第八話 カルラと砦攻め

「エナは約束を守ってくれた! だから後はカルラにお任せだ! こんな門、ぶっ壊してやるぞ!!」


 カルラの固有スキル『オーバーパワー』。

 溜めれば溜まるほどに、一撃の威力が上がるスキル。


(エナが守ってくれたおかげで、カルラはだいぶ力を溜めることができた……これなら間違いないんだ!)


 考えたのち、カルラは大斧の柄を握る手に力を込める。

 そしてカルラは溜めていた力を解き放ち、凄まじい速度で大斧を門へと叩きつける。

 その瞬間。


 凄まじい音と、凄まじい衝撃。

 それらを立てながら、まるで紙細工のように吹き飛ぶ門。


 同時に先ほどまで漲っていた力が抜けて行く感覚。

『オーバーパワー』で溜めた力はあくまで一撃のみ、要するにしっかりと役目を果たしたということだ。


(よかった、これでエナとの約束を守れたぞ!)


 などなど。

 カルラがそんなことを考えたのとほぼ同時。


「撃て、撃てぇえええええっ!」


 そんな掛け声と共に、門の向こう側——埃の向こう側から飛んでくるのは十数本の矢。

 きっと万が一に備え、兵士たち門の向こう側で攻撃準備をしていたに違いない……が。


「遅いし、そんな攻撃は見え見えだ!」


 狐娘の五感によって、そんな攻撃は来る前からすでに感知していた。

 そして、狐娘の身体能力の前では——。


「全部叩き落としてやる!」


 カルラは大斧を凄まじい速度で振り回し、飛んでくる全ての弓矢を迎撃。

 彼女はそのまま地面を激しく蹴り付け、破壊した門から砦内に突入——。


「やぁああああああああっ!!」


 武器の手足を自在に使い、瞬く間にそこにいた兵士たちを壊滅させる。

 ただし、一人だけを除いて。

 カルラが兵士を一人残した理由は簡単だ。


「カルラに教えろ! 解毒薬はどこだ!? あの街に流した毒の解毒薬、教えないならおまえを殺すぞ!」


「あ、ひっ」


「知らないならこのままおまえの首の骨を——」


「ふぉ、フォルトン! 最上階の司令室にいるフォルトン様が知ってる!! 俺は本当に何も知らない!」


「だったらそこで寝てろ!」


 と、カルラは兵士を壁へと投げ飛ばし昏倒させる。

 目指すは最上階、倒すべきはフォルトン。

 今の反応からして解毒薬がある可能性が高い、となれば。


「カルラとエナを遮る邪魔者は、みんな排除してやる!」


「あ、ちょ! カルラってば進むの早す——」


 と、カルラの声に続いて聞こえてきたのはエナの声。

 しかし、カルラは彼女の声を聞き終わる前に。


「エナ! エナの敵はカルラが全滅させる!! 魔王様はゆっくりと偉そうに登場して大丈夫なんだ!」


 ダッシュ。

 カルラは再び床を蹴り付け猛ダッシュ。

 目的地は当然最上階。

 邪魔する者は——。


「魔王エナの親友にして腹心、狐娘のカルラがお通りだぞ!!」


 大斧を振るって、そして鍛えあげられた肉体を使って悉くを薙ぎ倒す。


 目の前の敵は戦闘状態に移るよりもなお早く、大斧による一閃。

 それにより出来た隙に斬り込まれたのなら、身体捻って攻撃を躱す——そこからカウンターで繰り出すのは回し蹴り。


 飛んできた矢は素手で掴み、相手へと投げ返す。

 通路なら突然現れた敵は、顔面を掴んで叩きつける。

 盾を構えている敵は、大斧を使って武器ごと圧倒。


 数分。

 カルラは僅か数分で、最上階の一室を除き——砦内に居た百数名の兵士達の全てを無力化させた……それも。


「これじゃ準備運動にもならないんだ!」


 まったく疲労をすることなく。

 まだまだ大きく余裕を残してだ。

 さてさて。


「あとはこの司令室だけだな!」


 この砦にはもう戦闘できる人の気配はない。

 エナが安心してここに来られるように、カルラが狐娘の五感を用いて念入りに潰して回ったからだ。

 いや、厳密に言うなら違う。


「居るな……この中に一人」


 感じるのは怯えと恐怖、そして僅かな怒りの気配。

 他の兵士たちとは異なり、鼻を刺すような香水の臭さが漂ってくる。

 それだけではない。


「薬品の匂いがする!」


 カルラの脳裏によぎるのは、探している解毒薬の可能性。

 俄然やる気が出てきた、故に。


 ドガァッ!!


 と、カルラは扉を破壊して室内に侵入。

 真っ先に見えてきたのは「ひぃ!」と、怯えて部屋の隅で縮こまっている太った子男。


(たしかこいつ、第十王位継承者って話だけど……人間の判断基準は謎だ! どうしてこんな奴が継承権を持っているのか、カルラには全くわからない!)


 まず弱そうだ。

 さらに容姿も太っており、だらしなく見える。

 着ている服以外はまるで良さそうに見えない。

 ただ一点褒める点があるとすれば。


「油断したなバカめ!」


 言って、フォルトンは突如立ち上がり振り返ってくる。

 そしてカルラの方へと小型の銃を向けてくるが——。


 ドゴォ!!


 カルラはフォルトンが銃を撃つよりも先に近づき、彼の横っ腹に渾身の蹴りを放つ。

 すると彼は銃だけをその場に残し、凄まじい速度で窓を突き破り、どこかへと吹っ飛んでいってしまう。


「最後まで抵抗したのは良かったぞ……あっ!! 薬の在処を聞くの忘れた!! どうしよう、カルラやっちゃった!!」


 大丈夫だ。

 まだ慌てる時間じゃない。

 エナが来る前になんとか見つければいいのだ。

 などなど、カルラがそんなことを考えていると。


「あ、リボルバーの拳銃じゃないですか!! 黒銀色でかっこいい! 銃身に何やら文字が……ふむ、これは魔王の武器としていただきましょう!」


 と、聞こえてくるエナの声。

 見れば、いつ間にやらエナがやってきており、床に転がっていた銃——フォルトンの忘れ形見を懐に収めているところだった。

 つまりやばい。


「え、エナ! く、くくく、来るのが早いな!」


「そりゃあそうですよ。私のためにカルラが敵をみんな倒してくれましたからね、ありがとうございます」


「ど、どういたしまして、だ……」


「どうしました? 何か様子がおかしいですが」


「う、うぅ……実は」


 と、カルラはエナへとことの顛末を語っていく。

 もちろん、絶対怒られる覚悟でだ。

 すると、エナはカルラへと言ってくる。


「そんなんで怒るわけないじゃないですか。というか、この部屋に薬があるのはもうわかってるんですよね?」


「わかってる! ハッキリと薬の匂いがする! でも、香水の匂いとか色々混じってるせいで、明確な場所まではわからない……」


「いえ、そこまでわかったならば結構です。こういうのは相場が決まっているんですよ」


「?」


 カルラが首を傾げている間にも、エナはトコトコ部屋の隅にある小さな壁掛け絵画の元へと歩いて行く。

 そして彼女はそれへと手を伸ばし……次の瞬間。


「あ! 絵画の下から金庫が出てきた!!」


「まぁ、お決まりというやつですね! こういうのはよくドラマでやってますから」


「ドラマ?」


「ドラマ……ぅ、ドラマってなんでしたっけ、たしかとても大好きだったものだった気がっ」


「エナ! 大丈夫か!?」


「だ、大丈夫です。少し頭痛がしただけです……それよりカルラ、この金庫を中身が壊れない程度に壊せますか?」


「そんなの楽勝だ! カルラはエナのためならなんでも出来るんだ!」


 名誉挽回汚名返上。

 カルラはエナの期待に応えるため、そして魔物達を救うため——この金庫の中にあるであろう薬を手にするため。


「固有スキル『オーバーパワー』!」


 それを発動させるのだった。

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魔王のコスプレしたまま異世界転移した私、直後に記憶喪失になり自分のことを本物の魔王と勘違いする アカバコウヨウ @kouyou21

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