回想1 彼女の消失と残されたチョコレートパフェ

 今朝のことだ。彼女は唐突に失われた。僕の世界から、消え去ってしまったのだ。まるで初めからいなかったかのように、ごく自然に。彼女の知り合いに連絡を取ってみるだとか、特に確認をしたわけではないのだけれども、それは疑いようのない真実として僕の頭の中に鎮座していた。


 そして彼女が消えた後には、手のつけられていないチョコレートパフェが一つ残されていた。彼女が買ってきたのか、ここで作ったのか、すべてはわからずじまいだった。僕にチョコレートパフェを作ろうという気力は無かったはずだし、買いに行った記憶も無い。だから、彼女が残したものと考えて間違いは無いと思うのだが。


 テーブルの上にはただひとつ、そのチョコレートパフェが存在しているだけだった。朝食の用意があるわけでもなく、筆記用具が転がっているでもなく、あたかもチョコレートパフェだけのためにテーブルが用意されているかのようだ。


 しかし大事なのは、『彼女が消え、チョコレートパフェが現れた』というこの事実だ。何かのメタファーとしてのチョコレートパフェなのだろうか? だとすると、彼女の消失と何か関係があるのかもしれない。あるいは因果関係などなく、彼女は理不尽に消失し、チョコレートパフェは独立して存在しているのかもしれないけれど、そこはわからない。


 僕はいやにクリアな頭のままベッドから起き上がり、件のチョコレートパフェを観察することにした。


 下から順番に、コーンフレーク、白い生クリーム、チョコアイス、と三つの階層があり、最上階のアイスには、スライスされたバナナが添えられ、おしゃれにポッキーが挿されていた。


 いささかシンプルではあるが、何の問題も無いチョコレートパフェだ。チョコレートパフェ的観点から見ても、実に調和が取れていると思われる。


 こうなると、後は食べてみるという以外に選択肢は無くなってしまった。そもそも、チョコレートパフェというものの本質は、食べ物によって構成されている以上、食べられるということにあるはずなのだ。


 僕は、台所にある引き出しから、パフェを食べる以外の用途が思いつかない絶妙な長さのスプーンを取り出し……

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