ep3 美少女の死体は説得する
みずきちゃんと僕は本格的に鈴木さんの娘さん探しを始めた。
この日はかつて鈴木さんが一家で住んでいた家を訪ねた。
表札は鈴木でも、別れた奥さんの旧姓でもなかった。
僕がインターホンを鳴らすと若い女の人が出てきた。僕は鈴木さんの娘さんかと思った。
「はじめまして、私東雲と申します。人探しをしているんですが、鈴木洋子さんという方をご存じないですか。以前こちらの家に住んでいたみたいなのですが」
「私達家族は引っ越してきたばかりなんです。前の住人の方は鈴木さんではないですね」
僕は鈴木さんの奥さんの旧姓でも確認したが、前の住人は違うみたいだった。
僕たちは二手に分かれて、聞き込みをすることにした。
なんだか刑事さんみたいで楽しくなってきた。
僕は近所の家数軒を回ったが、有力な情報は得られなかった。
みずきちゃんと合流した。
「そっちはどうだった? こっちはまったく手がかりなしだよ」
「1軒鈴木さん家族と付き合いがあった家を見つけたよ。
その家の人によると、数年前に奥さんと娘さんは千葉の方に引っ越ししたんだって。
今でも年賀状とかのやり取りがあるらしくて、事情を伝えたら快く教えてくれたよ」
でかした、みずきちゃん!
彼女を連れてきてよかったと早速思った。
この日は時間切れになりそうだったので、ここまでにして家に帰った。
僕は千葉に行くときみずきちゃんを連れて行くかどうか悩んでいた。
教えてもらった住所はこの家から片道約2時間かかる場所だった。
これでは行って帰ってくるだけで4時間を使ってしまう。
結局みずきちゃんに事情を説明して、僕一人で行くことにした。
みずきちゃんは事情をわかってくれた。
僕は電車を乗り継ぎ千葉までやってきた。
教えてもらった住所はアパートの一室だった。
表札は奥さんの旧姓だった。
インターホンを鳴らすと鈴木さんと同じ年齢くらいの女性が出てきた。
確認すると、やはり鈴木さんの元奥さんだった。
僕は鈴木さんが不慮の事故でなくなってしまったこと、娘さんに会いたいという未練があり成仏できていないこと、僕が成仏師であることを伝えた。
奥さんは僕の話を聞いて涙を流していた。
別れて疎遠になったとはいえ、一度は結婚した仲だからとてもショックだと言っていた。
奥さんの気持ちが落ち着いてから、娘さんの居場所を聞いた。
現在は結婚して、旦那さんの都合で九州にいるらしい。最近お孫さんもできたそうだ。
僕は帰るときに、鈴木さんと面会するかどうかを聞いたが、会うと逆に辛くなると言われ、断られた。
家に帰り、今日のことをみずきちゃんと鈴木さんに報告した。
九州も距離的にみずきちゃんを連れては行けないから、僕一人で娘さんに話をしに行くことにした。
学校があるため平日は九州まで行く時間がなかった。
学校が休みの日、僕は飛行機で九州に向かった。
奥さんに教えてもらった住所には新築の一軒家が建っていた。
表札に書いてある名前は、教えてもらった娘さんの新しい名字と一致した。
インターホンを鳴らすと若い男の人が出てきた。
僕が名前と要件を伝えると、家の中に通された。
そこには赤ちゃんを抱っこした女の人がいた。
顔は鈴木さんに似ていた。
確かにこの人が娘さんだろうと思った。
「はじめまして、新人成仏師の東雲と申します」
僕は娘さんに挨拶した。
「とても若い成仏師さんですね。それで成仏師さんがうちに何の用で来られたんですか?」
僕は娘さんにお父さんが亡くなられたことや、未練のことを話した。
「そういうことなんですね。わかりました。でも私は父に会うつもりは一切ありません。
私と母を捨てて、その後疎遠になって連絡しなくなった人ですから。
それに今の私には新しい家族ができて、生活もありますから」
娘さんの返答は想定外なものだった。
僕はとにかく説得したが、結局この日娘さんが首を縦に振ることはなかった。
時間も遅くなったので、僕はまた出直すことを伝えて、東京に戻った。
次の日みずきちゃんと鈴木さんにこのことを報告した。
「そうですか。仕方ないです。諦めるしかないですね」と鈴木さんが言う。
「諦めたらだめですよ鈴木さん。未練が断たれなかったら悪霊化しちゃうんですよ。そしたら除霊されて地獄に落ちてしまいますよ」とみずきちゃんが説得する。
「仕方ないですよ。これは俺がやったことが原因なんですから」
鈴木さんは諦めモードだった。
僕もみずきちゃんと同意見で諦めたくなかった。
とりあえず鈴木さんにはもう一度死んでもらって、みずきちゃんと作戦会議をすることにした。
「どうすればいいんだろう。僕が何回も説得に行けばいずれは折れてくれるかなぁ」
「それは難しいんじゃない。同じことを何度しても意味が無いと思うよ」
やっぱりそうか。
「私が説得しに行くよ! 死んだ者の立場から意見が言えるし、そのほうが相手の心も動くと思う」
確かにみずきちゃんが説得したほうがいいかもしれないけど、距離の問題があるしなぁ。
「僕もみずきちゃんが説得するのがいいと思うけど、4時間の制限があるからね」
何かいい案はないだろうか。
「私が死んだまま棺に入って移動するのはどうかな。そうすれば4時間まるっと説得に使えるよ」
やっぱりその方法しかないかなぁ。
「その方法しかないよね。上司に頼んでみる」
すぐさま上司に電話して頼んだけど、上司の許可はなかなかおりなかった。
そりゃそうか。お金もかかるし、死体を助手にして説得させるなんて前代未聞だもんな。
何日間も続けて電話で説得すると、やっとのことで上司から許可がおりた。今回だけ特別にという条件付きで。
学校が休みの日に僕とみずきちゃんは九州に向かう。
朝から葬儀屋さんがみずきちゃんの棺を運び出し、空港に向かった。
貨物でみずきちゃんの棺を飛行機に乗せ、九州に飛んだ。
現地でも葬儀屋さんを手配してみずきちゃんの棺をホテルに運び込んでもらった。
事情をわかってくれるホテルを探すのに相当苦労した。
次の日の朝、みずきちゃんに霊エネルギーを送り込み蘇生する。
朝から娘さんの家に僕達は向かった。
娘さんと対面する。
「何度来られても父と会う気はないですよ。それでそちらの方は」
娘さんはみずきちゃんのことが気になるようだ。
「自己紹介が遅れました。私は東雲くんの助手をしている泉みずきと言います」
「お二人共お若いのに、成仏師の仕事をされているなんてすごいですね」
「早速本題なんですけどお父様に会って頂けないですか」
みずきちゃんは本題をストレートに言った。
「以前から言ってますけど、私は父に悪い印象しかないんです。だから会う気はありません」
やはり普通の説得だと成功しなさそうだった。
その後僕も頼み込んだがなかなか承諾してくれない。
ここでみずきちゃんが口を開いた。
「実は私も死んだ身なんです。東雲くんに蘇生してもらって今日ここに来たんです。
鈴木さんもそうなんですが、成仏できないというのはとても辛いことなんです。天界にも行けず、1日4時間しか行動することが許されない。それに未練が断たれなかったら悪霊化して地獄に落ちてしまう。その恐怖と日々闘っているんです。この恐怖は死んで成仏できない人にしかわかりません」
ここでみずきちゃんは涙を流し始めた。
「私は自分の未練が何なのか私にもわかりませんし、他の誰にもわかりません。つまり、このまま行けば悪霊化して地獄に落ちてしまいます。けれども鈴木さんはまだ未練がわかっているので救いようがあるんです。私は鈴木さんを救いたいんです。なんとか一目でいいんで会ってはくれませんか」
みずきちゃんは悪霊化の恐怖に怯えているんだ。
当たり前だよな、地獄に落ちるのは誰にとっても怖いことだ。
「わかりました。そこまでおっしゃられるなら、父に会いましょう」
みずきちゃんの涙を流してまでの必死の説得により、娘さんが鈴木さんと会うことを承諾してくれた。
次の週末に対面することが決まった。
金曜日の夜、みずきちゃんを九州に運んだのと同じ方法で鈴木さんを九州に連れて行った。
土曜日の朝、鈴木さんを蘇生して娘さんの家に向かった。
インターホンを鳴らすと娘さんが出てきた。
その姿を見た瞬間、鈴木さんは嬉しさで膝から泣き崩れた。
僕は二人の様子を遠目で見ていた。
鈴木さんが何回も頭を下げていた。
二人はしばらく話し込むと、和解したようで、娘さんも涙を流して抱き合った。
その後家の中に通された。
鈴木さんは自分の孫を抱きかかえると、とても嬉しそうな笑顔だった。
短い時間だったけど鈴木さんは久しぶりの再会を存分に楽しんでいた。
再会の時間はあっという間に流れ、別れのときとなった。
家の外まで家族で見送りに出てきてくれた。
娘さんと旦那さん、そして鈴木さんは最期の別れに顔をクシャクシャにしながら泣いていた。
ホテルに戻ると間もなく4時間のタイムリミットを迎えようとしていた。
「これで今生の別れとなります。未練を断ち切ることができてよかったです」と僕が言う。
「東雲くん、本当にありがとう。
まさか娘にもう一度会えて、しかも孫まで抱けるとは思ってもいなかったよ。
悪霊化する覚悟さえできていたから、成仏できるなんて」
鈴木さんはそう言うと僕の手を固く握りしめた。
鈴木さんは棺に戻り、やがて息を引き取った。
僕は手をかざして未練がなくなったかを確認した。
未練はきれいに無くなっており、無事に成仏もできたみたい。
僕は棺を葬儀屋さんに引き渡した。
これにて僕の仕事は終了だ。
東京に戻り、みずきちゃんに報告すると、彼女は自分のことのように喜んでいた。
死体を生き返らせる能力を手にした僕は美少女の死体を生き返らせてお近づきになる あまがみ てん @sento710
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