死体を生き返らせる能力を手にした僕は美少女の死体を生き返らせてお近づきになる
あまがみ てん
ep1 僕は美少女の死体と同居する
突然だけど、僕は死体と同居している。
これを聞くとヤバい趣味の持ち主だと思われるかもしれないが、僕達の生きる世界では仕事で死体と同居する人が結構いたりする。
僕もその一人だ。
この世に未練を残して死んだ人は天界に行けず、魂が現世を彷徨っている。このままだといずれ悪霊化してしまうため、未練を断ち切って成仏してもらわなければならない。
そこで、1日4時間だけ生き返らせて、未練を断つようにしてもらうんだ。それを手伝うのが僕達のしている成仏師という仕事なんだ。
たとえば、誰かに会ってから死にたかったという未練ならば、その人を一緒に探して会えるようにしてあげたりする。
だから、僕達は死体と同居して、1日4時間だけ生き返らせることができるんだ。
成仏師になれるのは生まれながらに霊エネルギーという霊界を司るエネルギーを持ったものだけなんだ。
ちなみに僕は自慢ではないけど、霊エネルギーがとてつもなく強いらしい。
だから、成仏師以外に除霊師という仕事もしている。
これは、さっき言った悪霊化して、人や物に取り憑き悪さをする霊を退治するという仕事だ。
先に仕事の紹介をしちゃって、自己紹介がまだだったね。
僕の名前は東雲いつき、年齢は15歳、新人の成仏師兼除霊師だ。
もちろん高校にも通っているよ。
今日も葬儀屋さんから僕の家に棺が運び込まれてくる。
葬儀屋さんから、棺の中の人の生前のプロフィールや死亡原因が書かれた紙を受け取る。
どれどれ、中の人は男性で、年齢は55歳、生前の仕事はトラックの運転手か。
死因は仕事中に居眠り運転をしていた対向車が車線をはみ出して突っ込んできたのか。
完全にこの人は悪くない、不運な事故だな。
それじゃあ仕事を始めるとするか。
棺のフタを開けると、プロフィール通り中年の男性が現れた。
まずはこの人の未練をチェックしなければ。
手をかざすことで、その人の未練が確認できる。
この人の未練は疎遠になった娘と最後にもう一度だけ会いたいということだった。
俺は生き返らせるために、手を通して死者の体に霊エネルギーを送り込む。
1分ほどが経過したとき、死体が動き出した。
どうやら蘇生に成功したようだ。
「ここはどこだ。俺はどうなったんだ。何があったんだっけ」
この男性は自分の身に何が起こったのか理解できず混乱している様子だ。
「ここはあなたが生きていた世界ですよ。
あなたは不慮の事故により亡くなりました。
あなたは現世に未練があり成仏できませんでした。
僕は成仏師の東雲いつきと言います。
あなたの未練を断ち無事に成仏できるようにお手伝いいたします」
「そういうことだったのか。俺に未練なんてあったんだ」
男性は現状を理解した様子だ。成仏師の仕事はこの世界では浸透している。
「あなたの未練は疎遠になっている娘さんと会いたいということです。これから具体的な話を聞きたいので、棺から出て、テーブルで話しましょう」
男性をテーブルに案内する。
「なんとお呼びすればよいですか。僕のことは東雲でお願いします」
「わかった、東雲くん。俺のことは本名の鈴木でいいよ」
ここから、娘さんと疎遠になった理由や、現在の居場所について話を聞いた。
話によると、奥さんと離婚をして、親権が奥さん側に渡った。最初は面会などをしていたが、そこからだんだん会わなくなり、最終的に全く連絡を取らなくなったそうだ。そこから十数年顔を見ていないらしい。
娘さんの今の年齢は20代半ばみたいだ。
鈴木さんは娘さんが元気に暮らして行けているのか、もしかしたら孫ができているかもしれないなど、いろいろ気にはなると言っていた。
1日4時間しか蘇生できないので、今日は話だけを聞いた。明日から本格的に娘さん探しをしよう。
鈴木さんに棺に戻ってもらい、再び死んでもらった。
棺のフタを閉めると、隣にあるもう一つの棺が目に入る。
その棺はピンク色で、派手な装飾がされている。
この中に入っている子は泉みずきちゃん15歳。
俺と同い年で、小児がんで亡くなってしまった女の子だ。
棺のフタを開ける。
毎回、僕は彼女の美しさに目を奪われる。
とにかく美少女なのだ。
二重で目がパッチリしていて、鼻筋が通り、きれいな形の唇。顔のパーツの配置も黄金比というやつだ。透明感も凄まじい。言葉では表現できないほど美しい。おとぎ話の世界から飛び出してきたような子だ。
おまけに身長が170cm以上はあり、モデル体型なのだ。
僕は彼女にも霊エネルギーを注ぐ。
彼女がモゾモゾと動き出した。
棺の中から体を起こし、伸びをする。
「はぁ~、よく寝た。おはよういつき」
寝ているのではない、死んでいたのだと心の中でツッコむ。
「おはよう、みずきちゃん」
「ちゃん付けはいらないよ。いつも言ってるでしょ」
なんとなく呼び捨てにするのは抵抗がある。
俺が言わなくても彼女は慣れたようにテーブルに移動する。
僕は二人分の紅茶とクッキーを用意して席に座る。
「今日もみずきちゃんの未練が何なのか、一緒に考えよう」
成仏師は死者の未練が見えるはずだけど、みずきちゃんの未練だけは見えないんだ。
みずきちゃんがこの家に来たのは約1ヶ月前なんだけど、他の成仏師の人に見てもらったりしても未練がわからないんだ。
僕は毎日彼女と会話することで未練を思い出してもらおうとしている。
この日も彼女といろいろな世間話や生前の話をした。
僕はいわゆる陰キャなんだけど、彼女は容姿や明るい性格も相まって完全なる陽キャだ。
だから彼女が生きていた世界の話はとてもおもしろい。
蘇生の残り時間が約2時間となったときに、鈴木さんの話になった。
「そういえば、今日から新入りさんがいるんだね〜。それにしても棺地味だね」
彼の棺が地味なんじゃなくて、君の棺が派手すぎるんだよ。
「鈴木さんっていう男の人なんだけど……」
僕は彼女に鈴木さんの未練や死んだ経緯を話した。
「それはかわいそうだね。なんとかして未練を断たせてあげたいね。私も協力するよ!」
「まずどうやって娘さんを探すかだよね。みずきちゃんってインフルエンサーなんだよね。みずきちゃんがSNSで鈴木さんの娘さんの情報を募集するとかどうかな」
彼女は誰からも好かれる才能があり、生前はインフルエンサーとしても活躍していた。
「確かにSNSのフォロワーは多いけど、一個人の情報を本人の知らないところでSNSを使って募集するのは、指名手配しているみたいで、娘さんが不快な思いをするんじゃないかな」
考えてみればみずきちゃんの言う通りだと思う。
僕の考えが浅はかだったな。
「それじゃあ地道に手がかりをたどっていくしかないか」
「そうだね。大変だけど一緒に頑張ろう」
あれっ? 今一緒にって言った?
「一緒に頑張るってみずきちゃんもついてくるの?」
「人数は多い方がいいし、私も力になりたいから。それに、外に出ていろんな刺激を受けることで私の未練も思い出すかもしれないよ。ねぇ、いいでしょ。お願い、いつき」
彼女はつぶらな瞳で僕を見つめる。
こんな顔をされたら、世の大半の男は即ノックアウトされるだろう。
僕は大分悩んだ。
みずきちゃんに手伝ってもらうことはメリットが多いと思う。デメリットといえば、こんな美少女を連れて外を出歩くときの、他からの視線だけかな。
結局みずきちゃんに手伝ってもらうことにした。
その後もいろいろな話をしたところで、4時間が経過した。
みずきちゃんには棺にお戻り頂いた。
こうして僕の一日が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます