孤島の王様

oufa

本編


 パシャール王は猜疑心の塊だった。その原因は彼の生い立ちにある。



 第二王妃を母に持つ彼は小さい頃から命を狙われ続けた。後継者争いはいくつかの派閥に分かれており、中でも強硬派である第一王妃派の力は相当であった。


 第三、第四王妃の子は幼い頃にこの世を去り、残る後継者候補は第一王妃の子であるフランジと第二王妃の子パシャールのみ。故にパシャールは毎日のように暗殺の危機に晒されていた。



 七歳の頃、彼は母である第二王妃と馬車に乗っていた。馬車が峠に差し掛かった時いきなり山賊の襲撃に会った。護衛の兵士は次々に倒れ馬車は悪党達に囲まれる。


「生きなさいパシャール。必ず王になるのです」


 母は優しい眼差しで彼を見つめしっかりと抱きしめた。そしてそのまま魔法の詠唱を始めた。それは一度だけ甦る事ができる禁忌の魔法。それをパシャール掛けたのだ。母が魔法を使える事はパシャールでさえ知らなかった。


 そして彼は母に抱きしめられたまま剣で貫かれた。


 

 翌朝パシャールが目覚めると辺りは静まり返っていた。彼の横には冷たくなった母の亡骸があった。彼は泣いた。救けに来た兵士が城に連れて帰った後も泣き続けた。


 

 その後もパシャールは命を狙われ続けた。眠れぬ夜が続いたが、辛い時悲しい時は母の言葉を思い出した。胸に残る傷跡を見つめながら。

 


 そして彼は生き残った。第一王妃の子フランジは成人を前に病に倒れ、遂にパシャールが王となった。



 彼の治世は平和そのものだった。


 優秀な官僚達、そして美しく優しい王妃にかわいい息子。国は豊かで外交も実にうまく行っていた。



 しかしパシャールが心穏やかに過ごす事はなかった。小さい頃から培われた、人を疑う心。王となった今でも、それは変わらぬどころか年追う毎に増していく。


 隣国へと出向いた時、護衛の騎士団長が不穏な動きを見せたとして処刑した。


 とある催事で側近の官僚達が何やら企んでいるとし牢獄送りとした。


 王妃が自分を殺し王子に国を継がせようとしていると騒ぎ立て、親子共々遠い国へと追放した。


 周囲がいくら説得しようとも彼の耳には届かなかった。



 そしてその狂気は遂に王国の民にまで及ぶ。反乱を抑制する為、ありとあらゆる掟を作った。それは人々がまともな生活を送れない程だった。



 やがて人々は国を捨てた。農地は荒れ果て王国はどんどん衰退していった。



 それを見かねた者達がとうとう反乱を起こした。城は取り囲まれパシャール王の味方は誰もいなかった。


 処刑では生温いと彼は絶海の孤島へと送られる。



「貴様はここで野垂れ死ぬがいい!」


 パシャールを船から蹴落とした兵士が唾を吐きかけ去って行った。


 そこはまさに無人の島。人はおろか獣さえいなかった。


 ただ打ち寄せる波の音だけが辺りに響いていた。



 やがて夜になり星たちが顔を出す。彼は胸の傷に手を当て、そして目を閉じた。



 母の優しい笑顔を思い出し、パシャールはようやく心穏やかに眠る事が出来た。





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