ep2 美少女の死体はデートしたい
次の日、僕は鈴木さんにみずきちゃんも娘さん探しに参加していいか聞くと、ぜひともお願いしたいと快諾してくれた。
そして今後の方向性についてみずきちゃんも交えて話し合った。
鈴木さんは体力の衰えがあるから娘さん探しを僕とみずきちゃんに任せたいと言った。
僕とみずきちゃんは「そんなことないですよ」と否定したけど、鈴木さんは「足手まといになるだけだから」と固辞した。
話し合いの結果、みずきちゃんが動ける時間は僕と一緒に行動して、それ以外の時間は僕一人で探すことになった。
翌日、学校から帰った僕はみずきちゃんを蘇生した。
「おっはよー! いつき。首を長くして待ってたよ」
ただ死んでただけじゃないかと僕は心の中でツッコミをいれる。
みずきちゃんはこう言いながら僕に抱きついてきた。
急に抱きつかれて僕はびっくりしたし、こんな美少女に抱きつかれたのでドキドキしてしまった。
「みずきちゃん、そういうことはもっと深い関係の人とすることなんだよ」
僕はみずきちゃんに注意した。
「単なるスキンシップじゃん。アメリカとか外国じゃ当たり前なんだよ」
ここは日本だよ。
「それに深い関係ってどういう意味?」
みずきちゃんはわかってて聞いてくる。
イジワルな子だ。
「その……、恋人とかのことだよ」
僕は少し恥ずかしながら言った。
「いつきとならそういう関係になってもいいよ」
みずきちゃんはさらっととんでもないことを言う。
僕は顔から火が吹きそうなくらい恥ずかしかった。
「冗談でもそんなこと言わないでよ……」
「冗談なんかじゃないよ。本気だよ」
みずきちゃんがどうしてこんな冗談を言うのかわからないけど、とりあえず街に出て鈴木さんの娘さん探しを始めよう。
みずきちゃんと僕は家を出る。
「じゃあ最初に鈴木さんが娘さんと一緒に住んでいた街に行こう」
「ちょっと待って、いつき。私といつきの初デートなんだから、化粧したり、着替えたりしたいよ」
初デートって……。僕とみずきちゃんはそんな関係じゃないし、一緒に人探しをするだけなのに。
だけど、みずきちゃんは一度言い出したら、超絶かわいいおねだりの顔とか、あの手この手を使って僕を説得する。
4時間しか生き返らせることができないのに。
僕はとうとうみずきちゃんのおねだりに負けた。
「わかったよ。4時間しかないんだからなるべく早くするんだよ」
「は〜い!」
みずきちゃんはルンルン気分になった。
「それでどこに行けばいいの?」
僕は女の子と出かける機会すらなかったから、こういうときにどこに行けばいいのかわからない。
「まずは渋谷かな」
やっぱり服は渋谷なんだな。
そこから電車を乗り継ぎ渋谷までやってきた。
生き返らせた死体は生前との違いがまったくない。
だから、みずきちゃんが電車に乗っていても不審がる人はいない。
渋谷につくと、みずきちゃんは目的地があるかのように歩いた。
「どこに向かってるの?」
「私の行きつけのオシャレなお店だよ」
そう言ってみずきちゃんと僕は渋谷の街を歩いた。
みずきちゃんは大通りを抜け一本入った小さなお店の前で止まった。
「ここだよ。あんまり知られてないけど超オシャレな服ばっかりなんだ」
穴場のお店を知っているなんて、さすがインフルエンサーだな。
お店に入ると確かにオシャレでかわいい服がずらりと並んでいた。
女の子と出かけるのが初めての僕は、当然こういうお店に入ったこともなかった。
お店に入ると、みずきちゃんはお店の人と顔なじみなようで、新作の服とかをおすすめされていた。
何着か、かわいい服を手に取ったみずきちゃんは、試着室に入っていった。
男一人取り残された僕はどうすることもなくて、一人お店の中で突っ立っていた。
すると、お店の人が僕の方に近づいてきた。
「みずきちゃんの彼氏さんですか?」
どうやら僕は彼氏と間違われているようだ。
「いえ違います!」
僕はすぐさま強く否定した。
「じゃあ兄弟、お友達とかかなぁ」
20歳くらいの若い店員さんは、僕とみずきちゃんの関係が知りたいみたいだ。
僕とみずきちゃんの関係はなんて表現すればいいんだろう。
「仕事というか、僕がやらなきゃいけないことがあって、みずきちゃんは協力してくれているんです」
こう表現するしかないよな。
「そうなんですね。みずきちゃんが男性の人と来店したことなんてなかったんでびっくりしちゃいました」
みずきちゃんほど可愛ければ彼氏がいたに違いないのに、男の人とこのお店に来たことがないのは意外だった。
「普段のみずきちゃんってどんな子なんですか?」
僕は普段のみずきちゃんを知らない。きっと馴染みのお店の人のほうがよく知っているだろう。
僕は気になったので聞いてみた。
「とにかく天真爛漫な女の子ですよ。礼儀もしっかりしていますよ。
インフルエンサーなのに威張ることもなくて、いつも腰が低くて、誰とも分け隔てなく接しています。
時々お菓子の差し入れなんかも持って来てくれます。本当にいい子なんです。
彼女がSNSでうちの服を紹介してくれたおかげで、売り上げも一気に伸びました。
だけど、今日来てくれるまでしばらく来店しなかったので、みんな心配してました」
「そうなんですね。普段の彼女をあまり知らなかったので、知れてよかったです」
僕はみずきちゃんが死んだということはあえて伏せた。彼女のためにも店員さんのためにもこのほうがいいだろう。
店員さんと話している間にみずきちゃんは試着が完了したみたいで、試着室のカーテンが開いた。
みずきちゃんはフリルのついたワンピースを着ていた。とても似合っていた。
「どうこれ? 似合ってるかな、いつき」
僕はすごく似合っていると答えた。
みずきちゃんは疑っていたが、本当に似合っていた。
このあとも何着か試着をしたけど、一番最初のやつが特に似合っていた。
店員さんも同意見で、みずきちゃんはこれにするといった。
ここで僕はあることに気がついた。
みずきちゃんは死体だからお金を持っていないんだった。
結局僕が服の支払いをした。
「ありがとう! いつき。こんなにかわいい服を買ってくれて」
みずきちゃんはすごく喜んでくれた。
こんなに喜んでくれるなら、お金を支払った価値もあるなと思った。
このあとみずきちゃんのメイク用品を買うために近くのショッピングモールに移動した。
みずきちゃんがメイク用品は自分で買えると言うので、待ち合わせ時間を決めて、分かれて行動することにした。
僕はモールの中をプラプラして時間を潰した。
待ち合わせ時間になったのでみずきちゃんと合流した。
このあとみずきちゃんはトイレで着替えと化粧をすました。
トイレから出てきたみずきちゃんの姿はとてつもなく美しく可愛かった。
まるで妖精のような出で立ちの彼女に、通る人達からの視線が浴びせられた。
この時点でみずきちゃんが死ぬまで約2時間だった。
「それじゃあ鈴木さんの娘さんを探しに行こう」と僕が言うと、みずきちゃんは「どうしても食べたいパンケーキが原宿にあるの。今日は初デートだから付き合ってよ」と言った。
ここでパンケーキを食べに行くということは、今日の娘さん探しを諦めるということになる。
しかし、みずきちゃんは言い出すとなかなか折れてくれないことがわかっていた僕はパンケーキを食べに行くことにした。
電車で原宿に移動して、お店まで歩いた。
お店の前には人気店だけあってずらりと行列ができていた。
僕達が入店できたときタイムリミットまであと1時間だった。
みずきちゃんと僕は店で一番人気のパンケーキを注文した。
パンケーキは噂通りとても美味しかった。
パンケーキを食べ終わったとき、タイムリミットまであと20分だった。
僕の家までは電車だと最低30分はかかる。
このままだと帰りの電車の中でみずきちゃんが死んでしまう。
そうなると、相当面倒なことになる。
僕は苦渋の決断をして、タクシーで家まで帰ることにした。
まだ15歳で新人成仏師の僕の給料は少ない。
今日のみずきちゃんとの買い物で相当な金額を使ったのに、タクシー代でさらに追い打ちをかける。
なんとかタイムリミット5分前に家についた。
みずきちゃんは満面の笑みで「今日が人生で一番楽しかった!」と言って棺に戻っていった。
こんなこと言われたら、財布の中がすっからかんになったことも全て吹き飛んでしまう。
こうしてみずきちゃん曰く僕と彼女の初デートが幕を閉じた。
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