第七話 魔王と砦攻め
時はあれから少し後、ビュービューと風が強くなり始めた頃。
場所は——。
「見回りの兵士も歩いてますし、どうやらあそこが兵士達が逃げ込んだ砦で間違いないようですね」
現在。
エナとカルラは砦から少し離れた岩場の影に身体を隠し、砦の様子をうかがっている最中だ。
なお、ここまでは件のリザードマンに案内してもらった。
(もう帰っていいと言ったのに、帰ったふりしてあそこで様子が伺っていますし……見た目と違って心配性なんですね)
と、エナは少し離れた岩場の影を見る。
そこから見えるのはリザードマンの尻尾だ。
本当は危ないから帰って欲しいのだが、まぁこれだけ離れていればそんな事態にもならないに違いない。
(そもそも私は魔王。彼に何か危ないようなことがあれば、この私が守ればいいだけですしね)
などなど。
エナがそんなことを考えていると。
「なぁなぁエナ、あそこの砦にはどうやって入るんだ?」
エナの袖をくいくい。
そう言ってくるのはカルラだ。
そしてたしかにそれはそう。
砦の入り口には、あの街の物より堅牢そうな門。さらに至る所に見張りの兵士たちが歩いている。
普通に考えるのならばら、正面からの突破は不可能なのだから。
だがしかし、エナは普通ではない。
「私は魔王ですよ? あんなの魔法で一撃ですよ!」
「カルラ思ったんだけど、エナが魔法を使うのは危ないんだ!」
「それは……なんでですか? あんな門、私の魔法なら一撃で粉砕できますよ!」
「やっぱり魔法を使おうとしてた! それが危険なんだ!」
「はて、理由を聞いてもやはりわからないんですが?」
「だってエナは記憶喪失なんだ! 魔力のコントロールも忘れちゃってる!」
それはそうだ。
なんせエナは未だ、意識的に魔力コントロールなんてものをした記憶はない。
常に覚醒目当てでやってきた。
「牛の時がいい例なんだ! あの兵士たちを倒した後も、大量の牛達が走り抜けていった! つまりオーバーキルだ! だからその……えっと、カルラ何て言ったらいいかわからない!」
「いえ、カルラが言いたいことは十分に伝わりましたよ」
要するにカルラが言いたいことはこうだ。
エナが魔法を使ったら、コントロール不能に陥り過剰な破壊をもたらしてしまう可能性がある。
つまりその結果。
「門を壊し、兵士を無力化しようとしたつもりが、勢い余って砦ごと吹っ飛ばしてしまうのを恐れているんですよね?」
「エナすごい! そうだ、カルラはそれが言いたかったんだ! 余計なお世話……だったか?」
「そんなことないです、ごもっともです。私が魔力をコントロールできない可能性は高いですから……そうなったら事です」
ぶっちゃけ、砦が吹っ飛ぶのは何も問題ない。
問題なのはその中身だ。
(解毒薬について知っている可能性があるのは兵士の誰か——そいつが砦と一緒に吹っ飛ぶのは、さすがにまずすぎますからね)
さて、となるとあの門を壊す方法を考えなければならないわけだが。
と、エナがそんなことを考えていると。
「門のことについて悩んでるなら、カルラが壊すぞ!」
「え、いけるんですか!?」
「少しの間、カルラのことを守ってくれれば簡単に壊せる! カルラの固有スキルはすごいんだ!」
「固有スキル?」
「ひょっとしてエナ、固有スキルについても忘れちゃったのか!? 固有スキルは産まれた時から、手足のように備わっている存在だから、忘れることなんてないと思ってた!」
言って、エナに固有スキルの説明を続けてくるカルラ。
「固有スキルは産まれた時から取得しているもので、全員が全員持っているわけじゃないんだ! でも、エナなら絶対持っているはずだ! だってそんなに強いからな!」
「まぁ魔王なのに持ってないわけないですしね、きっとそのうち思い出すでしょう。それよりカルラ、門は本当にいけるんですね?」
「余裕で壊せるぞ! カルラにおまかせだ!」
⚫︎⚫︎⚫︎
そして少し後。
現在、エナとカルラは砦の目の前まで来ているわけだが。
「おい、それ以上近づくなって言ってるだろうが!!」
と、砦の上部から聞こえてくるのは兵士の声。
見ればそこには何人もの兵士達が弓を持ち、一様にエナとカルラの方を狙ってきている。
あの量の弓矢が直撃すれば、エナとカルラはハリネズミのようになってしまうに違いない。
だがスルー。
完全無視。
「とりあえず、飛んできた弓矢は私がなんとかします。その間にカルラは手筈通りお願いできますね?」
「カルラにお任せだ! こんなの余裕なんだ! 余裕でぶっ壊してやるぞ!!」
言って、大斧を振りかぶるカルラ。
そして、彼女はそのまままるで力を溜めるように止まる。
これこそが先ほど聞いたカルラの固有スキル。
そして発動条件。
(『オーバーパワー』。溜めれば溜めれるほどに、一撃の攻撃力が上がっていくスキル……たしかにそれならば、こんな門くらい吹き飛ばせる威力に達しますね)
さて、カルラは宣言通り約束を果たそうとしてくれている。
ならば次はエナが約束を果たす番だ。
と、そんなことを考えている間にも。
「おい、そこの魔物!! 武器をおろせ! どういうつもりだ!!」
「おいシカトするな!!」
「あいつら舐めやがって!」
「可愛いからもったいなが、めんどくせぇ……もう撃ち殺しちまおうぜ!!」
「あぁ、そうだな。お前達、狙いをさだめろ!!」
と、聞こえてくる兵士たちの声。
彼らは砦上部に並び、弓矢を引き絞ってくる。
そして瞬間。
「撃てぇええええええええっ!!」
エナとカルラめがけて降り注いだのは矢の雨。
当たれば即死、穴だらけ間違いなしの死の雨。
だがしかし。
「な、バカな!?」
「矢が奴らに当たる直前で全てそれて行くだと!?」
「怯むな、撃て! 撃てぇえええええっ!」
だが当たらない。
矢の悉くはエナとカルラの少し手前で、まるで二人を避けるかのように一人でに逸れて行く。
説明しよう。
風だ——最初に説明した通り、今は風がとても強い時間帯。
すなわち、強風によって矢が見当違いの方向に流れていってしまっているだけ。
ただそれだけ。
だがしかし、それを勘違いする者がここには居る……それは。
「くくくっ、これが私の魔力! 魔王は本来、あなた達のような者では触れ得ならざる高貴な存在」
「な、何言ってんだあいつ!!」
「わかるように説明してあげましょう。私にはバリアが張られているのです」
「なんだと!?」
「私を害する意思がある攻撃を、完全に受け流し跳ね除ける魔力によるバリア……それが私の意思とは関係なく常に張られているのです」
「あ、ありえねぇ……そんな馬鹿げた、途方もない力を個人が持ってるわけねぇ! それに今あいつ、たしかに魔王……って」
と、急にビビり出す兵士たち。
だがもう遅い。
エナは兵士たちから視線を切り、カルラへと言うのだった。
「カルラ、あとは任せましたよ」
「エナは約束を守ってくれた! だから後はカルラにお任せだ! こんな門、ぶっ壊してやるぞ!!」
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