第8話 最後はけっきょく

『みろよ、あれw。かんっぜんに怖がらせて抵抗する気を失わせた上で一撃で終わらせる構えだぞ』

『マジだw笑えるんですけどww』


奏と暴走善霊のシリアスな雰囲気をぶち壊さんばかりにゲラゲラと笑うルカとリート。

奏は精神攻撃が大得意だし、その上映画のようなセリフを言うのが大好きなのだ。

そんな2人に対して、通信で奏が『うっさい!今いいところなんだから邪魔すんな!!』と言ったのがさらに笑いをさそう。

ひぃひぃといいながら笑い転げる。

奏は心の中で、あとで説教するとひっそり誓った。

姿勢を低くし、足を前後にできる限り広げてヒイラギを構える。

そして、二、三十メートルあった距離を一瞬で縮める。

びくりと震え、一瞬遅れて反応して応戦おうせんしようとする暴走善霊。

それでも一番最初の遅れが大きく、腹に一撃を喰らう。


『ギョルァァァァァァ‼︎‼︎』

「うっさい!近所迷惑!鼓膜破れる!!」


耳に響く怪音を放った暴走善霊に真面目に苦情を入れるあたり、もう奏は通常運転いつもどうりだ。

ドス黒いヘドロスライムのような体だったのが、しゅうしゅうと蒸発するように黒い靄が霧散むさんしていき、体積が小さくなっていく。

そしてカラン、と音を立てて、小さな結晶となった。


「はい、おしまい」

『いやー、想定外アクシデントの連発だったねぇ』

『俺はこれがクソ猫の言う「かおす」とやらなのかと思ったんだがな〜』


リートはカタカナというか、外来語の発音が苦手だ。

なので少しなまっている。


「ルカ、ありがとな。中の上を連れてきてくれて」

Sure.ショァ


どういたしまして、とパチンとウインクをするルカ。

うん、かっこいいけど、ルカって猫だよね?


「この暴走善霊、やたらと強いと思ったんだが…」


実は、結晶の中の模様もようにはパターンがある。

□︎が下、○︎が中、♢が上。

これを組み合わせるのだ。

○の中に□があれば、中の下、的な。

これは♢がふたつ組み合わさっているので上の上だ。

いやつっよ。

そら上の中のラムが負けるわけだ。

上の上って、俺の中にも6人しかいないし、7人目のメンバーか。

ちょうど、黒の上の上が結晶のままアオイのあずけてあったのだ。

アオイには俺の所有する空き家に霊結晶を持って行って管理する役目を頼んでいる。

案外合っているらしく、『倉庫番』を自称している。

アオイを呼び、黒の上の上を持ってきてもらう。

暴走善霊は、霊結晶になるとただの善霊にもどる。

そして霊結晶は、中に入っている霊が白なら、水色で、黒なら藍色になるのだ。

水色しろの上の上、藍色くろ上の上。

両手でそれぞれの中心部分に触れると、白と黒のもやが混ざり合い、俺に入ってきた。

『ここはなんだ、どこだ』と言わんばかりに体内で暴れ回る黒を宥め、『?????』的に混乱する白を体から引き出した。

ぽんっ、と出てきたのは、白髪に黒メッシュが二つと、アイスブルーの瞳のボブカットの少女だ。

うーん、出たよ、美少女。

なーんでこうも、上のやつらは美形が多いんだろうか。ラムといいシトリンといいルビーといい。


「はじめまして、俺の名前は奏。このたび、君の主人になった。」

『かなで…あるじ…』


透き通るような声音こわねで答える。

うーん、声まで美少女だったか。


「君の名前は?」

『なまえ…?セン』

「センね」


こりゃ訳ありの気配だわ。

みたいに元実験体か?

めんどくせ〜、と思いつつもまぁ俺が自分でやっちゃったことだしねぇ。


『くんよび…、きしょくわるい。もとのよびかたにしていい』

「きっ、気色悪い!?そんなに!?!?」


アイスブルーの冷徹な冷え切った目で侮辱ぶじょくされた。

一部の業界では、美少女からの蔑みはご褒美…、らしい。

俺は違うぞ!?


「………わかった。じゃあ素でいくぞ。

 すっぱり言っちゃうけど、お前元実験台だったりする?」

『する』

「しちゃうのかぁ…」


目を覆って天を仰ぐ。

実は、非公開の犯罪者組織的な異能力者研究所があるのだ。

そこの被害者が、今のところ俺には総勢13人憑いている。

あーもう、これで14人目だぞ畜生ちくしょうめ。

あの研究所はほんっとうにクソだな。

根城知ってるし、来週…、いや、再来週ぐらいに潰しちゃおっかなー。なんつって☆

いやできるけどめんどくさいし、それぐらいに捕獲ほかくしようと思ってる霊がいるから無理なんだけど。


「オーケー。心残りは?」

『けんきゅうしょのやつらのなかに、やさしいひとがいた。すきになった。でもしんじゃった。』

「あー。」


出ましたよ恋愛派。

それもお相手が死んじゃってるとな…。

こりゃめんどくせぇ。


「ちなみにお名前は?」

『やひろ』


うーん、千と千尋ちひろのなんとやら。

センと八尋やひろの?

って、は?


「八尋?今、八尋っつったか?」

『ん』

「マジ?」


八尋…、いる。

俺に憑いてるやつの中に八尋って名前のやついる!!


「で、出てこい、八尋。」

『はいぃ?なんですか、奏さん』


出てきたのは、グレーの長い髪をひとつにたばね、白衣を着た青年。

名前を八尋という。


「いいからさ、後ろを見てみ?お前が恋する相手だぞ?」

『何言ってるんですか。あの子はここにはいな…、セン!!!!』

『やひろ!!!!』


あー、はいはい、クソリア充めが。

抱き合い、ハートを周囲に飛ばしながらイチャラブしているやつらを視界から外す。

そしてルビー、ナイスプレーだ。

よくぞシトリンの目を塞いでくれた。

そして俺はようのオーラを遠ざけようと、舟月に近づいた。

話さないといけないこともあるしね。


「舟月さん。」

「あ、あぁ」


俺はじっと舟月の目を見ながら言う。


「今回のことは流石さすが誤魔化ごまかせません。

 上に報告してもらって結構けっこうです。

 俺を傷つければ俺の仲間が黙っていないでしょうしね。」


どうせ手は出せないんだ。なんたってこっちには越が2人いるからな。


「そして俺も、俺の仲間を傷つけるようなことがあれば、あなたたちを許さない。」


瞳に霊力をまとわせ、覇気はきを放って威圧する。

カタカタと震えだした舟月の体を見て、これぐらいでいいだろうと威圧を弱めた。


「それじゃあおふたりさ…」


振り返ると、そこには今まさにキスをしようとしているセンと八尋と、それをガン見しているシトリンとルビーがいた。


「ちょっとまったあああああああああああああ!!!

 なにやってんの!?子供の前で!!お前ら何やってんだよ!!!」


ルビーも、なんでシトリンの目、隠さないんだよ!!

俺たちがぎゃあぎゃあと言い合っていると、舟月がぷっ、と吹き出していた。


「あっはは!お前、ちょーつえーのに子供みてぇだな」

「はぁあ!?」


子供ですけど!?

こっちはまだ16才ですけど何か!?


「ってそこ!!笑うな!!!」


勝手に俺の体から出た霊たちがこちらを見て笑う。

クッソ、許さん!

その後俺はお笑いぐさにされ、全員後で説教して罰を下してやると固く誓った。

お詫びのシュークリームもドーナツもなしだ、なーし!!!




ー→↑↓←*→↓↑←ー




ピーンポーン


「はいはーい」


口にくわえていたアイスを皿に置き、玄関に向かう。

あれから二週間が経ち、そろそろ夏も本番だ。

ジリジリと暑い中、最低限のエアコンで過ごしているので、汗ダラダラで不快のきわみである。

なぜかって?決まっているじゃあないか!!

SE TU YA KUせ つ や くさ!!!

クソが!!

あの後、センと俺に憑いてくれた中の上の少女…、凛音りんねを家にお招きした。

宿り石から戻ったラムが『二名様、ごあんなーい!』と言って、他の霊たちが乗って『はーい!』『ぃらっしゃい、ねぇちゃん!』とか言ってるのが面白かった。

だが慈悲じひはない。

あの場にいた全員を洗い出し、説教からの罰を下していった。

地獄のような雰囲気だったが悪いのは完全にお前らだかんな?と言った。

と、それより…。

宅配かな?頼んでないはずだが…。

がちゃっ、とドアを開けると、


「ぃえ??」


口からこぼれ出たのは、はーい、という言葉の『い』の部分が変化した言葉にもならない音。

きっと俺は今霊たちに見せられない顔をしていることだろう。


「よー、少年。いや、奏クン?」

「いやきっしょ。」


くん呼びに思わず寒気がした。

これか、前にセンが言っていた『くん呼び気色悪い』って。


「あいっかわらず直球だなぁ」

「おかえりください」


がちゃん (ドア閉め)

かちゃっ (鍵閉め)

ガチャガチャガチャガチャッ!! (舟月焦る)


「しーらねッ!!!」


ガチャンッ!! (鍵が開く音)


はっ……………???


ギィ…、と音を立てて開く扉。

は?

Why not なぜ

そこには、鍵を手にたたずむ舟月がいた。


「あっ、コレ合鍵ね。」

「帰れェ!!!」


バァン!!


扉を閉める。

あぁもう、なんでこうなったんだ…!

そもそも、合鍵?

はっ!まさかあの大家おおや、金に目が眩んで合鍵じゃなくてマスターキーを渡したんじゃ…??

クッソ、あんのスケベジジイ!!

やっぱここに住むんじゃなかった!!


「あーあ!俺ってばなんて不運なんだろ!!」


ねぇ!!そうは思わない!?!?


ーーーーーーーーーーーーーーー

灰色図鑑!


セン

異能力者研究所の元実験体。

能力は水の派生の『氷』。

げきつよ。

上の上は伊達だてじゃねぇ。

八尋が好き。

八尋ガチ勢。

新参者なのでまだだが、奏の幽霊たらしっぷりはやばいので、おそらく1ヶ月もしないうちに『八尋ガチ勢 兼 奏ガチ勢』になると思われる。

ツンデレ代表。

『べ、別にあんたのためじゃないんだからね!勘違いしないでよねっ!!』

とかは言わないが、『奏は好きじゃない』からの『じゃあ嫌い?』と聞かれて『それは…っ』と詰まってしまうようなみずか墓穴ぼけつを掘っていくタイプ。

じつは甘えた。

シトリンとバチバチになる予感。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

やぁ。作者こと天音あまねだよ。

思ったよりも仮想の筆が捗ってね、脳がメラトニンを放出しまくりながら後日談まで書いちゃった。

明日の8時に出す予定だよ。

一応、完結扱いになるから、読んでくれてる人はありがとうございました!!

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