三 過去の出来事

 応接間に戻った私を由美が見つめた。

「父に愛人がいたんです。母は父の表向きの妻でした。体裁を繕う見せかけだけの。

 どうしてそれを見抜けなかったか、私は疑問でした。

 母は結婚に憧れる人ではありません。どうして結婚したのかわかりませんが、結婚が間違いだったとは言いませんでした。

 大学時代の母は、どんな人でしたか?」


「沈着冷静、穏やかな人でした」

「恋愛は?」

「言い寄る者はたくさんいたが、頼りになる相手がいなかった。

 優秀な人だから、群がる者たちが頼りなかったんだろうね」

「あなたとの関係は?」

「私はいろいろ理由をつけて近づいた。だけど相手にされなかった」

「母の記憶では、そうではなかったみたいですよ。

 祖母はあなたに好感を持っていたみたいでした。

 母も、あなたを優しい、ちょっと心配性の人だと言って笑ってました。

 今もそう話しながら微笑んでいる母の顔が思い浮びます。母は楽しそうでした・・・。

 いろいろ引越しを助けてもらったと言ってました。引越しを手伝ったとは言わずに。

 何の事かわかりますか?」


「ええ、わかります」

「どんな事がありました?」

「大家の干渉が気になったり、言い寄る者が多かったので、定期的に住む場所を変えていたみたいです」

「現在の私もそうです・・・」

 由美は俯いた。


「お母さんの弟はどうしてます?」

「叔父は母と疎遠でした。

 叔父は実家で祖母と居ましたが、まともに生活していなかったみたいです。

 私たちが訪ねてゆくより、祖母がここに来る方が多かった・・・」

「そうでしたか。若い頃は仲が良かったように思いました」

 私は母の由美子が弟と仲の良い姉弟と思っていたが、実際は違っていたみたいだった。


「叔父は地元の良くない仲間に入っていました。

 一応、会社組織ですが、地上げ専門の不動産屋です。

 田舎の市ですから土地開発はないし、土地利用者もいないんです」


 そう言って由美は目を伏せた。由美子が実家を援助していたはずだ。その援助は弟によって無駄に使われたと言うことか・・・。


「叔父がそうでしたから、祖母はここに来て愚痴ばかりこぼしていました。

 母は母自身の事を考えて、母と同じようにならないよう、私が私の道を歩めるのを望んで、どんな相手を選べば良いか、母なりに考えて私に接していたようでした」


「お祖母さんは健在ですか?」

「三年前に他界しました。位牌は実家にあります。お墓は叔父が管理していますが、どうなっているやら・・・」

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