第2話 囚人労働の実態
看守が縄を張って道幅を確定し、その中にある樹木を囚人に伐採させる。
誰がどの木を切るのか、分担が行われた。
どの方向に倒すのかも指示される。
倒木が他の木にかかると、取り除くことが難しくなるからだ。
倒す方向を決めておくことで、事故も防げる。
まず、倒したい方向の面に斧を入れる。
木の直径の4分の1くらいまで、水平に斧を入れていく。
初めのうちは体力があるので、調子良く打ち込んでいける。
しかし、斧を木に打ち付ける衝撃は、次第に腕を蝕んでいく。
腕が痺れてくるのだ。
水平に切り込みを入れることができたら、次はその切り込みに対して斜めに斧を打ち込み、三角形の切れ込みを作る。
木に「く」のような口を開けるのだ。これを「受け口」という。
この受け口の開き方で、どの方向に木が倒れるのかが決まる。
囚人は2人1組になっており、足を鎖でつながれている。
斧を打ち付ける作業は腕のダメージが大きいので、交代で行う。
三角形の切り込みができたら、その反対側に周り、再び斧やのこぎりで水平の切り込みを入れる。
この切り込みは、先程の三角形の切り込みよりも少し上に入れる。これを「追い口」という。
木の幹の中心近くまで切っていく。
途中、木の重みが斧やのこぎりにかかるので、抜きづらくなる。
太い木の場合は、二人用の長いのこぎりを使って切っていく。
切り込みが木の中心部まで至ったら、その追い口の上部を二人で押す。
すると、受け口(三角形の切り込みがある方)に木は倒れていく。
事故防止のために、倒すときは「そうら~!」と叫ぶ。
完全に倒れたら「ほうい!」と叫ぶ。
私語が禁じられている囚人生活で、この瞬間は声を出すことが許される。
初めのうちは、声を出すことで気分を発散させていたが、だんだんと疲れていき、発声の気力はなくなっていく。
とは言っても、木を倒す瞬間は達成感を味わえる瞬間でもあった。
* * *
倒したら、次は枝を斬り落としていく。
この作業もなかなかに大変だ。
払った枝は道の脇に積み上げる。
枝取りが終わったら、今度は切り株の掘り起こしだ。
スコップを使って、二人で円を描くように掘っていく。
スコップでも切れない太い根には、斧を使うこともある。
ある程度深く掘ったら、二人で一方向からスコップを入れ、てこの原理で切り株を起こす。
少し浮き上がったら、下方向に伸びている根を切っていく。
太い根を切ったら、再度、てこの原理で切り株を掘り出す。
取り出した穴には土を入れて埋める。
土は、もっこを使って運び入れる。
穴を埋めたら、これで1本の木の伐採が終わったことになる。
二人で次の木へと向かう。
ある程度、伐採が進んだら、次は路面づくりを行う。
土がむき出しのままだと、雨が降ったら泥沼になってしまい、場所によっては腰までつかってしまうこともある。
人が歩けるようにするために、倒した丸太を路面に並べていく。
丸太の上には、土を被せる。
更に、その上に砂利を被せていく。
これで、路面が完成だ。
次に、排水路を道の両脇に掘る。
排水路は、土をむき出しにしておく。
ソリを使った物資の運搬に使うので、泥になっている方が運びやすいのだ。
ここまでやって、道づくりの一工程が完了する。
* * *
2人組ごとに、伐採する木の数が決められており、早く倒せば次の木を選ぶ権利が与えられる。当然、細い木を選びたい。
また、看守たちにも担当する道の距離が割り当てられており、看守同士で速さを競わされているようだ。
看守もある意味、囚人に近い存在なのかもしれない。
俺たち囚人にとって、最大の楽しみは食事だ。
飯は麦が6、米が4の割合になっている。
なので、我々は監獄での飯のことを
おかずは、ニシン漬けが出ることがほとんどだ。
あとは、ホッケ、スケソウダラ、コマイなど、その季節での網走港で水揚げされた魚で食事の内容が決まる。
道路づくりは内陸部で行うので、輸送中に食材は傷んでしまいがちだ。
よって、魚は漬けた状態か、干物にした状態で運ばれてくる。
糧食の運搬も囚人たちで行っているわけだが、もっとも脱走しやすいのがこの
看守を襲撃し、糧食を搭載した輜重車を奪って逃走、などという事態もありえるからだ。
よって、監獄内でもっとも態度が良い囚人、いわゆる模範囚が輜重班に選抜される。
糧食は
しかし、北海道のこんな山奥に盗賊などいるはずもない。
糧食を狙ってくるのは人間ではなく、むしろヒグマやエゾオオカミたちの方であった。
* * *
食事は、働いた量に応じて支給される。
道づくりに貢献すると、囚人としての級が上がっていく。
上の級の囚人は、飯の量が多くなるのだ。
級が上がっても、おかずは全員、同じ量が与えられる。増えるのは飯の方だけだ。
それでも、他に楽しみがない囚人たちにとって、少しでも多く食べることができる上級の者は羨望の的であった。
日が落ちた後も数時間は、かがり火を焚いて道づくりは行われた。
予定していた作業のすべてが終われば、いよいよ就寝だ。
山の中に自分たちで建てた丸太小屋で寝る。
この小屋は、道づくりが進展していくと解体して運び、また建て直す。
いわゆる、移動監獄である。
枕などという上等なものはここにはない。
長い丸太が一本置いてあり、皆でそれを枕にして寝る。
木の枕というわけだ。
なかなかに頭が痛くなるのだが、こればかりは仕方がない。
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