最終話 告白されるような存在

「佐々木くんは好きな食べ物ってある?」

ドライブが終了して現在はスーパーで買い出しをしている最中だった。

「う〜ん。なんだろう。ハンバーグかな?」

「ふふっ。意外な答えだね」

「そう?みんな好きじゃない?」

「そうかもね。でもなんか意外で…」

佐藤静の言葉に僕は軽く苦笑するとカートを押していた。

彼女は食材をカゴの中にどんどん入れていくと会計に向かう。

お互いが財布を取り出すので僕は遠慮してもらうように手を前に出した。

「作ってもらうから僕に出させてよ」

だが佐藤静は首を左右に振って僕の言葉を拒否するようだった。

「私が誘ったんだし、貸し借りは無い方が良いでしょ?」

彼女はそう言うと割り勘で会計を済ませる。

「じゃあせめて荷物ぐらいは持たせてよ」

「うん。じゃあそれはお願いしようかな」

佐藤静は僕の提案を受け入れると荷物は僕に任せてカートを片付けに行ってくれた。

荷物を車に運んで、その足で佐藤静の家へと向かうのであった。



彼女の家に着くとすぐにキッチンへと向かい料理を始めていた。

僕はというと少しだけ落ち着かない思いでリビングのソファで腰掛けている。

少しの会話を繰り返しながら部屋を眺めたりしていた。

一時間もしない内に彼女は料理を済ませるとテーブルの上に運んだ。

「じゃあ食べよ」

僕らはリビングの椅子に腰掛けて食事を開始する。

ハンバーグを一口食べてあまりの美味しさに言葉を失いかけていた。

「美味しい?」

彼女はたまらず尋ねてくるので僕は頷いて大げさにも思える答えを口にしてしまう。

「これなら毎日でも食べたいよ」

そんな僕の言葉を耳にした彼女は予想外の答えだったらしく顔を赤らめていた。

「あ…ごめん。でも冗談抜きで本当にそんな感想だよ」

正直に答えてみせると佐藤静は勢いに任せてこんな言葉を口にした。

「じゃあ毎日一緒に過ごす?」

その言葉を耳にして僕の脳は軽いフリーズを起こしてしまう。

「えっと…それは…どういう意味?」

意味がちゃんと理解できないでいる僕を他所に彼女ははっきりとその言葉を口にした。

「だから…。付き合っちゃう?」

僕は人生で初めて告白を受けることとなり、こんな経験は今後ないかもしれない。

そんな大げさなことまで考えてしまうほどだった。

自分の存在が認められて甘い言葉まで掛けてもらえる。

こんな幸せなことはないと感じると僕は頷いて応える。

「それも良いね」

曖昧な答えだが彼女はそれで全てを理解したようだった。

「じゃあこれからよろしくね」

彼女の言葉に頷く僕は少なからず照れていたことだろう。

食事をいただくと僕らは今後二人で住む物件を探すのであった。



こうして僕の人生で初めての恋人が出来た。

しかも今までは告白し続けていた人生だったのに…。

僕は初めて告白というものをされた。

僕の人生に訪れた最大級の幸福を噛み締めながら彼女との生活に身を委ねるのであった。

               完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しく微笑まれただけで勘違いをしてしまった僕は告白をしてしまう。当然のように振られる…だが未来では逆に告白されるような存在になる ALC @AliceCarp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ