【短編】異世界転生したけどチートスキルを貰ったせいで何も怖くないのでとりあえず魔王倒してくる

白崎 奏

本編

さて、なんで俺は今魔王の前で堂々と立っているのか。

どうして俺は腕を組んで魔王を下から見上げているのか。


俺の防具は冒険者ギルドから貰った初期装備のままだ。

傍から見たらただゲーム初心者が

最強プレイヤーに凸っているようにも見えるだろう。

だけどこうなったのには深い理由があった。


まあ、ついさっきの出来事だ。

俺はただ普通に暮らしていた。


こことは違う世界で。










暇だなあ。

俺はどこに行っても見かけられそうな普通の男子高校生だ。

特にしたいこともなし、部活も入っていない、おまけに勉強も出来ない。

まあ生きがいというものが無く、ただなんとなくっていう理由で生きているようなもんだ。


高校生になっても話す人はおらず、俺は端っこの席で寝るだけ。

そんなしょうもない人生だったんだよ。

今日までは。




帰り道、もちろん誰か隣に居るわけもなく、1人で帰っていた。

交差点で信号が青になるのを待ちながらスマホを触る。


すると、視界ギリギリだった。

1人の少女が赤信号の中道路へと走っていった。

俺は一瞬違和感を感じ、そしてすぐに危険だと頭が察知した。


「おい!」


最後に大声を出したのはいつだ?

いや、そんなこと考えている暇などない。


特に誰かに助けろと言われたわけじゃない。

だが俺がやばいと気付いたとき、もう身体は道路の真ん中に飛び出していた。


ふと横を見ると、トラックがハイスピードでこっちに向かってきていた。


(あ、少女が死ぬ)


刹那の間、頭の中をこの考えが駆け巡った。

俺の事なんて今は関係なかった。


とっさに、手を伸ばして、少女の手を引っ張る。


彼女は俺の腕の力に引っ張られ、後ろまで引き下げられる。



だが、俺はどうなる?


そのまま前に飛び出し、トラックにはねられた。

そしてすぐに痛みを感じる間もなく、意識は途絶えた。







だが瞬きをしたかのように、すぐ目が覚めた。

そして、俺はなぜか地に足を付けて立っていた。

何が起きたか、すぐに思い出した。

そしてそれと同時に意識が芽吹き、視覚情報を読み取った。


(ここは…どこだ?)


病院…というわけでもなさそうだ。

何か見えない壁にでも覆われている感じがした。

少しずつ上を見上げると、どこまでも壁は続いていた。


(空?)


いや、何か違う。

いつも見ていた青い空でもなければ、激しく雨が降る曇った色でもない。


必死にここがどこか今までの記憶を頼りに考えていると、


「君が新たな勇者か」


俺の背後から少し甲高い女性の声が聞こえた。

無言で後ろを振り向いた。


すると今まで無かった空間に机と椅子、それと………


(幼女?)


ピンクの髪色に、小さなワンピース。

背丈も明らかに小さい。


「まあ、驚くのも無理はない。君は死んだんだ」


俺の頭の中は常にエラー状態だ。

この状況を見てすぐに理解しろという方が難しいかもしれない。

必死に理解しようとしても、何か矛盾が発生する。


「だからここは天の国」


俺の思考はピタリと止んだ。


「天の…国?」


「ああそうだ。ここは死んだ人が上の世界に行くか新たな生を得るか選ぶところなのだ」


つまり、俺は死んだ。

これは間違いのない事実。

だが、死んでも生きている。


(どゆことだ)


やっぱりまだ困惑は絶えない。


「まあ、時間がない。手短に言おう。勇者になって魔王を討伐してこい」


「は?」



何か理解できたわけではない。

だが俺の不満は今この一瞬で大量に浮かんでくる。

だが不平不満を言う前に、俺の視界は少しずつぐにゃりと曲がっていく。


「まあ、お前を最強にしといた。さっさと倒してこい」


甲高い脳内に響く声を最後に、俺の意識は途絶えた。






次に目が覚めた時、俺は異世界的な小説でよく見るような平原に寝転がっていた。

やっぱり不自然な空だなと感じ、そしてすぐに理解した。


「あ、ここ異世界か」


さっきまで理解出来なかったのに、なんでこんなにすんなり入ってきたのか。

それすらもすぐに分かってしまう。


「ステータスとかあるの?」


俺はなんか衝動的に、ステータスが見れるように唱えた。

すると想像通りに、自分のステータスが表示される。


《タカト・ハマグチ  称号名 勇者

 HP  100

 攻撃力 50

 防御力 50

 速度  50

魔力量 100

 

総合ランク F》



いや、勇者にしては弱いな。

あの天の国の幼女は、最強にしといたって言ってんのになんだよ。

総合ランクFとかどう考えても弱いだろ。


はぁ…とため息をついた。

まあ、一応スキルも見とくか。


《スキル一覧》

 ・勇者之力 神から選ばれた者に送られる。ステータスを無限に上げれる

 ・環境適応 与えられた環境に瞬時に適応する

 ・創造主クリエイター 考えた通りに魔法を撃てる

 ・魔力無限 魔力を無限に増やせる

 ・思考加速 脳内の思考が高スピードで行われる



は?

いやいや………え?


流石にぶっ壊れてた。

正直ステータスが弱すぎて、スキルも大したことないかと思ってた。


(色々となんでもありだな)


どうせ考えても、思考加速によって理不尽な答えが浮かび上がってくるだけだ。

とりあえず目の前に広がる草原の先に見える街に行こうか。



これ風の魔法使ったらめっちゃ早く移動できるんじゃね?



物は試しだ。

とりあえず頭の中にどういう魔法を撃ちたいか考える。

理想は足元に風を送り足を軽くするとか。



「うわ!」



すると本当に足が軽くなったような感覚になった。


これはすげええ。


もしかして空を飛べたり………?




「うおお」


身体が宙に浮く感覚などあっちの世界では体験したことがなかった。

しかも、想像通りの移動ができる。


「やべえ。気持ちいい」



風に押されながら、宙を浮かぶ感覚。

この何とも言えない快楽感に包まれながら、街まで高速で向かっていった。





流石に住民にバレるべきではないと思い、街に着く前に魔法は解除する。


この街は


《メイカナ》


そう入口らしきところの看板に書いてあった。


環境適応というスキルのおかげで言語も分かる。


中に入ってみると、

よくアニメとかで見てきたような西洋の街並みが広がっていた。

入口近くの広場には、なんか強そうな剣士の銅像が立っている。


その先を見上げると白いきれいな道が坂を成って続いていた。

レンガで出来た家が右にも左にも大量に並び、その先には白い宮殿が1つ佇んでいた。




「とりあえず冒険者にならないとな」



こういうのはシナリオ通りにお金を稼ぐことからだ。

言語が分かっているというのは非常に楽だ。


だからすぐにそれらしき建物を見つける。


《冒険者ギルド》



すげえ、本当にあった。

感動しながら俺はゆっくりと冒険者ギルドのドアを開ける。


ギシギシというドアの音ともに、中がだんだん見えてくる。


(あ、終わった)


中には、めっちゃ強そうな剣士やら魔法使いやらがこっちを見ている。



絡まれたら厄介なのでさっさと冒険者カードを作って、

お金稼ぎに行こうと思い、俺は案内カウンターみたいなとこに行く。


案内してくれたのは女性の方だった。


「あの~。冒険者カードを作りたくて………」


冒険者ギルドの中はすごく静寂に包まれてた。

だから俺の声がすごい響いている。


「はい。分かりました。ステータスを見せてください」


俺は無意識にステータスを見せた。

だが、全く自覚なしに見せてしまったのが始まりだ。


「え?勇者?」


俺のステータスの右上には称号が付いていた。

それを彼女が読み直した。

冒険者ギルド内は騒然とした。



勇者が冒険者ギルドに現れたということは魔王を倒しに来たと言っていてもおかしくはない。


「総合ランク…F」


女の人の声はどうしてこう響くのか。


ギルド内は笑いに包まれた。


「勇者がFとか、おかしいだろw」


「あいつ初期装備だしw」


なんか現実世界でネットで叩かれていることを直接言われたかのような感覚だ。


案内の人はギリギリ笑いを耐えながらも冒険者カードを作成してくれた


「出来ましたよ」


もう彼女も笑っているようなものだ。

こういう時に環境適応で都合の良い耳になってくれないかなと思ったが、そうはいかないらしい。

とりあえず端っこにある掲示板を見る。

冒険者ランクに合わせた依頼内容が張られている。


俺は最底辺のFなので素材採集でもしようかと思ったが、


「おい、勇者。本物なら竜でも倒して来いよ」


そう大声で言う男が居た。

俺は依頼内容の書かれた看板を持ったまま固まった。

やはり笑いの火の種とされているようだ。


なんかやっぱり、どっちの世界も一緒なのだろうか。





小学生のころ、同じような境遇に出会った。

クラスでも人気のやつが、俺に向かって

「そんなにゲーム強いなら俺と勝負しろよ」

そう投げかけた。

だが、俺はその勝負を逃げてしまい、結果的に全員から避けられてしまった。


二度目の運命変えるならここだった。






「いいよ。竜でも魔王でも倒してやるよ」


天の国の幼女を信じよう。

勇者と言ってくれたんだ。

俺もその名に恥じぬように動こうではないか。



俺の負けず嫌いみたいな要素が発動し、冒険者ギルドは結局笑いが静まらない。

案内の方も魔族領への地図を笑いながら俺に渡した。


ちなみに魔王城はお決まりの通り、魔族領の中でも奥の方に位置している。


もうどうにでもなれと思い、そのまま冒険者ギルドを飛び出した。



行く前にいくつか、本を冒険者ギルドから借りた。

移動中に少し歴史的背景が知りたかった。


脅威の滞在時間10分ほどだろうか。

魔王を討伐しに俺は街を出た。


今俺が読んでいる本は、この国と魔族領の関係ということだろうか。



やはり、お決まりの設定だ。


昔からずっとこの両国は争っているらしい。


しかし、近年、両国の関係に変化が訪れた。

約300年周期に1度誕生すると言われている勇者が魔王討伐に侵攻したのだが、

魔王討伐に失敗して帰ってこなかったとか。




まあ300年周期で誕生していた勇者が急に数年で誕生したんだ。

誰も勇者という称号を信じないだろう。

だから冒険者ギルドでも本気にされず笑われていたのだ。



さっきの街はどうやら魔族領の国境沿いらしい。

だからいわば勇者の見送りの場所としてなっているとか。


広場にあった強そうな剣士の銅像もおそらく勇者なんだろうな。


色々と歴史的背景が知れたところで、街から離れたところまで来れた。


ここまで来れたらばれないだろう。

俺はさっきと同じ魔法を思い浮かび、そして移動する。

やっぱ空中移動は何よりも楽だ。


せめて初期装備を変えて羽さえ生やせばそれっぽくなるんだろうが。

まあそう運命は傾いてくれない。




風の強さすら変えられるおかげで、魔族領にはすぐに到達する。

すぐにでも魔王を討伐したいところだが、


(俺まだ一回も戦闘してないんだよな)


流石に戦闘経験無しで突っ込むのはまずい。

どうしよっかと考えていると、少し遠くに鳥みたいなのが居た。


でもどんどん近づいて行くと大きな翼が付いているのが分かる。

つまりこれは鳥ではなく竜だった。



へえ。

やっぱ異世界に竜とか居るんだな。

そう関心したところで一つ思い出した。


『おい、勇者。本物なら竜でも倒して来いよ』


そういや冒険者ギルドでそう言われたな。

その時は冷静になれず頭にその言葉が入ってなかった。


とりあえず竜を相手に実践練習でも積んでみるか。

まあ実践練習の相手がまずおかしいんだが、このさい何でもありだろ。


風の力で急速に速度を上げて、竜の元へ目指す。

だんだん近づいていくと、竜も俺の存在に気が付いたのか、すごい大きな鳴き声を出した。


「うお…本物だ」


まるで推しと本当に会ったみたいな感覚に襲われる。

けど今はそんなこと考えている場合じゃない。


ていうかこの戦闘ミスったらワンちゃん死ぬかもしれない。


異世界来てすぐ死ぬのは流石に嫌だ。


じゃあ初戦から竜と戦うなよっていう話になるんだが、それとこれとは話が別だ。


やっぱカッコいいものに男は引きつられるんだ。

仕方ない。






竜の翼の1振りはまるで暴風かのような力だ。

だが、俺は風の魔法で相殺しているので自分自身に被害は及ばない。


さて、創造主クリエイター のスキルを使ってみるか。

想像通りに魔法を撃てるとかいうチート技がどこまで出来るのか試してみようかな。


まずは炎だ。

イメージは爆炎。

急に赤い炎が巻き上がる感じにしたい。


「爆炎!」


なんとなく魔法が発生する時、それっぽいのを言うと様になる。

竜の周りは赤い光と熱い熱で覆われた。

だが、赤いということで炎属性なのか、防御力が単に高いだけなのか、攻撃はあんまり通らない。


よし、次は水だ。

竜の真上に亜空間の入り口みたいなのが生まれて、大量の水が流れるみたいな。

まだ、別に竜を倒したいわけじゃないので威力とか強さを求めない。

ただ見てみたいだけだ。


水流滝ウォーターフェル


手を上にかざして、勢いよく振り下ろすと、想像通り竜は水の圧力にぶつかる。



風魔法はさっきからずっと相殺目的で使ってる。

まあ、もっと色んな魔法があるんだろうが、

試しに必殺技みたいなの撃ってみようかな。



やっぱ氷属性みたいなのがカッコいいだろう。

俺が手をかざしたら鋭い氷の剣が次々に生まれる感じ。


「氷剣!」


手を上にかざすと辺り一帯に竜の方を向いた剣が生まれる。

なんか、最強って感じがして生み出した俺自身は興奮気味だ。


そして、俺が竜の方へ腕を振り下ろす。

すると辺り一帯の氷剣は一斉に竜へ向かっていく。


すごい轟音が鳴り響く。

しかもこの氷剣は無限に生成ができる。

というのも魔力が無限だから、尽きることが無かった。



「はは」


ちょっとずつこの異世界にも興味がわいてきた。

氷剣の生成を止める。

煙が少しずつ立ち退いて竜が現れる。


見た感じ竜自体には何も効いてない気もするが、竜自身はすごく怒っていた。

そして竜の口がおもむろに光りだした。


(まさか………)



俺が本当に想像していたことが起きた。


口から炎のブレスが湧き出る。

辺りはとてつもないほどに大きな音に埋められる。

そして煙でよく見えないがおそらく土地が凄いことになってるだろう。


「流石にそろそろ止めないと被害が…」



なんか竜を一発で仕留められるような魔法無いかなと思って考える。

想像すればなんでも出来る。

ならば剣だって生み出せる。






属性は風だ。

そして大剣を生み出し、両手で握る。





「我が神の力を思い知るがいい。太陽神アマテラス





俺の速攻で考えた、対竜の即死技。


それは音のように早く、

それは風をすらも切り裂き、

それは光すらも切る力で。




刹那をも凌駕する速度で俺は竜を切った。



竜は残骸すらも無く刻まれ、

そしてまもなく耳がつぶれるような大きな音が聞こえる。



物理法則に従わない技とか撃ってみたかったんだよなあ。

太陽神の名前をこんな簡単に使っていいのかと言われると、悩みどころではあるがまあいいだろ。

こんくらい神様なら許してくれるさ。




「さて魔王を倒しにでも行くかあ」



竜でちょっと戦闘練習したし行けるだろ。

俺は魔王城ぽいところを飛んで探しに行った。





まあ、高速で移動しているんだ。

大きい建物だしすぐに見つかった。

やっぱりなんか感動する。


黒い宮殿。

街で見た白い宮殿とはまるで色が反転しただけのような対照的な装飾。

闇っていう感じがして俺はすごく好きだ。




じゃあ乗り込んじゃいますか。

俺は地上に降りて、勇者っぽく剣を腰に構えてゆっくり歩く。


まあ、初期装備のせいで台無しなんだがな。







魔王城までのちょっとした道で魔物と出会うことも無かった。

運がいいのかそう仕向けられていたのかは知らないが、

面倒ごとにならず魔王城まで来れてよかった。


すっごい実物は大きい。

入口も風格を表したのような扉でますます俺は興奮する。


「失礼…します…?」


俺はゆっくり両手で扉を押した。




中はすっごい静かだ。

でも、なんかすごい威圧を感じる。




どこからだろうと思って少し上を見上げると、



あ、居た。




腕を組んで今にでも襲い掛かりそうな人が1人。


宮殿が暗いからこそ、俺はどんなやつかは見えず影しか視界に入らない。




だが、もう絶対魔王だろう。



俺も腕を組んで堂々と魔王を見上げる。






そして今に至るのだ。

思考加速のおかげで思い返すのも楽勝だわ。

そう思いつつかしこまった表情で上を見つめる。







「お主が我を倒そうとする新たな勇者か」




はいそうです。

と言うことよりもっと混乱することがあった。



(え?女?)



普通魔王ってすごいムキムキな身体で出来ている男だろ。

なんで女なんだよ。

しかも声的に若そうなのが余計理解に苦しんでいる。


今からこいつを叩きのめすとかなんか心が痛い。




「ふっ。お前もまた怖気づくか。数年前に来た勇者一行も最初はみな固まっていたな」



いや、たぶんそれ声のせいじゃないかな。

その勇者も同じ考えしてたりしないかな?


ってそんなわけないか。



「ていうかお前は1人でこの城を攻めに来たのか」



まあ、仲間とか居なかったしね。

冒険者ギルドから笑われながら倒しに来ましたとか簡単に言えない。


「さっきの轟音もお前か」



あ、やっぱり聞こえてたんだ。

流石に音が大きすぎたか。

俺も耳潰れるかと思ったんだよね。



「何も言わないようだな」



魔王はもはや勝利をかみしめたかのような声だった。

別に怖気づいて声が出ないわけじゃないと伝えたい。


単純に人と話すのが苦手過ぎて声が出ないんです。





「仕方ない。さっさと終わらせようではないか」


あ、もう戦闘に行くパターンですか。


俺は腰に構えていた勇者が持ちそうな剣を抜く。

流石に勇者なら持ってるかなと思い、さっき作った新品だ。



「ふっ」


彼女のかすれた笑いとともに姿が消えた。

そして次に現れた時、彼女は俺をこぶしで殴る寸前だった。


(やばい)


思考加速&創造主で風の魔法を作り、なんとか避ける。


「なんか喋ったらどうなんだ」



どうせなら最後に一言だけ喋る方がかっこよくね?

そんな厨二病的な心に誘われ、俺は黙る。


「そうか。対話は無用ということか。ならば戦で交えようじゃないか」



彼女はやはり移動速度が速すぎる。

自力だと目で追うのがやっとだ。

思考加速のおかげでなんとかなってる部分はある。


だが暗闇というのが戦闘を難しくしていることだろう。




とりあえずなんか魔法撃っとくか。


属性は氷

周りすべてを凍らせる感じで


(凍てつけ。我が踏み入る地とともに)


すると、一瞬足元がめっちゃ寒かった。

すぐに環境適応でどうにかなるんだが、魔王の方はそうはいかない。



「ほう。氷魔法か。面白い」


魔王は関心しつつも攻撃を止めてくれない。


少し足元が鈍くなっているのか?

それとも氷で滑りやすくなっているからなのだろうか。

さっきのようなスピード感では襲い掛からなくなってきた。


俺は様子見で、勇者っぽく剣でこぶしを跳ね返す。

ちなみにそんなに力がないので、あらかじめ剣に重力を変える魔法を入れといた。

流石に重力とかは無いかなと思ったけどすぐに入った。

そのおかげでそんなに力がなくとも攻撃を抑えられる。


「なかなかやるな」


すると攻撃が止んだ。

いつの間にか、彼女はまた定位置に戻っていた。


「では魔法はどうだ」


すると脳内に急激な危険信号が発令された。

これは紛れもなくやばい状況だと察せられた。

俺はすぐに風魔法で横に移動する。


すると間一髪だ。


地面が切れるほどの斬撃が入った。



「ほう。この攻撃を読んだか。なかなかやるな。」


あとちょっと遅かったら死んでいたのか。

と思ったがそうでもないらしい。


勇者之力というスキルが無限にステータスを上げてくれる。

だから防御力をひたすらに上げれば耐えれるらしい。


(もはやこの戦闘で死ぬ方が難しくないか?)


やっとたどり着いた案だ。

まあ、もうここまでくると呆れるレベルだ。



「ではこの攻撃はどうかな?」


さっきのような瞬間的攻撃ではなかった。

周りの雰囲気的に闇魔法的なあれだろうか。


「散るがいい。究極闇星ダークプラネット



彼女の方からは紫色の光が見える。

だが、その瞬間世界が破壊されたんじゃないかくらいの強い衝撃が押し寄せてくる。


そして少しすると音が襲ってくるのだ。


(防御力防御力防御力防御力防御力)


風魔法で障壁を作りつつも、いつ壊れてもおかしくないので防御力をひたすら上げる。




爆発音は収まり、周りが煙に包まれて何も見えない。


さっさと周りの状況が知りたかったので風魔法で全部吹き飛ばす。



(え?宮殿は?)



まるで辺りが平野の中で戦っていたんじゃないかくらいすべてのものが吹き飛んだ。

そして空の光が俺たちの戦いに差し込んでくる。



(え、めっちゃ可愛い)


ようやく魔王の姿を見れた。


白いロングヘアで、黒いマントを着ている。

中の服は水着なんじゃないかくらい露出してる。

冬寒そう。



そして彼女の裏には3つの剣が浮いていた。


(かっけえ)


可愛いしカッコいい。

そんな魔王を倒したくはないのだが、皆に倒すと言ってしまったからにはやるしかない。


「我が姿を見れたのはこの攻撃に耐えた者のみ。

数年前の勇者はこの攻撃で散ってしまったがお前は耐えられるのか」


この攻撃はやはりやばかったのか。

数年前の勇者がどんなものか知らないが、勇者なんだから相当な実力者だろう。



「ここまで耐えたことは称賛しよう。だが次はない。」


そして白い髪の魔王は上に指を一本突き上げる。


なんか先っぽに紫色の魔力が溜まっているように見えるんだが。



「絶望を知ってくれよう。闇七花スリプス


あ、待って対策してなかった。

さっきの攻撃でギリギリ耐えた風の障壁ももうない。


今度こそ終わったかもなあ…


地面には何箇所か花のような柄の魔法陣が出る。

そしてそこが急激に爆発していく。

もちろん俺のところも。

闇の魔力に包まれ中で何度も爆発する。


表情すら見せなかったまま死んでいくのつらいなとか思った。

やっぱり最後になんか決め台詞言いたかった。

もしもう一度天の国の少女に出会えるのなら文句を言おう。


例えば…




(あれ、なかなか死なない)



すると、俺が意識を飛ぶよりさきに周りの闇の魔力が下がっていった。


「ば、ばかな」


彼女はすごく驚いてるけど、俺も驚いてる。


あ、さっき防御力上げまくったのか。

そのせいでまったく食らわなかった。




なんかこのままだと一生続きそうだ。

だからそろそろ戦闘終わらせるか…


この魔王には本当に申し訳ないけどこれから異世界で生きていくためにやるしかないんだ。


俺は光属性をイメージする。

魔法の想像は出来て準備万端。


そして一言決め台詞だ。




「時は満ちた。消えろ。天の国エンジェル





俺は右手を彼女の方へ差し伸べる。

慈愛の手だ。

だが運命に抗うことは出来ない。



手のひらから少しずつ魔力が溜まって行く感触がする。

少しずつ俺は上に手を上げる。


そして俺がそっと彼女の方へ押し出したとき、光線は放たれ、争いは終わった。


魔王の残骸は跡形も無く散ってしまった。




特に魔族領に居てもすることないし、さっさと冒険者ギルドに報告しようと街まで戻った。

証拠は何ひとつなかったから信用されないかもな、


そんな心配はなかった。








街に行くとすでに俺は勇者として扱われていたようだ。

そして住民に祝福されながら俺は道の先にある宮殿に向かった。




「そなたが、勇者か。この度は感謝している。本当にありがとう」


ザ・王様みたいな王様に感謝された。

俺は膝まずいてただ話を聞いていた。


宮殿を出ると、すごい見ず知らずの人たちが歓迎してくれる。

現実世界では人に話しかけられるとか考えられなかったからうれしいな。


冒険者ギルドに参ると、最初の時とは違い、すっかり勇者扱いだ。

色んな人が口々に魔王をどうやって倒したか聞いてきた。


だがまあ秘密ってことにしといた。

チートスキルがばれても面倒だしな。



ちなみに魔王と竜討伐のおかげで冒険者ランクはすぐに最上位のSSとなった。

Fからここまで飛び級するのは前代未聞らしい。



すっかり夜へと変わり、俺は近くの宿に泊まる。


今日1日なんだか疲れたなと思いベッドに寝転がる。


あっちの世界が懐かしいなと思いつつ、これからどうするか考えていた。


異世界に転生してからまだ1日目。

なのにもう魔王討伐したし、地位はほぼ勇者で確立されただろう。

ちなみに後から聞いたのだが、どうやら魔族領側の勢力が急激に下がったことで魔王討伐が分かったらしい。


この世界の文明は発展しているのか、全然発展途上なのか俺には分からない。



でも、1つ致命的な問題があった。




もうすることが無い。



あの少女にチート的能力を授かったおかげで、もう無敵になったようなものなのだ。

勇者って魔王討伐が目的みたいなもんだし、し終わってから何をしてるかなんて知らない。


何をしよっかな。


無難に人助けでもいいがそれだと面白くない。




天の国攻めに行くか?




「ありだな」



直接攻めに行ってあの少女に文句でも言いに行こうか。

まだどうやってたどり着くか知らないが、必ずや成し遂げてやろう。


そしてあの少女をぼこぼこにするのだ。

勝手に勇者に転生させた恨みを晴らさせよう。




さて、明日からまた頑張りますか。



新たな勇者の物語はまだ序章に過ぎなかった。




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【後書き】

読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムコンのために仕上げましたが、もしかしたら長編に変えて連載するかもしれません。




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【短編】異世界転生したけどチートスキルを貰ったせいで何も怖くないのでとりあえず魔王倒してくる 白崎 奏 @kkmk0930

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