過去の記憶と未来の記憶 超感覚

牧太 十里

一章 過去の記憶と未来の記憶

一 訃報

 大学時代につきあいがあった由美子が亡くなったと友人から知らせが来た。友人は由美子の住所と電話番号を教えてくれた。日程を調節して由美子の家へ行き、仏前に焼香して冥福を祈ろうと思い、私は電話した。

 電話に出た声を聞いて、由美子かと思った。声があまりにも由美子に似ていた。私は焼香に伺いたい旨を話した。

 私は、大学四年の秋を思い出した。


 大学四年の秋、新谷由美子が見合いしたと噂が流れてきた。

「見合いじゃなくて、幼なじみ。お医者さんなの。

 結婚は以前から言われてたの。

 就職してしばらくしてからでいいと言われたけど、どうせなら早くてもいいと思いはじめたの」

 由美子は長身の美女だ。大学入学時から卒業まで成績優勝で主席だ。弓道三段。入学以来、私と友だち程度のつきあいがあった。

 見合いして卒業と同時に結婚するなら、なんで都内の国立大の工学部に入って某有名食品企業の内定を取りつけたのか不思議だ。由美子の家族は母と弟だけだ。結婚相手の医師が由美子の実家を経済的に援助するのかと私は思った。


 大学四年の三月、卒業式。

「前歯に口紅が付いてる・・・」

 私は由美子にそっと告げた。

「こういう注意、いつもしてくれるの、あなただけだよね・・・」

 卒業式の会場で由美子は寂しそうにそっと囁いた。

 由美子の寂しさは卒業より、新生活を得るために、小さい時から夢みたという食品開発をあきらめねばならない事にあると思えた。

 人生は思ってもみない方向へ進む。知らない未来へ。

 私はそう思っていた。

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