台本
カオリ「一人暮らしの時と違って部屋綺麗にしてるのね」
ユミ「そらそうよ。娘もいるし」
カオリ「えーっと、リンちゃんだっけ?」
ユミ「そう。今は寝室でお昼寝中」
カオリ「そっか。ならシーだね」
ユミ「うん。シーでお願い」
カオリ「それにしても、会って喋るのなんていつぶり?」
ユミ「確かに久しぶりね、五年ぶりぐらいじゃないかな。はい、コーヒー。熱いから気を付けて」
カオリ「ありがとう。う、うわっ本当に熱々。メガネめっちゃ曇っちゃった」
ユミ「ふふっ、その光景懐かしいわね」
カオリ「私からしたらこんなの日常茶飯事よ。マスクを付ける時代になってから更に曇ることが当たり前になったし。と、まぁ早く曇らないメガネ買えって話なんだけど、なかなか手を付けられないのよね」
ユミ「すぐ割るからでしょ?」
カオリ「そそ。よく分かったね」
ユミ「昔からよく割ってた記憶があるもの。コンタクトは怖いから嫌ってことも覚えてるわ」
カオリ「全部言っちゃってたか。あはははっ」
ユミ「それより最近はどうなの?」
カオリ「どうって?」
ユミ「前に相談してきたこととか」
カオリ「あー、電話で話した通り何とか離婚して、やっと落ち着いたって感じ」
ユミ「元夫がかなりの粘着質だったのよね?」
カオリ「そそ。まだGPSとかはギリ許せたんだけど、会社の同僚の男の子に嫉妬しちゃって怒鳴りに行った時は、流石に『あ、この人ダメだ』って。まぁ他にも家事はしないし、収入は低いしで、同棲せずに勢いで結婚したのが間違いだったわ」
ユミ「あら、そうだったの。結婚式で会った時は穏やかで良い人だったのに」
カオリ「基本良い人だったよ。でも、私と男が絡むと豹変するタイプ? いわゆるメンヘラ男子ってやつ」
ユミ「へーそんなのあるのね」
カオリ「ユミの夫はそういうところはないの?」
ユミ「んーないかな。あんまりそういうのは気にしないタイプかも」
カオリ「なるほど。そ・れ・は! 羨ましいことで~」
ユミ「もー何よ。目が怖いんだけど。それに聞いてきたのはカオリよ?」
カオリ「あははは……ごめんごめん。ちょっと意地悪したくなっただけ。でも、幸せそうで何よりだよ」
ユミ「今のところは――」
リン「――ママ?」
ユミ「あらリン、起きちゃったの?」
リン「う、うん……って、お姉さんだーれ?」
カオリ「ユミ、あ、お母さんの友達のカオリって言います」
リン「カオリお姉さん! 私はリンです。五歳です。好きな食べ物はプリンです!」
カオリ「自己紹介出来て偉いね! プリンが好きなんだね。プリン美味しいね!」
リン「プリン大好き!」
ユミ「リン、カオリお姉さんがケーキ持って来てくれたから椅子におっちんして~」
リン「わかった! ケーキ♪ ケーキ♪」
ユミ「嬉しいのは分かるけど、手をバタバタさせないの!」
リン「えへへ」
ユミ「あと、カオリお姉さんにケーキのお礼言って」
リン「カオリお姉さんケーキありがとう!」
カオリ「いいのよ。プリンじゃなくてごめんね~」
リン「ううん! ケーキも好き!」
ユミ「じゃあ、手を合わせていただきますして」
リン「いただきます!」
【少し間】
カオリ「あ、そうだ! リンちゃんは欲しいものとかないの~?」
リン「んー、にぃに!」
カオリ「おっ、お兄ちゃんか~」
リン「ママは無理って言うの! 酷いでしょ!?」
カオリ「あはははは……」
ユミ「無理なものは無理なの!」
カオリ「弟とか妹とかじゃダメなの?」
リン「うん! ねぇねでもなく、にぃにっ!」
カオリ「そ、そっか」
ユミ「最近はずっとこればっかりよ。あ、リン口元クリーム付けちゃって、もう」
リン「んっ! ありがとう、ママ!」
ユミ「次は上手に食べるのよ」
リン「うんっ!」
カオリ「……ねぇユミ。リンちゃん良い子ね」
ユミ「そう? 元気すぎて色々と大変よ?」
カオリ「元気なことはいいことじゃない。それに五歳なのにしっかりしてて、私感心しちゃった」
ユミ「確かに保育園でも周りの子よりはしっかりしてる気がするかな。私的にはもう少し落ち着いてほしいのだけどね」
カオリ「子供はこんなものだよ。むしろこれぐらい元気な方が可愛げがあっていいと思うけど」
ユミ「そういうものかな」
カオリ「そういうものよ。実際、私はリンちゃん気に入っちゃったし!」
リン「リンのこと気に入った? どういうこと?」
カオリ「好きになっちゃったってこと!」
リン「リンもカオリお姉さん好き!」
カオリ「そうかいそうかい! 今日から私の子になるかい?」
ユミ「それはダーメ! リンは私の子よ!」
カオリ「えーダメなの? リンちゃんもダメ?」
リン「んー、ごめんなさい。カオリお姉さんは好きだけど、カオリお姉さんの子になるのはやめとく。ママと『パパ』が一番好きだから! えへへっ」
カオリ「ふ、振られた……。でも、可愛い笑顔見れたから満足。あー子供っていいな~」
ユミ「昔は子供嫌いだったくせに~」
カオリ「今でも子供は嫌いよ。でも、なんか一人になったせいか寂しいんだよね、最近。だからさ、子供いればいいのになーって」
ユミ「育児は大変よ?」
カオリ「もちろん分かってるけど、リンちゃんみたいな可愛い子なら育児も楽しく出来る自信ある!」
ユミ「どこからその自信が湧いてきたのよ。私にはカオリが頭抱える姿しか想像できないんだけど」
カオリ「それも育児の醍醐味では?」
ユミ「子供を育ててからそのセリフは言って。はぁ……全く調子乗ると適当なことばっかり言うんだから」
リン「はっ、はっ、ハックッションっ!」
カオリ「きゃっ!?」
ユミ「り、リン!!! 手で抑えないとダメでしょ!!!!!」
リン「ご、ごごご、ごめんなさぁぁぁぁぁあ……うぇぇぇぇぇんっ!」
カオリ「だ、大丈夫! だから、リンちゃん泣かないで」
ユミ「大丈夫じゃないわよ。あー顔も服もこんなにドロドロに――」
カオリ「こんなの拭けば大丈夫だって! ちょっと洗面所借りていい? それと上の服は貸してくれる?」
ユミ「もちろん、いいわよ。洗面所の場所は分かるわよね?」
カオリ「うん。じゃあ服は適当に置いといて」
ユミ「分かった。ほら、リンも一緒に顔洗っておいで」
リン「う、うん……」
カオリ「リンちゃん、本当に大丈夫だから。泣かないでいいのよ。一緒に綺麗綺麗しようね~」
リン「うん、もう泣かない」
カオリ「おっ、偉いね~」
リン「でも、ごめんなさい。可愛いお洋服汚しちゃって……」
カオリ「いいのいいの! 洗えばいい話だから。それよりその顔早く綺麗綺麗しちゃおっか!」
リン「うん! する!!!」
【リンの顔を綺麗にする】
リン「カオリお姉さんありがとっ!」
カオリ「いいえ。あ、私も綺麗綺麗するからメガネ持ってもらっていい?」
リン「分かった! かけていい?」
カオリ「目が悪くなるからダメよ! 絶対だよ! 分かった?」
リン「はーい!」
【カオリが顔を洗い終わる】
カオリ「リンちゃんメガネ返してくれる? お姉さん何も見えないの」
リン「分かった。カオリお姉さん手出して!」
カオリ「はーい!」
リン「メガネどーぞ……えっ!?」
カオリ「リンちゃん? メガネ落としちゃった音したけど、どうかした?」
リン「カオリお姉さんって……前に、前に私とパパと一緒にプリン食べた、女の人?」
カオリ「な、ななな、なんのことかな。私とリンちゃんは初対面だと……思うよ?」
リン「ううん。絶対にパパと一緒にいた女の人だ! リン覚えてる!」
カオリ「ちょ、声が大きい。リンちゃんもう少し小さな声で喋ろう――」
ユミ「ねぇ、それどういうこと?」
カオリ「ユミ!? いつからそこにいたの?」
ユミ「メガネ落とした音がしたから急いで来たから最初からよ」
カオリ「ユミ違うの。リンちゃんは誰かと勘違いしてるみたいで。私は本当に何も知らない!」
ユミ「じゃあ何でそんなに必死なのかな?」
カオリ「え、それは……」
コウキ「2人とも〜たっだいまぁ〜!」
ユミ「あ、いいところに帰って来たわね」
コウキ「ん? どうかした?」
リン「パパ! おかえり! 前にプリン食べに行った女の人ってカオリお姉さんだったんだね!」
コウキ「え、リン……何言ってんだ!? 僕はこんな人知らないよ? あ、初めまして、ユミの夫のコウキです」
カオリ「初めまして、ユミの親友のカオリです。今日はお邪魔してます」
コウキ「いえいえ。楽しんでいってください」
ユミ「二人とも猿芝居はやめてちょうだい。結婚式で会ってるから二回目でしょ? あ、プリン食べに行ったから三回目かしら」
リン「プリンは三回行ったから五回目だよ、ママ!」
ユミ「あらリンは記憶力がいいのね。よしよし~」
リン「えへへ」
ユミ「それで二人はどういう関係なの?」
コウキ「本当に初対面ってか二回目だって!」
カオリ「そそ。久しぶりで会ったこと忘れたぐらいだし!」
ユミ「へー。で、リン。二人はどんな関係なの?」
リン「えーっとね、なんか「あーん」とか「ぎゅー」とか。後ね「ちゅー」とかしてた! リンは『ママに怒られるよ』って言ったけどね、パパが『プリン食べていいからママには内緒』って! あ、全部言っちゃった!!!」
ユミ「リン。少し後ろにいなさい」
リン「はーい」
ユミ「で、説明してもらえる? あ、もう説明は終わったわね。で、何か言うことある?」
カオリ「こ、コウキさんに誘われたの。最初は少しお茶しないって」
コウキ「えっ!?」
カオリ「私はもちろんユミに了承を得てるものだと思ってた。だから、会ったの」
コウキ「何言ってんだよっ! カオリが! カオリが離婚して寂しいって言ったからっ!」
ユミ「うっさい。どっちでもいいのよ、そんなこと。私に内緒でカオリと会ったことには変わりないんだから!」
コウキ「待って。違うんだ。僕は! 僕はユミの親友の力になろうと思って――」
ユミ「言い訳はいいから。結局、キスしたんでしょ?」
カオリ「コウキさんが無理矢理……」
コウキ「はぁ!? カオリからだろ!」
ユミ「で、キスまで? それとも――」
カオリ「押し倒されて私は抵抗したけど、どうしようもなくて!」
コウキ「嘘ばっかり言うな! 全部カオリが誘ってきたんだろうがっ!」
ユミ「そう。じゃあ、とりあえず一発入れるね!」
カオリ「うっ……ユミ、お腹は……お腹は止めて!」
ユミ「何でお腹は嫌なの? もしかして子宝に恵まれた? 一人は寂しいって言ってたもんね! 子供欲しいとか言ってたもんね!!!」
カオリ「そうだとしたら何!?」
ユミ「別に何も」
コウキ「僕の子じゃない! 絶対に僕の子じゃない!! 別の男の、子だ!!!」
カオリ「いいえ、私とコウキさんの子よ。もう三ヶ月目。嬉しいでしょ?」
コウキ「なっ……」
ユミ「コウキ。不倫した気持ちはどう? 楽しかった? 気持ち良かった?」
コウキ「僕は、僕はカオリをただ元気付けようとしただけなのに……それだけだったのに。こんなことになるはずじゃ……」
ユミ「それだけなら体の関係になんてならなくても良かったんじゃない? 私に相談も出来たでしょ?」
コウキ「それはカオリがユミには内緒にしてくれって!」
ユミ「へーそれを真面目に守ったと」
コウキ「そ、そうです……」
ユミ「で、カオリはこれで満足?」
カオリ「ふふっ、ええ最高よ! ユミの幸せを潰せたんだからね!」
ユミ「カオリ、あなた最低ね。自分の結婚が失敗したからって、幸せな私たち家族をぶち壊すなんて。頭おかしいわよ」
カオリ「そうかもね。でも、私は大満足! それに子供にも恵まれた。この子がいれば私は楽しく生きていける!」
ユミ「その子がいればでしょ?」
コウキ「ユミ。そのハサミで何するつもりだい!?」
ユミ「カオリの幸せを奪ってあげるのよ。もちろんあなたの人生も終わりにするわ。そして私の人生もね」
リン「それはダメだよ……ママ」
ユミ「うっ……」
カオリ「……きゃぁぁぁぁぁぁあっ!」
ユミ「リン、何してる、の……?」
リン「リンはパパを守ったの。偉い?」
ユミ「偉いわけ……はぁはぁ、ないでしょ。ママ死んじゃうの……よ?」
リン「パパを殺そうとするママなんていらない。それにリンにはパパさえいればいいの。大好きなパパと一緒に暮らせればいいの!」
ユミ「不倫した……男の、子供だけあって、狂ってるわね。いいえ、もしかしたら……これは、私に似たのか……も」
カオリ「ユミっ!!!」
リン「次はカオリお姉さんの番だよ」
カオリ「わ、私は何もしてない! 何もしてないでしょ!」
リン「ううん、したよ。リンの家族を壊した。幸せだったのに、カオリお姉さんのせいでママは死んじゃった。だから、その罪を償わないといけない、死でね」
カオリ「……や、やだっ! コウキさん、コウキさん! 助けてっ! この子を止めてっ!」
コウキ「嫌だよ。悪いのはカオリだろ? 僕を騙さなければ、僕たちの家庭を壊さなければ、こうはならなかったわけだし」
カオリ「ちっ、使えないクソ野郎がぁ!? 今すぐ逃げて警察に――あっ!」
コウキ「おーっと、下見て走らないと危ないよ?」
カオリ「コぉぉぉぉぉウキぃぃぃぃぃいっ!!!!!!」
コウキ「ふんっ、そこで這いつくばってなよ、可哀想な寄生虫さん」
カオリ「あ、嘘ッ!? こ、腰が抜けてう、動け――」
リン「さようなら、カオリお姉さん」
カオリ「ま、待ってっ……うっ!?」
【ちょっと間を置く】
リン「パパ、これで良かった?」
コウキ「良かった良かった。刺す場所も刺し方も教えた通りだ。これなら二人がやり合ってカオリが自殺したように見える。とりあえず僕は今から第一発見者として警察に電話する。リンは巻き込まれたことにするから泣いといてくれるかい?」
リン「うん、分かった。その前にパパ!」
コウキ「ん? どした?」
リン「リン偉かった?」
コウキ「ああ、とっても偉かったよ」
リン「じゃあ頭撫でて!」
コウキ「ほらほら、よしよし~」
リン「これで……リンの! リンの『にぃに』手に入る?」
コウキ「手に入るよ……それと新しいママもね」
リン「新しいママはパパにあげる。その代わり『にぃに』はリンのものだから。絶対に取らないで! 分かった?」
コウキ「もちろん。最初からそのつもりさ」
リン「ふふ~ん、ならいいけど! にぃに! にぃに!! にぃに!!!」
コウキ「嬉しいのは分かるが、そろそろ電話かけるよ」
リン「はーい、パパっ! うぇぇぇぇぇぇぇぇぇえんんんんんんっ!」
【声劇台本】不倫にプリンに逆鱗 三一五六(サイコロ) @saikoro3156_dice
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