひたすら動いた。
元から、地頭がいい自信はあるので、
簡単に思えたが、
そこに楽しさは見つからなかった。
それらが合わさると彼には私の中で実態が湧いた。
「彼は、」
私は空に手を向けているようだ。
夕日が自分を貫いている。
ようだ、、、、
「華先輩?」
夢を見ていたようぁ。
私に声を掛けたのは森川 早希。
バスケットボール部の後輩だ。
私が部活が終わった後、体育館にある一つの椅子でぼーとしていたこと、寝ていたかはわからないが、それに心配を抱いたのだろう。
「大丈夫だよ。森川。それより、今日のプレイはとても凄かったよ。」
「ありがとうございます。」
少し照れ気味の言葉を受け止める早希。
私は誰かと話したがる人間じゃない。
無口で何もかもに関心を持てない。
ある意味、人に依存していたのではないだろうか、。
「じゃあ帰ろっか。」
そう言うと早希も「帰りましょうか」とうなづく。
私と早希は家が隣だから登下校は一緒。
休日は私の家にあるバスケットボール場で練習をした。
バスケットボール場と言っても大きいところではなく、
シュート練習を出来るくらいの半面コートだ。
早希は小学生の時から一緒だから妹の様な感覚に近いのだろう。
帰り道、早希にさっきの事を聞かれた。
「華先輩。あの時ずっと抜け殻みたいになっていて何を考えていたんですか?」
そうキラキラとした目で話しかけられる。
早希は可愛いから、それを誤魔化すわけにはいかない。
綺麗な黒髪につぶらな瞳。
男子バスケ部の半分は彼女に惚れたことがあるだろう。
「昔のことを思い出してて。」
「悠斗さんの事ですか?」
彼の名前を早希が呼んだ。
早希にはその話をした事がある。
この事は二人の秘密ね、と約束をしているので他の人には言った事がない。
波紋 悠斗。
それが彼の名前だ。
「うん。もう一年前だけどね。」
「そう言う出来事は頭によく残るんです。仕方ないですよ」
「そうだね。」
彼の話をすると矢張り胸が痛くなる。
苦しくなる。
ある意味呪いだろう。
でも、私にとっては苦しくはない。
って自分を錯覚させる。
結局は私が生み出した物なんだから。
「もう明日から夏休みですね。」
空気を読んだ早希は話の話題を変えた。
「夏休みかー今年は夏練が少ないから楽しみだね。」
「そうですね、先輩。」
この様に話をしていたらもう学校と1キロは離れた家に着いた。
黙っていた時間の方が長かった様だ。
家に入るといつも通り母がおかえりと言ってくれる。
他愛のない会話を少し話して、
私は今日は塾なので直ぐにお風呂に入った。
長くも短い様な髪を解いてお風呂の扉を開く。
その時にはもう涙が溢れていた。
自分を曝け出せる所はここくらいだ。
楽しくてもここに来るといつも泣いている。
私はその苦しみから逃げようとお風呂の大きな縦長鏡についた湯気の水滴に掌をぶつける。
体を支えると少しは動ける様になった。
直ぐにジャンプーをして、体を洗う。
お風呂から出たら直ぐに外着を着てドライヤーで髪の毛を乾かした。
一年前と比べ今の行為は変わりどころが多いと思う。
一年前は彼に少しでも気にして欲しいから香水をつけて美容には気を多く使っていた。
でも、今は彼がいない。
美容なんかに気を使わないでいい。
髪の毛を乱雑に乾かしてリビングに行って母と共に夜ご飯を食べる。
今日はオムライスとブロッコリーのサラダ。
いつも通り苺と牛乳と砂糖で作ったスムージーと共に食べる。
母の作る料理は絶品でお風呂後の私を励ます大切なものになっている。
「明日から夏期講習だけど、華ちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫。成績は何処のクラスでも一番だから。」
そう。
私は塾内の中2の中で一番成績が良く、全国に存在する塾の新聞のテスト結果TOP3にも載ったことがある。
中1の時には彼がずっと一位を取っていた。
「ごちそうさま」
そう言って私は食器を片付けた。
塾の道具をお気に入りの掛けバックに入れて玄関に向かう。
「いってらっしゃい。」
母がそう言ってくれた。
「行ってきます。」
そういって私は玄関から出て自転車に道具を乗せて、塾に向かった。
私の視界に見える風景はいつも過去を振り返らされる。
懐かしさを感じる。
切ない。
その言葉が一番この風景に合っている。
その様なことを考えているともう塾に着いた。
自転車から降りて駐輪場に止めて鍵をつけてラウンジと受付に向かった。
いつも通りの講師達がいて、いつも通りの風景が広がる。
教室に入る。
教室にはまだ一人しか来てなく、そもそもにクラスの皆と関係性がないので、話す相手すらいない。
自分の席についてテスト勉強を始める。
そうしてると時間が経ってもう9時40分。
授業は全て終わった。
直ぐに授業道具をしまって駐輪場に向かい自転車の鍵を解き、
自転車に乗って家に向かう。
家に帰ったらまたお風呂に入る。
今度はシャワーだけじゃなくて湯船にも入る。
そして、自室に行ってベットに飛び込む。
疲労が一気に襲ってくる。
また、共に眠気が襲ってくる。
そうして寝る。
そんな感じで夏休みも過ごした。
気づけばお盆。
亡くなった祖父や祖母が帰ってくる。
お盆だから塾も夏練もなく、自由に私は過ごした。
友達もあまりいないから何処にも行く気が出ない。
どちらかと言うと疲れているから動く気にすらならなかった。
それでも暇になって夕方、私は私服で山に自転車で走りに行った。
山に着くと自然を感じれる。
山といっても急な山でもなく、滑らかな道の私が疲れた時によく行く所だ。
現実から目を遠ざけれる様だ。
山頂に着くと丁度日が落ち掛けていて綺麗で仕方なかった。
美しくて、心も全て奪われた。
自転車を止めてフェンスに寄っ掛かって下を見るとダンボールの箱があった。
私は好奇心でその箱を開いた。
中には犬が入っていた。
「ワン。」
そう可愛く吠える犬。
可愛い。
私はこの子に目を離せなくなっていた。
ダンボールをよく見ると
[拾ってください]
と書いてあった。
なんて事をするんだ。
そう思ったけど、私はその気持ちを抑えた。
「この子、拾って飼っていいのかな。」
そう思った。
私は平気だろうと思ったからダンボールを自転車の籠に入れて山を下り家に向かった。
家に持って行くと母にはいいよと言われた。
それから二日。
この犬には「ソラ」という名前をつけた。
自由を求めているからソラ。
我ながらいい名前だと思っている。
私の部屋にソラはずっといて、寝る時はいつも一緒。
家にはもう慣れている。
ソラはまるで彼の様だ。
彼の情報を集めていて、彼の事はよく知っている。
だからこそ、ソラは彼に似ていると思ったのだ。
だけど、やっぱりソラは可愛いと思う。
お盆の最後の日。
ソラが突如いなくなった。
何でだろうという冷静な気持ちになれなかった。
家族の一員となったソラがいなくなった事で心配で仕方ないのだ。
私はこの街の全てを探した。
だけど、ソラはいなかった。
ソラに会いたい。
その気持ちが強くなった。
私は最後にソラと会った山の山頂に向かった。
もう夕暮れ、この世にある多くの帰還した魂が帰る様な気がした。
山頂に向かって、自転車を直ぐに止めて出会った場所に着くと、ダンボールの置いてあったところに人影があった。
その人物は石波 悠斗。
その人物で間違えなかった。
何でいるのだろう。
そういう疑問も湧いたが、私は彼に話しかけれなかった。
隣には行った。
私と彼の距離は1メートルもない。
私は勇気を出して話しかけた。
「悠斗くんだよね。」
「うん」
彼は反応してくれた。
話す事ができた時点でもう既に嬉しかった。
「僕はさ、もう居なくなるんだ。
華さん。僕はソラに化けて君と過ごしてた。
とってもなクズだよ。
でも、華さん。 」
彼がいなくなることにショックを受けた。
勘づいていたがソラは彼だったのだ。
「好きだ。」
その告白は私に大きな影響を与えた。
「私も、好きだよ」
彼は照れ始める。
でも、そんなふうに美しい感動は訪れないのだ。
日が沈みかけた。
かたわれ時だ。
だから、彼はいるんだ。
「もう、話してられない。」
その事実に、彼も気づいていた。
「わかってる。」
「僕はあそこへ行っても、君の安全を願ってるよ。」
「うん」
「最後に。」
彼が近づいてくる。
「あぁ、、」
目を閉じ、目を開けると彼はもういなかった。
来年のお盆にも帰ってくるかは分からないが、
私はもう満足だった。
結局は私は今まで幻を見ていた様だ。
それから、私は分からない涙を流していない。
向日葵 小説狸 @Bokeo
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