第7話 ふっかつ

はいはいもしもし?

って、────じゃん。

なに?こんな夜中に。

明日宿題を教えて欲しい??

え…?マジ??

夏休み、あと二日だぞ??

いや、うつさせねぇよ??

俺だってやったんだからお前もやれよ。

俺の答えを写そうなんざ五万年はえーんだよ。

おととい来やがれ!!!あばよ!!!!


ピッ

プー プー プー






────か、なで…


ふと、名前を呼ばれたような気がした。

ここはどこだろう。

星ひとつもない真っ黒なドス黒い夜空の下、円形の石畳いしだたみの上にぺたんとお姫様座りで座っている。

俺は真っ白な巫女服のようなものを着ていた。

あぁ…、

なんで俺はここにいるんだろう?

どうしてこんな服を?

どれだけ考えても答えは出ない。

記憶のはしけていて、名前くらいしか思い出せない。

先ほどの声は誰だ?

早く俺は行かないといけないのに。

どうしてこんなところにとどまっている?

動こうとしても、手足が鎖につながれていて動けない。

あぁ、早く起きないと。

早く。

早く。

おかしくなってしまう前に。


はやく────!



ぱきん、と音がして、鎖がくだけた音と共に、俺の体は弾かれたように空に打ち上げられた。




ー→↑↓←*→↓↑←ー




『ラム!』


腹に暴走善霊の(めっちゃR指定必要そうな)触手に霊力アストラル・パワーを奪われ、パタリと倒れ、クリアな肉体がさらに薄くなり、ついには小さな結晶となってころんと転がった。

クソッ、間に合わなかった…!

僕はラムの霊結晶を口でくわえ、横たわる奏の腹に置く。

霊結晶は中に入っている霊がすでにマイホーム…、主を持っているとただの中に霊が入っているだけの石になり、さわっても憑かれない。

だが、霊が入っているだけの石、『宿り石』をくだかれたりすると、霊は消滅してしまう。

ラムがいなくなるのは嫌だからね。


『舟月?っていうんだね。今から奏起こすから、暴走善霊がこっちこないか見といてくれる?』

「あ、あぁ!」


そして僕は連れてきたソウルに言う。


『それで、奏に憑いてくれるってことでいいんだよね?』

『は、はいっ!』


小麦色こむぎいろの髪をしたガールが僕に言う。

中の上の善霊で、この有能な僕が見つけたのだ。

見返りとして今度奏におしゃしみを要求しようと思っている。


『じゃあ、奏の、胸…、はなんかやらしいからお腹に手を置いて。入れたら契約完了だ。』

『はい…!』


ちなみに名前は聞いていない。

覚える気がないし。

そして女の子が奏の腹に手をれさせる、その一瞬前。


『ギョルァァァァァァ‼︎』

「かはっ!」


は?

舟月、お前……、弱いな!!

触手如きに跳ね飛ばされるなんて。

あー、でもこれ触手のターゲットが僕達の方に来てるな。

こっちにまで攻撃させるなんて、あのリートクソ犬何してるんだよ。

ふっ、これは…、奏に報告してっ、アイツのおやつ抜いてもらおうっ!(きらん)

僕ってばナイスアイデア!!

ふっふふ!!

せいぜいドーナツを抜かれて吠えるがいいさ!!

と、まぁ考えるのはこれぐらいにして、だ。

僕はランクが越だから、こんな触手、止まって見えるも同然だ。

でも、中の上のこの女の子には一瞬で見えるだろう。

んー、でも僕が触手これを止めるってなると…、いや、できなくはないんだけど、めんどくさいんだよね。

僕やりたくない。

しかたないし、奏に起きてもらうか。

女の子は驚きのあまり固まり、手があと二、三センチで奏につく場所で止まっている。

まったく、浮遊霊は不甲斐ふがいないね。

やっぱり僕が発破はっぱをかけないと。


『ぼーっとしてないで、さっさと憑いて!』

『ふぇ?あっ、はい!』


女の子が奏に手を触れ、しゅんと消えた。

奏に入ったんだ。

オーケー、それじゃあ奏。


起きる時間だウェイクアップ




ー→↑↓←*→↓↑←ー




うーん、これは一体どうなっているのかな??

目が覚めてみれば、しらねぇ霊らしき気配を体の中に感じるし、ラムが宿り石になっちゃってるし、ルカがねだるような目でこっち見てるし、高身長男は壁にめり込んでるし(なんかの趣味?)リートが暴走善霊相手に無双ひゃっはーしてるし、やられてる暴走善霊がこっちに攻撃してきてるし。

これさぁ、さっきを超える混沌カオスだよねえ。

まーでも、とりあえずは逃げよっか!!

ルカを肩に乗せ、ラムの石を握り直して触手の攻撃を避『よ』ける。

そのまま高身長をわきに抱えて回収…、あ、こいつ舟月っていうんだ。

その後も攻撃を避けつつ話を聞くと、まーぁ色々あったらしい。

いやー、ここに混沌極まれりってね。


「舟月さーん、起きてくださーい。重いです。落としますよー」

「つぁ!?」


走りながら舟月を起こすと、怪音かいおんを放って起きた。こわ。

とか言っている間にリートが思いっきりひゃっはーやってる。


「わー、あっという間に暴走善霊が逆に可哀想な有様ありさまに」

『それ集中攻撃フルアタックされてる人のコメントじゃないね。』


ルカ、うっさい!

と言う言葉は、今日霊たちに言われた『あるじ大人気なーい』という言葉を思い出して飲み込んだ。


「舟月さん、起きましたね?重いので自分の足で立ってください。」

「え、あ、あぁ。」


ふん、まだ怪我で足が痛いだろうが、あのさわやかイケメン風モテモテオーラ全開男、もといカミナリさんに俺のことを説明しなかったのだから因果応報いんがおうほうである。

舟月よりも五、六歩手前に出る。


「さーてと、舟月おにもつをおろして身軽になったことだし、ちょっと運動するかなー。ルカ、おりてろ。」

『オーケー』


すたっとおりたルカは、今度は舟月の肩にとんと飛び乗った。

鞍替えはっや。


「来い、ヒイラギ。」


俺の右手に現れるのは、皆様ご存知大鎌ヒイラギ。

全長をはかれば、もはや軽々と俺より高い。

こいつは俺の先祖代々の墓の近くに埋まっていたのだ。

あっ、墓荒らしじゃないからな!?

しらねぇひい、ひいひいひい?ぐらいのおじいちゃんののじゅう…、何回目かの回帰がつまらなすぎてぜっっっっっったい!墓じゃない場所を掘って埋めて整地する遊びをやっていたら見つけたのだ。


「よーし、リート。そこまででいいぞ。暴走善霊さんがべちょってなっちゃってるからな」

『そうかぁ?まだいけると思うけどなぁ。こいつ、骨があるから噛み砕きがいがありそうなんだが。』

「そう言ってやるなよ〜。お前もなったこと、あるだろ?」

『その話は出さない約束だろ。黒歴史なんだよ。』


ぶつぶついいながらリートが離れる。

あ、おい、そっちの方向にはルカがいるぞ。

いじられたくないなら別の方向にいけよ?

いや、リート聞いてないなあれ。

ご、ごめんね?

黒歴史思い出させちゃって。

今度ドーナツ作ってあげるから。

んー、となると、油に追加の小麦粉、それからベーキングパウダーに…


「帰りの買い物の計算をしないとなぁ。今家計結構火の車だし…」


ヒュヒュン、と軽くヒイラギを振る。


「頼むから、五千円以内で収まってくれよ?」


ぱしっ、とクルクル回していたヒイラギを掴む。

そして、ニヤリと皮肉ひにくるように笑ってやった。

より暴走善霊が恐怖を覚えるように。

より攻撃の手が緩むように。

ことさら…、俺の仲間に手を出すことを許さないように。


「さぁて、おいでよ。遊んであげる。」


俺の言葉に、暴走善霊はおびえるように震えた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

灰色図鑑!


ルカ(旧名:銀月ルカ)

元奏の飼い猫。

漆黒の毛皮で、黒猫のはずなのだが、幽霊になったら尻尾が二本にえて、人魂らしき火が二本の先に浮かんでいる。

猫又説ねこまたせつが有力。

普通に寿命で死んだのだが、ちょうどリートが死んですぐだったので奏から笑顔がかき消えているのが心残りになってしまった。

今もこうして幽霊になって奏に仕えているのだが、実際話してみるとナルシストじみた言動をする。

おしゃしみが大好き。

めっちゃ頭がいい。

あと速い。

えつぱねぇ。

リートとは犬猿けんえんの仲。

奏はよく笑うようになったので、成仏しろよと思うかもだが、ルカ本人談によると、『言動全てが猫被り』らしい。

属性は水の派生で『氷』。

異能は『冷気を出す』こと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

やぁ。作者こと天音あまねだよ。

今回さぁ、ルカくん出てきたでしょ?

ルカ君にも元ネタというか、あるんだよね。

でも、まだ神狐様に登場してないからいーえない!(←子供かよ)

ちなみに、ルカくんとリートくんはキャラが安定してないから、言葉がよくおかしくなると思うけどよろしくね。

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