その時、歴史が動かなかった。

毛根死滅丸

第1話 え!このタイミングで!?

天正10年6月2日(1582年6月21日)

京・本能寺・早朝

ドタドタと廊下を慌ただしく走る音が、この宿に泊まる男の元に近づいて来た。

「上様!上様!上様!!!」

その叫び声に男は目を覚まし・・・不機嫌そうに

「如何した、お乱」

「惟任日向守さま!ご謀反にござりまする!」

「・・・是非に及ばず・・・・・って・・・え!・・・」

おいおいおいおいおい。待て待て待て。

是非に及ばずって・・・・・オレ織田信長じゃん・・・・・。

え!このタイミングで!?前世?いや、昭和生まれのオレからしたら過去に・・・・・逆行転生ってヤツかぁ!!!てか・・・もう積んでるじゃん。


再びドタドタと廊下からの足音が聞こえてきて

「坊丸(森長隆)かぁ!」

口がすらすら動くな。

「はぁ!桔梗紋の旗が屋敷を取り囲み蟻の這い出る隙もございません。」

「おのれぇキンカンめがぁ・・・・・。」

また、すらすらと口が動いた。


屋敷の中に居ても分かる、多くの人間の戦ってる怒号が響いてくる。

「上様!!!」

寝室に飛び込んできた力丸(森長氏)に武田喜太郎、平尾久助、落合小八郎、平尾久助


その中で代表して、力丸(森長氏)が織田信長に声をかけた。

「上様!至急この屋敷から落ち延びください。現在、表門を吉五、勝介、弥太郎等が必死に門で明智方を食い止めております!しかし四半刻と持ちませぬ」


ムリだな。今までの信長の記憶でも、十兵衛は優秀な武将だった。逃げるのはムリだ。必ずオレ(信長)の首を獲りに来るだろう。万が一にもオレは助からん。ただオレは十兵衛より秀吉の方が嫌いなんだよな。もはやオレは無理だ。だったらどうするか・・・・・史実の織田政権が崩壊して乗っ取られたのは、信長が本能寺の変で死に信長の嫡男の信忠が二条城で討ち死にしたからだよな。そして、その下のバカ息子二人、信雄と信孝が織田家当主の座を狙い争った結果、そこを秀吉に付け込まれ信孝は切腹して亡くなり信雄は織田の当主になれずに最終的に領地の殆どを秀吉に召し上げられ殺されはしなかったが、オレから見たら完全に没落したよな。


ここは腹を括ろう!このタイミングで前世を思い出したのには意味があるのだろう。

二条城に居る信忠だけは助かるように動こう。実際に史実でも二条城からは、織田家一門衆の織田有楽斎や信忠の嫡男、三法師が二条城から落ち延びている。


「皆の者!!!よう聞けぇー!!!」

門が破られたのだろう・・・先ほど迄より、ここに聞こえてくる声が大きくより激しくなっている。


ドタドタと一人小姓が駆け込んできた。

「上様!表門。破られてございます」

「で、あるか」

一度リアルで言ってみたかったんだよな。夢が叶った。

「敵方一万!こちらは二百!勝ち目は万が一にもなし」

信長の言葉を集まって来た小姓たちが聞いている。

「十兵衛のことだ。二条の奇妙の所にも兵を送っておろう。余は助からぬが奇妙は死なせる訳にはいかぬ。坊丸、力丸、喜太郎、久助、小八郎、久助、よう聞け!!!」

信長の迫力に息をのむ小姓たち。


「うぬらは裏手から二条城を目指し余の言葉を奇妙に必ず伝えよ。二条で守るは無理である。直ぐに二条より脱出して日野の蒲生か蒲生に行くのが難しくば、長浜を経由して北ノ庄の権六の所に参れと」


オレが刀を鞘から抜き畳にぶっさして


「お乱!」

森蘭丸が信長の前に跪き

「お乱!許せ。そちには余の最後・・・いや、キンカン風情に余の首は勿体ない。屋敷に火をかけよ。お前たちは、余が討ってでたら裏手より落ちよ。よいな!!!」

オレ(信長)迫力に押されたのか、なにか言いたげだった小姓連中が押し黙る。

「上様!この乱。最後まで上様の横で一人でも多くあの世に道ずれにしてやりまする」

「ハハハ!さすが攻めの三左の子よ!お乱。よう言った。坊丸、力丸よ!」

「「はぁ!」」

「うぬらの兄の勇士。後世まで伝えるべし!必ず生きて二条にたどり着け。よいな?」


二人は・・・いや小姓達は涙を流しこちらを見ている。


「よし!お乱。行くぞ!うぬ達は暫くした後に裏手に迎え!さらばじゃ」


オレは畳に刺さる刀を掴み抜いて廊下に飛び出した。慌てて後ろにお乱が続く。

廊下を20メートルほど進む間に戦っている小姓達がこちらに気づき集まって来た。

庭に出る頃には20人ほど信長の周りに集まって来ていた。


「余が織田信長である。余の首欲しくば挑んでみよ!!!」


その声に

「敵の御大将じゃあ!!!その首!貰い受ける」

「そちに余の首は高すぎる!うぬ如きにはやらんわ!!!」


そう言いながら、オレは三十分ほど明智方の足軽たちと戦うが、既に刀は折れ現在は槍を振り回して戦っている。一時30人まで増えた見方も既に10人にまで減っていた。


「くそぉ!・・・・・お乱。もはやこれまで!みな大義であった」

オレはそう言い庭から上がり屋敷の中に入って行く。

「待て待て!敵の大将首が逃げるぞ!!!」

「上様の元には行かせん!!!」

蘭丸以外の小姓たちは信長を追おうとする明智方の足軽の前に立ちはだかり信長の最後の時を稼ごうと奮戦した。

「お乱。屋敷中に火を放て!!!」

「御意」

「お乱。大義であった。森家の忠義あっぱれである」

「もったいなきお言葉。この乱、上様にお仕えでき幸せにございました」

「で、あるか・・・・・あの世で三左たちと一献やろう!」

「御意にございます」

「さらばじゃ乱。あとは任せたぞ」

オレは奥の部屋の襖を開け部屋の中央まで進んで、来た方を振り返った。


凄いな蘭丸!振り返った時には襖が閉まっていた。デキル奴だな。

それじゃあ、時期に火の手も上がるな!

腹を切る勇気なんぞオレにはない。

オレにできる範囲で・・・もがいてみたが・・・

オレの先祖でもある信長に転生したのは何の因果化・・・


煙が充満してきたな

「蘭丸よくやった!」

部屋に火の手が上がる・・・煙が部屋にドンドン入って来る・・・


充満する煙で意識が遠のく感じがするな・・・・・。


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その時、歴史が動かなかった。 毛根死滅丸 @akiaki0708

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