第三話:血戦前夜
四角く縁取られた窓から、一面が黄色で覆われた小麦畑が見える。
「そろそろ……着くな」
「おう、そうだな」
二人は未だ鉄車の中である。
アテネと大男との対戦後、一応は気が静まった二人はお互いの部屋へと戻って行き、ウルは回復薬を飲んである程度身体を修復した。
「あの男、強かったな」
「は?あのままやり合ってたら私が勝ってただろ」
後から他の受験者が話しているのを聞いたのだが、アテネとケンカをした大男は名をサラミスと言うらしく、彼は北の大陸の名家の出身で、時期騎士候補と目される程の人物らしい。
「いや、あの男はアテネの張った壁を貫通してたろ、流石にあれ以上続けてたらお前はジリ貧で負けていただろうな」
「………チッ」
アテネは癪に障ったのか、バンッと二人の間に置いてあった机を蹴り上げた。
(試験ではあのクラスの化け物がひしめいているのか…)
ウルは思わず身震いをする。
(正直、"探知"を最大出力にしなければ、あの男の動きを追えなかったな………)
ふと時計に目を遣ると、あと十分程で会場に到着する。
「アテネ、降りる準備を」
「おう……」
(不貞腐れてるのか……)
ウルは、不味い事を言ってしまったな、と内心少し反省をした。
十数分後、鉄車はゴゴゴと錆びついた汽笛を鳴らしながら駅に止まった。
受験者達が順々に降りて行く。
ウル達も自然と彼等について行く。
…………視界が開けてきた。そして…
「ここが、イリリア大陸か」
大陸、イリリア島。
港市国家で、主に海上貿易で収入を得ており、中々裕福な国である。
そのため海岸付近には数多の豪邸が立ち並んでおり、何とも見栄えが良い。
「イングド半島とはえらい違いだなぁ……」
今までイングドの天地が生きている場所だったウルにとっては、現在目に映る全ての景色が真新しかった。
「なぁなぁウルぅ…メシ屋行こうぜ」
「阿呆か、試験開始までもう残り時間は殆ど残ってない、持ってきた食料で済まそう」
「いやだぁぁぁぁ!!」
せっかくイリリアに来たのだからと、小綺麗な飲食店に行こうとするアテネをズルズルと引き摺りながら、ウルは会場へと徒歩で向かって行った。
(観光は合格した後だな)
試験会場は鉄車駅から存外近く、五分程度で到着した。
会場はコロシアムを思わせる様な構造となっており、赤レンガに"強固"の神託を付与した漆喰で塗り固められた、非常に質素な作りとなっている。
当に闘技場だ。
正面玄関には既に多くの受験者が列を連ねており、ウルとアテネもそそくさとその列に並んだ。
四方八方からヒソヒソ声が聞こえて来る。
「あの二人…さっき五月蝿かった人達ね」
「サラミスに喧嘩を売ったんだろ?度胸有るよな」
「男の方、なんか辛気臭い顔してない?」
コイツら……と殴ってやりたい気持ちを抑えてウルは我慢しながら順番を待つ。
一人…二人……と段々人が空いて行き、とうとうウル達の番になった。トコトコと受付口まで歩く。
そして、
「イングド島から来た受験者のウルと……」
「アテネです!」
元気良く自己紹介をした。
対して受付役はそれを聞くと、名簿と二人の顔を何巡かした後に
「はい、アテネ・バルカ様とその従者のウル様ですね」
あちらへどうぞ、と手をさした
「いや俺は従者じゃな…」
「よしウル、行くぞ!!逸ってきたな!」
早く行くぞ、とアテネに手を引っ張られる
今度は引き摺られる形で、二人は受付の人に指定された場所へと向かった。
向かった先の場所は、会場の何本か円環状を貫く柱の内の一角で、第Ⅲ口と書かれており、中央に掲示板がおかれている。
(なんて書いてあるんだろう)
が、人がひしめいているので中々見れない。
ウルは渋々"探知"を使って書かれた文字を解読した。
『本試験の説明
Ⅰ:本試験は一対一の勝ち上がり形式で行われ、受験者総勢二百名の中から上位二十五名を合格とする
Ⅱ:本試験は神託を付与された武器の使用は許可するが、一振りまでとする
Ⅲ:本試験は三十分の制限時間が設けられておりそれを…………
Ⅳ:………』
(文字の解読、結構疲れるんだよなぁ……)
紙に塗られたインク等の細部の探知は、非常に精密な操作を要するために脳への負担が大きいのである。
「なぁウルぅ、なんて書いてあったんだ?」
アテネが尋ねて来るので、一行一行説明してやった。
「上位二十五名かぁ…余裕だな」
アテネはニヤニヤしながら呟く。
「馬鹿言ってないで、順番も確認するから待て」
ウルは再び掲示板に向けて探知の意識を集中する。
人が多くて見にくかったが、二十秒もすれば確認出来た様である。
「ええっと……アテネが第六十組目で、俺が……第二組目!?」
予想外の順番の速さに思わず驚いてしまった。
「あちゃ〜、ついてねぇなぁウルぅ」
だが、文句を行っていても仕方が無い。
ウルはすぐにカバンから"加速"が付与されたロングソードを取り出すと、刀身を取り外して、代わりに木刀を差し替えた。
そして、ゆっくりと招集口へと向う。
すると……
「………おい、ウル」
「…頑張れよ!観客席で見てっからな」
「ああ」
先程まで込み上げてきた緊張の気持ちが、少し緩んだ気がする。
ウルは景気良さげに、スタスタと再び招集口へと小走りで向かった。
騎士の牢記 ミドリヤマ @midoriyama2006
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