第3話 暴走善霊と仲間の霊たち

ねー、突然なんだけどさ、この世界線に異能があるって言ったら信じる?

信じない?あっ、そう。

でねでね、俺(異能を)めっちゃ持ってるんだけどさー。

使い勝手悪いの。

みーんな自我があるんだよ。

暴れ馬の御者なの、俺。

いやもうそれね、いっそのこと血統書けっとうしょ付きのバトルホース級だと思うんだ。

あっ、勝手に喋ってるだけだから気にしないでね。

いや違う、ひとりじゃないの。

全員。そう、全員。

ひどくない??

ね、そう思うよね?(圧)






空が紅蓮ぐれんに染まる黄昏時たそがれどき、ひとつの人影が移動を開始する。

長年使い込まれているのがわかるくたびれた漆黒しっこくの皮のフード付きのローブ。

屋根を叩き、軽やかに音を立てる黒いブーツで少年はける…、とかかっこいいこと言ってみたいよね。

もちろん言わずもがな俺なんだけどさ。

なんかごめんね?


「よーし。日はしずんだな。」


それはともかく、太陽がその姿を隠した。

まだ空はオレンジ色だが、太陽に当たっていなければそこは「日影」判定あつかいになる。

つまりは…


幽霊と霊士おれたちの時間…ってわけだ。」


ひとつ瞬きをする。

普段、俺の目には中の中以上しか見えないようにしてある。

それでも、今の瞬きで「中の中以上」から「全て」にシフトされた。

ふわふわと白と黒のもやに包まれた人、動物、草花。

色々なものが目に入った。


「さーてと。出てこい!」


そう言った瞬間、俺の周りに俺に憑いている善霊たちが出てきた。

もちろんラムもいる。


「今回のオシゴトはちょっと俺が悪霊くろの中の上拾っちゃったので、また善霊しろ探しでーす」

『えー』

『またー?』

『ちょっと拾いすぎじゃない?』


黒は悪霊、白は善霊をす。

俺はほぼ定期的ていきてきに黒を拾うので、この仕事はよくある。

なのでみんなぶぅぶぅと文句を言う。


「えぇいうるさい!しかたないだろ、そこにいたんだから!!」

『うわ言い訳』

『しかも小学生並み』

『あるじ大人げなーい』


ぷーくすくすーと笑い、ふわふわと浮く。

それにしてもコイツら自由すぎやしないか。

敬愛けいあいするべき主人あるじに対してこの言いよう。

俺の体から追い出してやろうかなぁ。


『みんなストーップ。奏の顔から表情がフェードアウト仕掛しかけてるよー』


ラムがいいところでストップをかけ、みんなを止めた。

まぁいいさ、追放は先送りにしてやろう。

ラムに感謝しろよ?

そして俺は、みんなのやる気にブーストをかけるため、元はネタであったが今やもう合言葉になってしまった言葉を口に出す。


「さぁてみんな、今宵こよいみ切る夜空のためにー?」

『『『『『「がんばりましょう!!」』』』』』


みんなで声を合わせ、四方しほうに駆け出した。




ー→↑↓←*→↓↑←ー




「よ、れい。お前に命令だぞ」

「その台詞セリフ、ちょっと前に聞いたな」

今朝けさだけどw」


またもやってきた友人によってもたらされたのは、その友人とその他の友人2人、俺も含めた4人での合同任務ごうどうにんむだった。

なんでも中の上の善霊が暴走したらしい。

善霊は暴走すると、ちるところまで堕ちる。

運が悪ければ悪霊になるし、運が良ければ暴れるだけ暴れて消滅する。

だが、その暴れるのがやばい。

おさえ、なだめられたらいいのだが、生憎あいにくそれができる隊員が今出張しているらしい。

なので暴れて被害が出る前に強制消滅させろということだ。

このメンバーでは勝てても戻れるかどうか…、いや、アイツがいるな。

俺はこの任務に同行する友人のひとりを思い浮かべた。

まったく上層部は横暴おうぼうだ。

善霊には「善」とつくのだから、いい霊のはずなのに、対話で解決はできないのか。

そのとき、ふわりと頭の中に昼出会った少年の姿が浮かんだ。


────アイツなら、できるだろうか。


そしてハッとし、頭をる。

いけないいけない。

アイツは俺に言ったんだ。

「俺はあんたたち組織そしきに関わらない。だからあんたらも俺に関わらないでくれ」

その言葉に込められている感情は俺にはわからなかったが、ゆらりと背後のオーラがゆらめいた。

憑いている霊はぬしの感情と同調シンクロする。

あの時、アイツは確かに動かなかった感情をゆらめかせたんだ。



ーその夜ー



れい!!見つけたぞ、標的ターゲットだ!かなりでかいぞ!!」

「よし、わかった!!」


探索が得意な友人、賢人けんとの案内にしたがって駆けつけると、黒い大きなスライムのような物体…、暴走した善霊がいた。

おおきな手のように見える二つの触手しょくしゅを振り回し、周りの家を破壊はかいしている。


「っ!」


触手が大きく振りかぶられたのを見て、俺は咄嗟とっさに叫んだ。


かまえろ!!」


俺の命令に反応した賢人けんとたちが武器をそれぞれ構える。

その瞬間、触手のフルアタックを受けて吹き飛んだ。

それぐらいで撤退てったいするようなやわな友人ではないので、構わず突撃した。


「う、おおおおおお!!」


ぐにょん。


剣が思いっきりしずみ込んだ。


「ッ!?」


パッと手を離し、すぐに離脱りだつする。

ずぶずぶと剣が元善霊にしずみ込んでいく。

武器をうばわれた。


れい!!大丈夫か!?」

「あぁ!だがコイツ…、体が柔らかいせいで攻撃が通らない!!」

「なら、僕の番だね。」


自慢げに一歩出たのは、友人のひとり、清河せいがだ。

清河せいがは善霊をひとり憑けていて、このタイプに相性が良かった。


「ライ、よろしく」

『まかせて』


白い霧をまとった金髪の少年が清河のかたわらに現れ、雷を一発放った。

よどみなく元善霊をつらぬいた雷。

元善霊は、灰色の結晶を残して消滅した。

この結晶には消滅したことでエネルギーがギリギリまで下がり、冬眠とうみんのような状態になった霊がいる。

そのまんまだが、霊結晶という。

この結晶に触れると、霊のエネルギーが人の体に流れ、れた人は意思関係なくその霊に憑かれてしまう。

なので触れないよう、トングっぽいのでそっと拾い、箱におさめるのだ。

霊結晶の入った箱をふところにいれ、賢人たちの方を向く。

するとその瞬間…、


「ちょっ、まっ!!おい、デイリン!!そっちに行くんじゃない!!」


という、ちょうど昼聞いたばかりの少年の声と、強い霊の気配を背後に感じた。




ー→↑↓←*→↓↑←ー




『あるじぃ、ぼーそーぜんれー、みつけたぁ!!』

「お、シトリンが一番乗りだったな」


俺が言うと、契約のちぎりを通してみんなの『え〜!?』『うっそ』『ずる〜い!!』という声が聞こえてきた。

ぽんっ!と可愛らしい音を立てて現れたのは、あわいレモンイエローの髪と瞳をした、いわゆるショタである。

幼稚園児年中ぐらいの。

水色のスモックがとてつもなく似合いそうだが、残念(?)ながらこのショタ…、シトリンは霊である。

しかも着ているのは白い装束衣装しょうぞくいしょうのような神々しい着物。

初めて見た時に俺見た目とか関係なく思ったもん。


………えっ。神様?


今思えばバカバカしいにもほどがあるが、その時はもうマジで大パニックで…、って違う違う。

今は暴走善霊だ。

そもそも、だ。

善霊が暴走する理由は、願いのあきらめにある。

霊がこの世に残る理由はもちろん心残りだ。

だが、その心残りがいつまでっても解消されないと、諦めてそのまま成仏するタイプと「なんでこんなにくるしまないといけないんだ!もういい、みんなしんじゃえ!!」、で、暴走タイプ。

それにいたるまでの期間はそれぞれだが、大体5〜10年だ。

いや、俺もほぼほぼ毎夜毎夜まいよまいよ町中霊たちとギュンッギュンに飛び回って霊の回収に奔走ほんそうしてるんだけれども。

それでも、やっぱり回収しきれない霊もいる。

でも。


「どーせ、アストラルと交戦中だろう?」

『せぇか〜い!』


ぱぁあああっ!!


ショタスマイルが炸裂さくれつ

耐性がある俺は大丈夫だが、浮遊霊の何体かが卑猥ひわいな視線でシトリンを見ている。

ギロリとソイツらを睨んで牽制けんせいし、シトリンに言う。


「ありがとな、シトリン。ルビーのところに行っておいで」

『はぁ〜い!!』


じゃあね、あるじ!と手を振って、パタパタとけていくシトリン。

その先には赤い髪と目のハーフアップの女の子が手を振っている。

生前のシトリンの異母いぼの姉だ。

2人とも借金とりになぶり殺されて、暴走しかけているのを偶然見つけたのだ。

ちなみに名前はなかったので、俺が勝手に宝石の名前をつけさせてもらった。

さらに言うと2人も古参勢こさんぜいであり、そうとう強い。

なのに卑猥ひわいな視線を向けるなんて…、おまえら殺されたいの?

俺はシトリンを守ったんじゃないよ、お前らの命を救ったの。

実際シトリン、めっちゃお前らのことひっくり返ったカエルでも見るような目で見てたぞ。


「さぁてと。デイリン」

『はいっ♪』


ぽん、と次に現れたのは茶髪に緑色の髪飾りをした少女。

デイリンはウチの火力かりょく担当であり、一撃必殺いちげきひっさつが得意分野だ。

だが清楚せいそな見た目とは裏腹に戦闘狂かつ『ド』がいくつついてもりないほどのSである。

相棒ポジには同じくドMがいるのはもうなんとも言えないし、言わないことにした。

さて。

その暴走善霊はアストラルにゆずるとして、だ。

他のメンバーが各々暴走善霊or暴れてる悪霊の位置を次々と報告してきている。

それぞれに答えていると、いつの間にやらデイリンがいなくなっていた。

でもまぁ放っておいて大丈夫だろう。

性癖せいへきさえ発動しなければデイリンは比較的マトモな部類に入る。

お、次の報告は〜っと



そして俺はのちに、この判断をひどく後悔することになる。


ーーーーーーーーーーーーーーー

灰色図鑑!


ラム (旧名:星川ほしかわ羅夢らむ

上の中という超 高嶺たかねの花でありながら、心残りが『必要とされたい』という心残りなのかなんなのかわからない心残りのせいで長年解消されず、危うく暴走しかけていた。

奏と契約してはや12年になるみんなのパイセン。

奏がすーぐに無茶をする上にめっちゃぶっ倒れやすいので、次第しだいにサポート技術が向上し、ブラック企業の熟練じゅくれん戦士のようになってしまった。

かわいそうに。

今や『必要とされたい』以前にいなくてはならない存在となった。

成仏しようとしても、『お願い!ほんっとお願い!お願いだがらいなくなんないで!俺こんな個性のなぐり合いみたいなメンバーで常識人ツッコミわくが消えるなんてムリ!マジで!!』と奏に泣きつかれ、成仏できなかった。

奏に過保護。

奏を傷つけたやつはマジゆるさん。死ね。ってかんじ。

属性は闇の派生で『呪』。

異能は『呪いをかける』こと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

やぁ。作者こと天音あまねだよ。

一番上にさ、なんかあって『えっ?』って思ったでしょ?

ごめんなさい。

いやね、あれ、普通に説明しようと思ったんだけどさぁ、なんか……、めんどくさくなっちゃって☆(←クズ発言)

だから、毎回最初にあんな感じでしゃべり言葉で奏に説明させることにしたんだ。

ちなみに話し相手は秘匿ピ────くんっていって、奏の秘匿ピ────なんだぁー。

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