第1話 霊視の最強フルコンボ

「あーあ、俺ってばなんて不運なんだろう」


もう口癖になった言葉を、ポツリと呟きながら歩く。


「わ、見て、かなで先輩…」

「奏先輩って、かっこいいけど怖いよね…」


女子たちがそうヒソヒソとささやくのはひとりの少年。

高二に上がってはや3ヶ月。

夏が『まだまだ俺はやるぜぇ!!』と言わんばかりに本気を出してきた。

平均より身長は低くとも、十分イケメンである少年…、銀月奏ぎんづきかなでは進級したばかりの頃とても人気だった。

だが、告白しても他人事ひとごとのように興味なし、ファンですと言ってもめんどくさそうな顔しかしない。

その上で謎の休みが多かった。

プリントを届けてもインターフォンしにポストに入れてくれと言われるだけ。

女子たちは次第しだいに冷めていった。

だが当の本人は微塵みじんも気にしない。

え、最初っからこんなんだったよ、何かあったの?と言わんばかりだ。


「げぇ、こんなことしやがって…」


校舎裏こうしゃうらのベンチで、奏はひとり呟いた。

ひざに乗る弁当のオムライスにはデカデカと『Let'sレッツ makingメイキング friendsフレンズ!』といてある。

簡単に言えば『友達つくろうぜ!』という意味だ。

奏の記憶によればこんなものは書いた覚えがない。

つまりはイタズラだ。

奏にはこんなことをする野郎やろうどもに心当たりがあった。

その時、奏の耳にうなり声が聞こえた。


『ヴルゥ…』


バッと振り向くと、そこにはドーベルマンのような犬がいた。

黒い霧をまとった犬で、牙をいて奏を血走った目でにらんでいる。


「げぇぇ。」


先ほどと同じセリフで、幾分いくぶんかトーンを低く奏は顔をしかめた。


『ヴ…ユ…ルサ…、ア”、ア”ア”…ヴア”…』

「ちっ…」


少し迷うように視線を彷徨さまよわせた後、ひとつ舌打ちをして、奏は弁当を左に置いて立ち上がる。

犬の方を振り向き、すっと両手を広げて目を閉じた。


『ヴ…、ア”アアアア”ア”ア”!!!!!』


素早い動きでカナデに突撃とつげきする犬。

腹部ふくぶに体当たりしたかと思うと、フッと消えた。

代わりに奏がグッとまゆを寄せてふらりとよろめいた。


「っぅ…」


ほおをあせがつたり、校舎のかべにゆっくりと寄りかかる。

息を荒くして、先ほどまでが嘘のようにぐったりとしている奏。

そしてその時、奏のかたわらに白いきりに包まれた女の子が現れる。


『もうっ!奏ったら、また悪霊拾って!お人好しにもほどがあるよ!?』

「うっせ…」


腰に手を当てて人差し指を立て、めっ!と奏をしかる少女。


『それにしても…、うわ、重症。まさか中の中を拾ったの?』

「違う…、たぶん、そんなのじゃない…、中の、上…」


苦しそうにしながら奏は言う。

奏は生まれつき幽霊が見える・触れる・喋れるの三拍子さんびょうしフルコンボが決まった上にプラスワンと言わんばかりに霊媒体質れいばいたいしつなのだ。

かれこれ奏は今、体に善霊悪霊それぞれ300体ちょっと、けい約700体くらい宿やどしている。

奏の謎の休みの理由はこれだった。

人は霊にれいかれると体調をくずす。

先ほどの犬は悪霊だ。

虐待ぎゃくたいでもされて死んだのか、体に傷がたくさんついていた。

奏はうたぐり深く用心深ようじんぶかい人を信用しない性格だが、幽霊に対してはお人好しな一面いちめんがある。

なのでああいうひとりの幽霊を見つけるとたとえ悪霊でも放っておけないのだ。


『中の上!?なんてもの拾ってるのよ、バカ!おんなじランクの善霊なんてそうそういないよ!?』

「う…」


かれると体調をくずすのはもちろん奏も例外ではない。

奏は、同じくらいの力を持つ霊を身に宿やどすことで力を相殺やどしているのだ。

霊は大きく分けて善霊と悪霊、それらをひとしく十に分等ぶんとうしている。

下から下の下、下の中、下の上、中の下、中の中、中の上、上の下、上の中、上の上、最上位のえつ

例えば下の中の悪霊にかれたら、同じく下の中の善霊に憑いてもらうのだ。


「なんとかなる…」

『な・ら・な・い!!!』


スタッカートのかかりまくったかえしにめんどくさそうな顔をする奏。


「あー……、教室、戻る、から、早く…戻ってくれ…」

『もー!まっすぐ戻ってよ!?道草食わないでね!?』

「あー…うん…、はいはい」


適当にあしらわれ、憤慨ふんがいしつつも少女はふわっとかき消えた。

奏の中に戻ったのだ。

ちなみに、幽霊は日陰ひかげじゃないと姿を表せない。

つまり少しぐらい道草食っても日向ひなたなら出てこれないので文句は言われない…、というより言えないのだ。

これは奏のよく使う常套手段じょうとうしゅだんである。




ー→↑↓←*→↓↑←ー




「うわ、今日は厄災やくさいでもあんのか?天は俺を見捨てた?」


いくら悪霊に憑かれたからといって、生まれてからずっと憑かれてるので体調が崩れるなんてれっこだ。

10分ちょっとすればいつもの奏である。見た目は。

気合いで抑えているだけなので、激しい運動もダメだし、無理してやればすぐに倒れるだろう。

奏は弁当を食べ終わり、買ったパックのカフェオレに刺したストローからずぞぞっ、とお行儀悪く音を立てて飲みながら外を見ていた。

奏の学年の2年生の教室がある三階は、運動場が綺麗きれいに見える場所だ。

この間の席替えで偶然ぐうぜん窓際になったので、昼休みは弁当を食べ終わるとほぼずっと運動場の鳥たちと生徒をながめている。

悲しいかな、ほとんどぼっち!

だが、今日は少し違った。

アストラルが来た。

アストラルとは、奏と同じように霊を見ることができる人、霊士れいしと呼ばれる人たちが入る組織だ。

何かしらの能力が付与ふよされた武器を使い、悪霊も善霊も関係なくる。

本来ならば奏も霊能力者なのでアストラルに入るべきなのだが、奏はこの誰彼だれかれかまわないのが性に合わず、かくすことを選択した。

もちろん大量の霊に憑かれているのだ、霊士たちは当然奏に気づき、悪にまったとかなんちゃら難癖なんくせつけて攻撃してくること間違いなし、大変アブナイ。

そこで奏は、オーラ?的なやつを善霊たちと共同きょうどうで隠した。

(なお、悪霊は協力なんざしない。)

そして無論むろん、悪霊と善霊のバランスが釣り合っているからこそできる芸当げいとうだ。

だから、今奏はさきほどの悪霊の件でバランスが崩壊ほうかいし、オーラも隠しきれていない。

あっからさまにやべぇドス黒いオーラをバンバンに放つ奏を見れば、霊士たちはさぞおどろくだろう。

ただでさえ霊を見ることができない人たちが感知するほどの強い波動オーラ

それを霊を見ることができる人が見たら?

結果はわかりきっている。

悪霊に成りわられたと思われるだろう。

ほぼ100%。


「どうしよ…」


見つかれば悪霊として攻撃される。

ならば見つからなければいい?

そんなに甘くはない。

霊士たちの表向きの立場は点検業者だ。

だから隅々すみずみまで、それはもう隅々まで見て回る。

逃げ場など存在しない。

奏はもう一度呟いた。


「どうしよ…」




元夜の神も、猫のように固まることだってあるのだ。……………たぶん。


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灰色ぐれえ図鑑!


銀月奏ぎんづきかなで

平均よりちょーーーっと下の身長(本人談であり事実は真なる低身長)。

プラスイケメン(ちょいショタ気味?中間?)というどっかの性癖せいへきにドストライクしそうな童顔どうがんの見た目高校生。

これでも細マッチョであり、まぁまぁ力持ち。

遠いご先祖がはらい屋だったとかなんとか。

幽霊が見える・触れる・喋れるの三拍子フルコンボが決まった上にプラスワンと言わんばかりに霊媒体質な少年。

めっちゃ幽霊に憑かれていて、精神的な負荷が常にかかっているためへこたれにくい。

元というか前世は夜の神で、最高神であり、姉でもある陽の神の秘書的なことをしていた。

姉との思い出、白いゼラニウムの花畑を興味本位で燃やされたことで危うく邪神に堕ちかける。

寸前で自制できたものの、消耗が激しすぎたので、人間になって力を回復している。

必殺技は『スーパー無知ショタスマイル』。

別名『営業スマイル』ともいう。

属性は主に闇。

正確に言えばオールラウンダーなのだが、なんせ元は夜の神であり、なりかけとはいえ邪神なので、どうしても闇に傾く。

能力は後日説明。


ちなみに余談だが、姉との思い出の場の花園に咲き誇っていたのはゼラニウムではなく、『紫苑しおん』という花で、薄紫と白がある。

紫の紫苑しおんの花言葉は、「あなたを忘れない」「遠くにある人を思う」「追憶」。

白の紫苑しおんの花言葉は、「どこまでも清く」。

なお、白のゼラニウムの花言葉は「偽り」「私はあなたの愛を信じない」とされている。



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やぁ。作者こと天音だよ。

興味本位で初めて見たはいいものの、なんか自分の執筆の腕が落ちている気がするんだ。

最近、朝の出来事も思い出せないし、立ち上がったら何をしようとしたのか忘れたり…。

そこで、天音は思ったんですよ。


────はっ!まさか…!これが、『老化』!?!?



いやいやいや、私まだピッチピチの十二才で…、そ、そう言えば最近体重計乗ってない…。

脇腹に駄肉が…、せ、鮮度が落ちてる!!?!

ちょうどいいダイエットの方法ってありませんかね?

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