二 焼香

 由美子の家を訪問する予定の当日の昼過ぎ。

 最寄り駅から由美子の家まで歩くと、前方から背の高い、由美子にそっくりな女が歩いてきた。女は私の顔を見ると日本人形のような顔を笑顔に変えてこっくり頷き、

「待っていました・・・由美子の娘の由美です」

 と言って家に案内した。



 応接間に通されてソファーに座った。

 ソファーテーブルにお茶を出しながら、娘はあらためて由美と名乗った。

 由美は私に嫁ぐように育てられたと言った。由美の記憶には私の大学時代の事がたくさんあった。母の由美子がどうしてそのように娘を育てたか、由美が話した。


「母は結婚して私を産んで、父と別居しました。

 その後、慰謝料と養育費でこの家を買って私を育てました。

 母は会社勤めしてました。

 そして、結婚には経済的な事より、もっと大切な事があると言って、あなたの事を話してくれました。私が幼い時からずっとです。

 私は母から聞かされたあなたを、私の大切な人だと思いました。

 母は、あなたがずっと独りでいるのを知っていました。その理由も・・・。

 母は、私をあなたと一緒にさせたいと思っていました。

 おかしいですよね。あなたの承諾も、私の承諾も無いままにそう思うなんて」

 そう話して由美は微笑んだ。大学時代の由美子が微笑んでいるみたいだった。


「まず、焼香させてください」

「どうぞ。こちらに」

 私は案内されて仏間の仏前に正座した。


 由美子が結婚したのは大学を卒業した二十三歳の時だ。相手は医師として働いていたから研修医を終えて働いていたことになるから、最低でも由美子より四歳以上歳上だ。二十七歳の夫と二十三歳の妻に何があったのだろう?娘を俺に嫁がせるために育てるには、それなりの理由が、娘の出産後に起こったことになる・・・。

 そんな事を考えながら由美子の位牌に焼香して冥福を祈った。

 私は由美子の離婚が気になり、あれこれ記憶をたどった。由美子に何があったか、思いあたることは無かった。私は応接間に戻った。

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